第5話 弱体紋
ズシリとしたものが俺にのしかかったような感じがした。何かを背負っているかのように全身が重く少し気だるさがあるようだ。今まで持っていた剣も今までよりも少し重くなったように感じた。幸か不幸か、着の身着のまま棄てられたので制服姿なのだが、あの騎士みたいな全身鎧を来てたら、動くことも億劫なくらいになっていただろう。
身体を動かすこと自体は出来るが、先程と同じような身のこなしは多分出来ないかもしれない。その効果は微々たる物といったらそうかもしれないが、確実に俺の身体に影響を及ぼしているのがわかる。
「これが弱体紋の効果なのか? 予想以上にヤバいかも」
先程は魔物をあっさり倒せたので正直甘く見ていた。意外となんとかなるかもしれないな、と……
でも、それは間違いだと悟った。たった一匹の魔物を倒しただけで、これほどまでに身体が重くなる。ここは魔の森。抜けるまでにどれだけの魔物と戦わなければならないのだろうか。そして、戦えば戦う程弱くなるこの弱体紋の力は、じわりじわり、と俺の生き残る確率を下げていくことは明白だった。
どれだけこの魔の森が広いかわからないが、出来れば魔物に遭遇はしたくない。遭えば遭うほど死の危険が飛躍的に増していく。遭えば逃げるしかない。でも逃げられない状況だと倒すしかない。倒せば俺自身が弱くなる。弱くなれば動きも鈍る。そうすると逃げ切れにくくなっていく。負の連鎖だ。なかなかに厳しい状況だ……
俺は背筋が少し寒くなったように感じた。冷や汗をかいているのだろう。本能は死が近づいていることを悟っているからだろう。でも俺は立ち尽くしながらもなんとか抗おうと思考を張り巡らせた。と、その時、先ほどの魔物がいた所にある宝石のような物が視界に入った。
「そういえばさっきの魔物、宝石みたいのに変わってたな」
そう言って俺は先程の魔物が変化した宝石のような物を見つめた。まだ死ぬつもりはない。この世界のシステムは知らないが、この宝石は換金とかが出来る物かもしれない。持ってて損は無いはずだろう。
魔の森から抜け出たとしても、この世界で生きていかなきゃいけない。手探りにはなっちゃうけど、少しずつ慣れてかなきゃならない。
そう思った俺は宝石を拾ってポケットに押し込んだ。
しかし、その時だった。小鳥が一斉に飛び立ち、小動物が逃げ回る。森がざわめいているような感じになった。
ビャォォォ!
ギシャァァァ!
今まで聞こえなかったいくつもの魔物の叫び声が森の中に響き渡った。先程の戦闘で周囲の魔物が気がついたようだった。戦えば戦うほど弱くなる俺に対して、多数の魔物が襲いかかってくることが容易に想像出来る。
俺は背筋が凍りつき、全身から冷や汗が出るのを感じた。
「くそ! マジかよ!」
魔物の習性を、俺は知らない。
俺はこの場に留まるのは得策じゃないと思い、行く宛もない中、無我夢中で駆け出したのだった。
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