第12話 【誘拐】

『さっ、説明してちょうだい! 』


[流れてきたのは、トン、と、ツーです。情報処理部顧問の林田先生、化学部顧問の小島先生、心当たりは? ]


『えっ!? まさか!?』『モールスか…』


[ええ、その通り、モールス信号です。流れてきたのは、

トン トン トン ツー ツー ツー トン トン トン

です。


意味は、S O S。助けて です。]


[つまり、誘拐された、と考えるべきです。]



『そんな! 』『まさか!? 』『…!? 』『本当なの?』


『でも、どうして? 断言できるの? 』

『…思い過ごしってことも……』




(なんだ…コイツら……)



[てめぇらは、揃いも揃ってバカなのか !!!!]


(いかん…冷静に……)


[ふぅ……仮に、誘拐でないのなら、なぜ、口で伝えない? なぜ、文字じゃない? なぜモールスなんだ? ]


[口で伝えないのは、話せない状況にあるから。口を塞がれているか、犯人が声の届く範囲にいるから。文字じゃないのは、後で犯人に携帯が見られてもいいように…。モールスなのは、携帯が見えなくても、叩けばいいだけだから。

こう考えれば、全て筋が通る。]


『証拠は?』『考えすぎでしょ…』『…!!』『飛躍しすぎよ』



[はぁ……なら、どうするんだ!! ]


『どうって…ね……』『警察に…』『私たちで探しましょ』

『……』




(やはり…ガキの言うことなど……耳には届かないか…)

[勝手にしろ……他の生徒を外に出すなよ]



カツッ カツッ カツッ



廊下を曲がる…


「よっ!! 相棒。俺も行くぜ。」


[っ!? なぜ…。さては聞いていたな……]


「おうっ!!」


「だがよ、あては、あんのかー?」


[なくはない……だが、そこへ行くと、もし違っていた時、間に合わない。]


[だから、少し調べてから行く。]


「何を調べんだ?」


[まずは…現場だな……]








[渡、脚立抑えててくれ]

「オッケー」



[A組の女子部屋のベッドの辺りには、小さな穴が空いていた…そこから何かをした?……いや…無理だな。仮に眠らせたとして、どうやって運ぶ? …窓を抉じ開けられた形跡はない…]


「どうだー?」


伊川が飛び下りる


[何もなかった…]


「何もない? なら、どっからー? まさか透明人間じゃあるまいしー」


[何もない…もし何もないが事実なら、広松が自ら出たことになる]


「態々、誘拐されるために? 外には出るなって言われてたろー?」


[そうだな…だが、トイレならどうだ? 生理現象まで禁止にできるか? 仮に禁止にしたとして、なぜ守る? 先生が扉の前に陣取ってる訳じゃない。トイレのための少しの時間なら構わないって考えるのが人間の心理だろ。生理現象なら尚更、我慢できるものではない…意図して失くすことなど、できはしないのだから。]


「どうやって、誘発するんだー? 広松次第だろー? 」


[2通り考えられる……利尿剤ないしは下剤を飲ませたか、若しくは、誰でもよかったか…]


「そんなバカな!? 薬飲ませた? そんなの無理だろー。それに誘拐するのに誰でもいいなんて、ありえないだろー」


[薬を飲ませるのは内部に協力者がいれば……可能だ…証拠はないがな…]



「誰だよ? 施設の人か?」


[教師か…生徒……]


「ありえねぇな。施設の人なら、まだしも…そんなことあるわけねぇよ!!」


[ある有名な小説の一説に…

When you have eliminated the impossible, whatever remains, however improbable, must be the truth.

が、ある。和訳すると…不可能なものを除去していって、残ったものが、どんなにありそうになくても、それこそが真実に違いない。がある。

まぁ、本来の文はこの前に、何度言えば分かるの? って意味の言葉がつくがね。私が言いたいことは、自分自身がその事実を信じられないからありえない、って切り捨てるのではなく、不可能だからありえないを積み重ね、真実に歩み続けるべきってことだよ]


「難しくてわかんねぇよ…誰の言葉だよ」


[コナン・ドイルの生み出した、世界で最も著名な名探偵の物語。そぅ……シャーロック・ホームズだよ。難しいか…要するに諦めるなってことだよ]


「分かった……諦めねぇ」




「なら、誰でもいいってのは?」


[誰かに生徒なら誰でもいいと、命令された…ないしは頼まれた……ってこと]


「なんで、そんなこと頼むんだ?」

[西高校の危機管理能力、教師の信頼を失墜させる…もしくは、生徒の中に脅したい人物がいて、そいつへの見せしめ……とかな…何一つ確証がないから…妄想に等しいが…]



「うーん…今の、相棒の推理聞かせてくれよ……」


[ん? 分かった…突飛だが…]


[事件の黒幕は……○○先生だと思う。ただ、実行犯は別だろう…]

< !? >


[何の目的があるかは、知らぬが…こう考えれば全体が見えてくる…その先生は、よくビタミン剤を生徒にねだられていた。もしそれが、ビタミン剤でなく、利尿剤ないしは下剤だったとしても、先生からなら生徒は疑うことなく飲むだろ? 利尿剤は、接種後1時間で効いてくる。それが16時間~24時間続く。だから、消灯の前に飲めば、寝ている頃には効き始めて、トイレに向かいだす。そして、部屋に開けられていた穴は、外にいる実行犯が何処に誰がいるか、ターゲットが部屋を出るタイミングを計るための覗き穴。裏口の鍵はピッキングで開けられる…まぁピッキングができるのなら、合鍵くらい作ってるだろうがな。]


[トイレに複数回、行っているのなら何処かで、実行犯は拐うことはできるだろう……まぁ、薬品か何かは嗅がせたろうがな…だが多少は抵抗されるはずだ…。そこでシーツ。シーツでくるんでしまえば、ある程度は軽減される…ダメ押しの包丁、騒げば刺す。そう脅されれば、抵抗虚しく落ちるだろうな]


「そのあとは、何処へ?」


[山小屋あったろ? ]


「あぁ! 」

[山小屋の周りに、裏口にあった靴跡と同じものが複数あった。おそらく、そこへ……]


「なら、そこに行こーぜ! 」


[いや……そろそろ…]


プルプルプルプルプルプル


[はい、伊川です]


:おっ! 伊川か。俺だ、北条だ。:

[それで、山小屋の方、どうでした?]

:読み通りだ、潜伏はしてたろうな…だが、藻抜けの空だ:

[やはり…。では、そこに、近隣県の地図ありませんか?]

:地図? おっ、あぁ、※※県のあるぞ、なら、※※県か?:

:※※県なら、今日のフェリーで行けるな…:

[いや、※※県の地図があるのなら、そこには行かないかと…地図がないと不安でしょうからね。行くのなら、そこに地図がない近隣県で、なおかつ船で行ける所かと。]

:ないのは、◎◎︎県だな……:

[でしたら、フェリーの港ではなく、島の反対側に位置する、漁港からかと。船くらい準備しているでしょうから。まぁ連絡船は出てますがね。人質がいると無理でしょうけどね…]


:よっしゃ、んじゃ漁港にすぐ向かう:









「いつ、警部を呼んだんだ?」


[島探検の後、施設に帰ったときに電話はかけた。山小屋を見て、あの靴跡を見つけた時、山小屋の持ち主が何者か、興味が湧いただけだったんだがな…そして、記憶にあった人物の名前がでた。だから来て貰ったんだが…まさか…誘拐とは…恐れ入ったよ……]


「俺たちも、行こーぜ」


[私は向かうが、お前には別に頼みたいことがある……]


「頼みたいこと?」



























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