真実は「独裁政権」に屈するのか!

川線・山線

第1話 独裁政権に立ち向かうが

「セイント・クラウズ州での鉄鋼所ストライキに対する軍の介入は、最高指導者ダイク・タイター書記長の指導能力の欠如」


先週、私は民主派組織「風に吹かれて」の機関紙、「自由な車輪」に上のような記事を書いた。もともと我が国は、集団指導型の社会主義国家だったのだが、ダイク・タイターが書記長に就任してからの、この15年は「悲惨」の一言である。タイターを含め16人で構成されていた、国家の最高意思決定機関であったはずの「国家運営委員会」は有名無実化し、タイターに意見する委員はことごとく粛清され、今では委員は全員がタイターの子分同様になってしまった。


タイターが書記長に着くまでは、さまざまな主張を唱える「政党」は合法で、各政党から選挙で国家運営委員を選出していたのだが、15年前の熱狂的なタイター支持の声で成立した「国家運営委員会」は結局、一人の独裁者を生み出したに過ぎなかった。


支配は最初はゆっくりと、そして気づけばすべてはがんじがらめになっていた。


私の属する「風に吹かれて」も、今では非合法組織に指定され、本部を転々としながら、「自由な車輪」を発行して、同志にタイター体制への批判、本来あるべき「国家運営委員会」の正常化を訴え続けている。


しかし、タイターに支配された国家は我々のようないわゆる「民主化」を訴える団体をことごとく「非合法組織」に指定し、彼の設立した「秘密警察」があらゆる手段を通してそのような組織、人物を摘発して、「反タイター主義更生施設」へと送り込んでいる。いや、その前に、秘密警察内で殺された人たちがどれだけいることか。

 

また、タイターは国境を接する隣国への威嚇も忘れない。我が国はもともとが工業国家であり、大きなウラン鉱脈も持っていたことから、秘密裏に核兵器を開発してしまった。核兵器を持ってしまっては、他国も容易にわが国を攻撃することはできない。私が生まれたころには、「世界平和を推進する」ことを国是としていたはずなのだが、今ではタイターのためにすっかり「ならず者」国家扱いである。


独裁が進むにつれて、国民の所得に対する課税も厳しくなっていった。ただ、独裁国家のほとんどは、最高権力者に富が集中するものだが、タイター自身はあまり金銭欲はないのだろう、彼自身は質素な生活を続けており、酷税の多くは軍、秘密警察、そして彼の政党に流れている。


一応「国民のため」という名目で、食料は配給制で相応のものが与えられ、医療費などの社会保障も充実はしている。しかし、「自由な発言」が許されない息苦しい社会はまっぴらだと思い、私はこの組織に身を投じた。何度秘密警察に捕まりかけたか分からない。他の組織が完膚なきまでに破壊され、更生施設や秘密警察で、国家運営の正常化を求めるたくさんの同志が命を落としていった。


11月の寒い夜だった。3日前に移ったばかりの本部で、機関誌に掲載するための原稿を執筆していた時、突然、


「うごくな。貴様たちは「風に吹かれて」のメンバーだな。我々は秘密警察だ。貴様たちを検挙する!」


との声と同時にたくさんの警察官がなだれ込んできた。不意打ちである。数少ない我々では太刀打ちできない。あっという間にメンバー全員が逮捕された。


秘密警察での拷問はあまりにひどくて思い出せない。何の目的もなく、ただ我々の苦しむ姿を見て喜んでいる秘密警察官。人はどうしたらこのような悪魔になれるのだろうか。


さんざん拷問を受けた挙句に、裁判を受けることになった。ボロボロに傷つき、立つこともままならぬ状態で、裁判所の法廷に立たされた。


検事は


「被告の書いた記事、『セイント・クラウズ州での鉄鋼所ストライキに対する軍の介入は、最高指導者ダイク・タイター書記長の指導能力の欠如』の文章で、『ダイク・タイターの指示は朝令暮改、自分が先にどのような指示を出したかを忘れたかのように、正反対の矛盾した指示を出し続けている。鉄鋼所の人々や軍がどのような状況にあるのか、それさえも分かっていないようである。極めて混乱した状態であり、タイターは認知症を発症しているのではないかと懸念している』と書いている。この文章は極めて由々しき問題である」


と厳かに告げた。もうこの国では、政治犯とされた被告に対して弁護士をつけることを禁止されている。形だけの裁判である。


そして裁判官は私に告げた。


「判決。被告を有罪とする。罪名は『国家秘密漏洩罪』、5年間の更生施設での教育とする」


と。


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