第3章 【秘密と裏切り】

第14話 【優秀】

集団宿泊研修が終わった俺たちは、定時制での生活にようやく慣れてきた。最初の定期テストまであと半月。その間、伊川は、○○先生の授業の時だけ、教師をじっと見つめていた…。隙など見せぬように、注意深く観察している…。伊川のことは信じてるけど…○○先生が誘拐事件の黒幕だなんて、信じられない…。毎日、廊下で待っていて、登校してきた生徒にいつも、挨拶してるのにそんなことするなんて…




「なぁ、伊川。○○先生のことなんだけどさ…本当に黒幕なのか? あんなに生徒に挨拶してるのに……。」


[あいつは…長年教師という職を務めてきた、海に千年河に千年いたように、他人にどう思われるか、どう思われたら得か、それらを考えさせたら、我々、若輩では到底及ばない…。]


[私だって、推理力、観察力で勝てたとしても、生きてきた時間では勝てやしない…。もしこの学校で、あいつに勝てるとしたら、それこそ校長くらいじゃないかね…]


「そぅ…なのかな……でも、話し合ってみるってのは、どう?」


[お前は、阿呆か…。本気で言ってるのだとしたら、相当におめでたいな……。誘拐の協力は立派な犯罪だ。罪の自白をする人間なんて居るわけないだろ……。]


[そぅ……今すれ違った、小岩井と浜岡のように。]


「えっ!? 今なんて?」


[うん? 気づいていなかったのか? あいつらは、何かよからぬことを、企んでいるぞ]


「浜岡くんたちが? 一体何を…」


[さぁな…ただ、教師たちの出勤時間、休憩時間、退勤時間、トイレに行く頻度、煙草を吸いに行く時間など、取れるだけのデータを取っているようだよ。日によっての交代で昼頃には、来てデータを取っているようだ。]


「なんで…」


[さぁ…興味ないからな]


「なぁ……それを、どうし(プルプルプルプルプルプル)


[誰だろうな、こんな時間に私に掛けてくるなんて…、渡、また後でな]


「おっ、おう……」








キーンコーンカーンコーン キーンコーンカーンコーン




『さぁ、伊川くん、この数式の解、分かるかい? 』


[分かりますが…私に当てるより、他の者に……]


一斉に目を逸らす…生徒たち……


(お前ら…諦めるなよ……これはまだ、中3に片足突っ込んでるんだぞ…)



『黒板に、式と解、書いてちょ』


[は……はい…]


スラスラ…スラスラ…スラスラ…スラスラ…㌧


[こんなもんですかね……]


『うん!! 合ってる。いやーさすがだねー。予習してきたんだーねー。んじゃ、君は、これから、つまんなくなるだろうから、先に、これ解いてていいよー。後でみんなにも配る、おしゅくだい、です。』



『やっぱ、めっちゃ難しいよな…』『入って手に入れるしか……ねぇよな…』『やれっかな……』『その為に俺ら、頑張ってんだ、頑張ろうぜ…』




『なぁ~、浜岡、小岩井。お二人さん、仲がいいのは、とってもいいことなんだがね~、授業は聞いてほしいかな~』


『あっ、すっ、すいません……』

『すみません…』









キーンコーンカーンコーン キーンコーンカーンコーン



『はい、今日は、ここまで……気をつけて帰るんだよー』

[起立、気をつけ、礼]

『ありがとうございました』




「なぁ、伊川、校門まで一緒に帰らないか?」


[うん? 悪いな、私は少し校長に用がある…]


「そっか…んじゃ、また来週」


[あぁ……。(悪いな……渡)]










コンコンコン

『はい、どうぞー』


[失礼します……。]


『こうやって直に話すのは、何年振りですかねー』


[さぁ? 忘れましたね……]


『あなたのお父上の御葬儀の時でしたよね…』


[よく覚えていますね……校長。ですが、私にとって父は伊川以外にはおりませんから……]


『あなたは政治家のお父上を毛嫌いしておられる…お変わりないようですね……安心しました。』


[そんな、昔話をするために、呼んだわけではないのでしょう? 直通電話なんて、あなたにお教えしたことないのですが、一体誰に聞いたのでしょう? ]


『あなたの姉上ですよ。義理の方です。』


[暇なお役人ですか…はぁ……]


『きっと、あなたのことが心配なのですよ。定年間近の私をこの学校の校長に捩じ込む程ですから。』


[権力の暴走……職権乱用…甚だしいですけどね…まぁ、あなたには申し訳なく思います…。]


『いいえ、旺司くんには、返しきれない程の恩があります。たった1年ですけど、見守らせてください。』


[また、古い話を…一体何年前の話をしているのです? もぅ、過ぎたことでしょうに……それに、あれは単なる気まぐれ…]


『古くなんてありません、あなたがその気まぐれを発揮していなければ、もし、私を助けてくれなければ、今ここにはいません……その節は本当に、お世話になりました。』


『当時は、痴漢冤罪なんて、認知されていない時代……あなたが、真犯人を指し示してくれなければ、私は……』


[う゛ッう゛ッん、話が逸れ気味です。本題を……]


『あっ、そうですねー。歳は取りたくないものです。ついつい、長話が過ぎてしまいます。』


『元法務事務次官、現外務事務次官である、伊川 有司殿からのお願いは、とある生徒の監視及び報告だそうです。』


[あぁ、今は外務事務次官でしたか……興味が無さすぎて、知りませんでしたね、外務ということは…彼の生徒ですか…]


ガタッ


『えっ!? 言わずとも分かるのですか? 』


[まぁ、一応、これでも探偵ですから…。確認のため、せいので、言いますか?]



[せいの] ・・・・・

『せーの』・・・・・



[合っていましたね。では、引き受けます…ただし、報告まで、それ以上はしないと、暇を持て余して、盗み聞きが趣味になった姉上にお伝えください。]

[失礼しました]




ガタッガタガタ


『あちゃー、バレちゃったかーw』


『だから、あれ程言いましたのに、義弟殿にバレますよと…』


『いいの、いいのー。バレなきゃ詰まんないしーwww

それに、今の旺司の実力知りたかったし……』


『御眼鏡には敵いましたかな? 』


『全然……今の旺司は、ダメだな…。』


『えっ…』


『昔の旺司は、あんなに鈍くなかったよ…。それにあんなに秘密主義じゃなかったしね…』


『それほど、昔の義弟殿は、優れていたのですか……』


『優れてたってもんじゃないよー。もし、本気になったら、この国の秘密なんて、ぜーーーーんぶ晒されてたねwww』


『今の旺司も、優秀だけど……相棒得る前より…グズになってる……ちょっと心配…』



























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