第3話 廃棄

「おい! なんなんだよ急に! 出せよ!」


 両手を縛られた俺は薄暗い中で、扉にはめ込まれた鉄格子をその両手で掴んで外に向かって叫んだ。ただ、外には誰もいないから返事なんか来るはずもない。

 鉄格子がはめ込まれた扉。そう、ここは牢屋なのだろう。俺は別に悪いことなんかしてないのに牢屋に閉じ込められるなんて、とんだ仕打ちだな。

 こうなったきっかけはステータスを調べた時だった。俺からは見えなかったが、そのステータスに何か問題があったんだろう。

 そして、その問題はこの右手の紋章に秘密があるに違いない。早く調べるようにアメリアが命令してたしな。


 ステータスが良すぎて逃げられないように確保したのか、その逆か。ただ手荒な対応を考えると、前者は考えにくいか。第一、ステータスが高いってなら俺ももっと抵抗出来ただろうに。

 力を貸せって言うくらいなんだから、強いに越したことはない。強ければ歓迎ムードになるだろうに、いきなり牢屋ぶち込むとか普通は有り得ない。嫌な予感しかしない。


 カツーン! カツーン!


 俺が暫く思考を巡らせていると、足音が響きわたった。誰かこちらに向かって来ているようだった。

 目の前にある扉の前でピタリ、と足音が止まるとガチャガチャと音がし、扉が開かれた。

 中に入ってきたのは全身鎧の騎士だ。あの、最初に教室に入ってきた騎士かもしれない。

 ただ、そもそもあの時も顔は見えなかったし、同一人物だとは限らないが。ただその冷酷な雰囲気を漂わせているのは一切変わらない。


「俺をどうするつもりだ!」


 俺はそう全身鎧の騎士に尋ねたが、低く冷たい声での返答しか返ってこなかった。


「今すぐ死にたくなければ黙れ……」


 異世界でこんな強そうな武器を持ってる厳つい奴にそんなことを言われたら恐怖しかない。多分、戦場で何人も……いや、何百人だって殺してそうな雰囲気だ。俺を殺すことに何も躊躇いはないだろう。俺はそう思うと黙り込むことしか出来なかった。


 俺が黙ると、全身鎧の騎士は俺の両手を縛った。その後に俺の後ろに回り込んで目隠しをし、猿轡さるぐつわをかませた。


「おい、歩け」


 縛られた両手がグイッと引っ張られる。俺は引かれるがままに歩くしかない。

 何度もつまずきながら歩いていると、階段を登り、小さな小屋のような物の中に入ったようだった。


「座れ」


 全身鎧の騎士の声だ。俺は席があることを両手でゆっくりと確かめる。目も見えないし、それくらいは許してくれているようだ。俺は席がそこにあることを確かめてからそこに座った。しばらくするとガタンゴトンと動き出した。乗ったことはないが、これは多分馬車だろう。俺を外に連れ出すつもりのようだ。


 かなり長い時間動いていた馬車がゆっくりと止まった。何時間か経ったのだろう。目隠しされている俺には永遠とも感じられるほど長かった。

 

「降りろ」


 冷酷な声が俺に投げかけられる。

 それからまたも両手をグイッと引っ張られたので、俺は立ち上がりそのまま馬車を降りた。


 急に猿轡が外されて目隠しも外され、視界が開けた。すると俺は薄暗い森の中に立っていた。


「ここは何処だ! 何をするつもりだ!」


「ここは魔物の住む森。お前はここに棄てられた」


 俺はごくりと唾を飲み込んだ。アメリアが言っていた。手を貸さないなら魔の森に棄てると。その魔の森だ。ただ、俺は手を貸さないなんて言ってない。なのに何故棄てられる?


「おい! 俺は手を貸さないなんて言ってないぞ!」


 その時、全身鎧の騎士が剣を振りかぶり、真一文字に振り下ろした。

 俺の目の前を音を切り裂いた剣は、縛られた両手を解き放った。が、その剣に驚いた俺は腰を抜かしてその場に座り込んでしまった。


「なんでって顔をしているな? 安心しろ、説明してやる。お前のその紋章は『弱体紋』という紋章だ。戦えば戦うほどステータスが下がっていく呪われた紋章。役立たずのお前はここで野垂れ死ね」


 ステータスが下がっていく紋章だって? 弱くなっていくってこと? でも、だからといって俺を魔物が棲む森に棄てる必要はないじゃないか! 解放するなり、雑用で使うなり何でも出来るはずだ!


「なんでだよ! 別に棄てられる必要もないじゃないか?」


 俺の言葉に全身鎧の騎士は冷たい声で答えた。


「異世界召喚は出来る御方も聖女様に限られ、しかも、おいそれと出来る物ではない。我が国が異世界召喚を行ったことが他国に知られれば手を打ってくる国もあるかもしれない。異世界召喚された者を野放しにすることは出来ないんだよ。そしてお前は役立たず。国としても面倒を見る必要もない。だからお前はこの魔の森に棄てられる」


 そう語ると全身鎧騎士は馬車に戻ってから、俺の目の前に持っていた剣を放り投げた。


「せめてもの手向けだ。魔物から身を守りたかったらこれでも使えばいい。魔物によっては何度かは戦えるかもしれないな。ま、戦えば戦うほど弱くなるお前が生き残れる訳はないがな。幸運を祈るよ」


 そして馬車は去っていってしまった。

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