誰にも言えない

やまのでん ようふひと

第1話 僕の所為

 僕は・・・

僕は本当の人殺しなんだ!


 自分の不思議な力(?)に気が付いたのは、僕が中学生の時だった。

 これを力と言ってよいのか分からないが、言い方が分からないのでそう呼ぶことにする。


 何故だか分からないが、

 僕が強い恨みを持った相手は必ず一週間以内に死ぬ。


 一度だけなら偶然だと思えるのだが、これが二度や三度ではない。死因は突然の病気だったり、事故だったり、事件だったりと多種多様なのだ。

 これが余りにも的確に重なる。だからこれは強い恨みを持った僕の得体の知れない力の所為だと、そう思わざるを得ない。

 そう思ってからは、できる限り人を強く恨むことは避けようと思ってきたのだが・・・


 何故この力に気が付いたのか。実はこんなことがあった。

 中学の時だ。

 中学生になって初めての正月。もう子供じゃないのだからと年始の挨拶をするため一人で父親の実家を訪ねた。その実家は地域の名家で結構裕福な家だった。お年玉をもらって、いろいろな会話をしているうちに僕に対して祖父がこう言った。

「お前の父親はどうしようもない出来損(できそこ)ないだ。あいつの親として実に恥ずかしい。」

 その言葉を聞いた途端に僕は祖父を強く恨んだ。

「何でそんなこと言うんだ。俺の親父に対して。しかもあんたの息子だろうが。」

 そして腹の中で思った。

「死んじまえ!」


 その五日後、祖父は心筋梗塞であっけなく死んだ。

 今は確かに僕の父親はどうしようもないダメ人間だったと確信している。

 何故ならまだ僕が小さいころ、父親はある商社の営業の仕事をしていてその取引先の重役の令嬢に独身を装い、言い寄ったという。そのことが発覚して会社を首になり、やけくそで始めた事業では多額の負債を抱え、親(つまり僕の祖父)からもらった土地と建物を借金返済のためたたき売ってしまった。

 しかし返済しきれずに、挙句が借金取りに追われた。そこで家族を置き去りにして身を隠してしまうという有様。

 その後祖父の図らいがあって親族が経営する会社からお情けで仕事を貰えるようになった。

 こうなった以上反省して真面目に細々暮らしているのだろうと思いきや、相変わらず借金して一人で旅行に行ったりのグウタラだった。

 だから祖父が出来損ないと言っても何ら不思議なことではない。

 しかし当時の僕はまだ小学生で、詳しいことは何も知らなかった。高校を卒業する時、初めてこのことを母親から聞いて唖然としたものだった。

 その父親に対しては、

「なんてこった。」

 それしか思わなかった。だからまだ生きている。


 何故ここで気が付いたかというと、同じようなことが過去にもあったのだ。

 小学校六年生の時、これは母方の祖父のことだ。

 父親が事業に失敗して地元に疎開した時、母方の祖父が訪ねてきた。

「事業に失敗したくせに、この家の畳にはヘリが付いている。贅沢だ。もっと安いところでいいんだ。」

 この一言が悔しかった。

 「俺たちを馬鹿にしやがって、悔しい!」


 三日後、道を歩いていた祖父は車に轢かれて死んだ。轢いた車の運転手は酒飲み運転だった。


 その時は自分が恨んだから死んだとは全く思わなかった。

 今思えば僕が双方の祖父を恨んだからの結果だと思っている。馬鹿にされた全ての原因を作ったのは親父だったにも拘らず。

 とにかく今は祖父たちを恨んだことを悔やんでいる。

 そう。僕が二人の祖父を殺してしまったと。

 ただもうこうなってしまった以上、僕がいくら後悔しても今更どうしようもないが・・・


 次の一件。

 僕は高校を卒業して就職した。その就職先でこんなことがあった。

「お前は何て物覚えが悪いんだ。この出来損ないが。」

 僕は職場の上司から出来損ない呼ばわりされた。

 最初は本当に作業手順がなかなか覚えられなかったので怒鳴られても仕方がないと思っていた。やがて努力が実ってどうにかミスをしないで作業ができるようになった。

 しかし上司は、

「遅い! お前は給料泥棒だ。」

 と、僕を罵った。

 挙句は、

「もう、やめちまえ!」

 毎日の罵声に耐えきれなくなった。

「死んじまえ!」


 翌日上司は機械に挟まれて死んだ。作業時はしてはいけないと就業規則で決められている軍手をはめて作業をして、回転する大型ローラーに巻き込まれた。上半身がぺしゃんこに潰されるという酷い死にざまだった。

 上司はこれまで仕事中に軍手などはめたことなどなかったのに、何故この日だけ軍手をしたのか、その訳が分からない。


「俺が殺したようなもんだ。」

 僕は震えが止まらなかった。


 やはり僕には得体の知れない力があるんだと確信した。

 何故こんな力があるのかとさんざん考えたが、答えが出る筈など無い。

 もう人のことを強く恨むことは止めよう、と思った。


 しかし、恨むことはヒトの常だ。止めることなど出来なかった。

 そして当然のように次の事象が起きた。


 好きな女性が出来た。

 同じ職場の事務員だった。相手もまんざらではなかったようで、頻繁にメールのやり取りをするようになった。デートも休みの度に重ねた。

 そんなある日、親を紹介すると言ってきた。

 正直、嬉しかった。勿論、即承諾した。

 しかしその翌日、その女性がうつむきながら言った。

「絶対に許さん!」

 そう父親から言われたという。

 更に、

「高卒の男なんか相手にするな。身分が吊り合わない。」

 これには腹が立った。見下した父親を呪った。


 五日後、その父親の訃報を聞いた。不運にも暴力団の抗争事件に巻き込まれ、流れ弾に当たってしまった。救急車で病院に運ばれたが、亡くなってしまったという。


「まさか、こんなことがあるのか。

 信じられない。

 また俺の所為だ。」


 いくら反対されたからと言って、こんな結果になるとは、と苦しんだ。

 申し訳ないことをしたと謝りたかったが、そんなこと言える筈もない。


「どうしたらいいんだ・・・・」


 会社を辞めた。

 もう余り社会との関わりを持ちたくないと思ったからだ。


 こんなこと誰にも言えない。もしも言ったところで誰も本気にはしないだろうし、僕のこと、気がふれているくらいにしか思わないだろう。

 でもこれは事実なんだ。


 僕はこの力を、これからどのように使ったらいいんだ。

 嫌、使いたくなんかない。

 怖い。物凄く怖い。


 こんなこと、誰にも相談などできない。

 できっこない。

 これは僕の、僕だけの秘密なんだ。


 会社を辞めた僕は暫く部屋に籠った。

 スマホを見た。

 世界のあちこちで理不尽な戦争が起こっている。そのことに暗い気持ちになった。

 と、一つの記事に目が留まった。

 その記事は戦場の悲惨さを伝えるものだった。

 多くの女性がレイプされ、その後首をナイフで切られ、殺害されているという内容だった。しかし犯行を犯した側はしらを切っているという。

 怒りが込み上げてきた。どうしようもない程の怒りが。


 この怒り、もしかしたら・・・・・


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