第2話 知らない紋章

立花たちばな君はどんな紋章なの?」


 俺は背後からかけられた声に振り向いた。声の主は俺の後ろに並んでいた高木たかぎ 恵子けいこ。俺の肩くらいの身長の女子だ。髪の毛は肩くらいまでの長さでウェーブがかかっていて少し茶色い。


「ん?  ああ、こんな感じかな」


 俺はそう言って右手を差し出した。そこに現れた紋章を高木は真剣な表情で見つめていた。


「なるほど、って見ても何もわかんないけど」


 そう言って高木は少しだけ笑った。多分不安なのだろう。こんな状況だし、誰かと話してでもいないと落ち着かないのは無理もない。


「お、ケントの紋章はそれなのか? 俺のはこれだぜ」


 高木の後ろからひょっこりと顔を出したのは鮫島さめじま 秀明ひであき。小学校からの付き合いで俺の事を下の名前で賢人けんとと呼ぶ。その鮫島が俺の右手の横に自分の右手を差し出した。


「へぇ。結構違うもんなんだな。ヒデと俺のじゃ全然違う」


 俺は両方の紋章を見比べながらそう呟いた。高木の言う通り見ても何の紋章かはわからないけど、違うということはわかる。


「あ、立花君の番だよ?」


 高木の言葉に振り返ると、どうやら前の人が終わったようでちょうど居なくなったところだった。

 俺はフードの人物の前に立って右手を差し出した。

 すると、俺は両手で右手をガシッと掴まれた。触れられた手の感じからは男性のようだ。

 その男性はかなり長い間、紋章を眺めていた。


「この紋章は……初めて見ますね……」


 しばらく後にフードの男はそう語った。俺の紋章は皆とは違うようで彼も知らない紋章のようだった。


「書物庫に資料があります。これは後で調べないと判明しませんね。とりあえず保留ということにしておきましょう。次の方、どうぞ」


 紋章の調査は一旦保留で終わったようだった。俺は一歩横に避けて自分の紋章をじっとみた。


「わからないってどういうことなんだろう」


 俺が疑問に思って首を傾げていると、背中をポンっと叩かれた。高木も紋章の調査が終わったようだった。


「なんか皆あっちに行ってるよ? アメリアさんだっけ? 座ってる前に水晶玉みたいのが置いてある。私たちもあっちに行こうよ」


 高木が指をさす所には調査が終わった人たちが集まっているようだった。ちょっとした人だかりになっている。俺は高木と、紋章の調査が終わったばかりの鮫島と一緒にその場所に向かった。


「次はこの水晶玉に触れて頂きます。これで貴方たちのステータスを調べさせて頂きます。紋章の力もありますし、戦うことで強くはなりますが、この段階での皆様の強さを確認しておきたいのです」


 とはアメリアの言葉だ。どうやらあの水晶玉でステータスが見れるらしい。俺は少しワクワクしてしまった。

 ゲームやライトノベルのような世界に来たんだ。紋章はよくわからなかったらしいけど、ステータスはどうなんだろう。これもわからないってことはないよな、やっぱり強いといいなぁ。


 先程と同様にアメリアの前に順番に並んだ。俺は順番を待つ暇つぶしにと高木と鮫島と話しをした。高木は魔導紋という紋章らしい。魔法が得意そうな名前の紋章だ。鮫島は剛力紋。力強そうな名前だ。武器とか使うと強そうだ。


 そんな話をしていると、俺の順番になった。俺は何気なく水晶玉に掌を置いた。


「こ、これは!」


 アメリアがとても驚いている。俺からはステータスは見えない。


「ん? どうしました?」


 俺が尋ねるとアメリアは振り返って後ろにいたフードの男に話しかけた。


「もしかして! すぐにこの人の紋章を調べなさい!」


 慌てた様子でフードの男が部屋の外に駆け出していった。恐らく書物庫にでも向かったのだろう。アメリアの驚く様は尋常ではなかったし、周りも動揺しているのがわかる。多分ステータスが凄かったとかで、俺の紋章が実は凄いのがわかったとかなのかもしれない。


「おい、お前はこっちに来い!」


「なんだよ! イテテッ!」


 俺は手荒に騎士に引っ張られた。

 あれ? 凄い紋章にして扱い乱暴じゃない? なんで?

 俺は突然のことに混乱してしまう。


「あ! 立花君!」


「おい! ヒデ!」


 高木と鮫島の声、他のクラスメートの声も聞こえる。でも、突然のことで誰も止める様子はない。俺は部屋の外に引っ張りだされたのだった。

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