第10話【勇気】
飯盒で米を炊き終えると…伊川が、顎の輪郭を親指と人差し指で何度も何度も擦りながら…やって来た…
伊川は小島先生に視線を何度も向けながら、みんなが集まるのを待っている。
『なぁ、伊川~』
[なんだ? ]
『ものすごーーーい速さで、何か切る音がそっちから、聞こえたんだけど、誰ー?』
[さぁな…私は追い出されたから……知らないんだ。]
<なんか、伊川、照れてねぇか……>
『なんだ? 下手で戦力にならないってか、かっこわりーwww』
『そんなことないよ!! 』
『伊川くんの包丁裁き見せてやりたかったよ。あれはプロだって言われても納得しちゃうよ』
『ビックリしたぜー。どしたんだー、奏? 最近おっかねーぞ』
『えっ!? あー、まぁ、とにかく邪魔じゃなくて仕事出来すぎたから追い出されたんだよー 』
『まぁ、食べよっか~、いただきます! 』
『いただきます』『いただきまーす!! 』
[頂きます。]「いただきます」
『伊川くん……』
{『あれは、五年前の…8月頃だったな…あの日は友だちと公園で遊んでたんだっけ…楽しくて遊び疲れちゃって、うとうとして、気づいたら知らない人の車に乗ってたんだ…』
『それで、怖くなって…どうしたらいいか、分かんなくなってた…それで、ふと、お母さんから聞いた、助けてって、おまじないを車が止まる度に窓の外に向かってしてたんだ』
『そしたら、白いハイネックのお兄さんが、気づいてくれて、手を振り返してくれたんだけど、助けてって気持ちは通じなかったみたい…後で聞いたんだけど、秀二さんって人は、そのおまじないを知らなかったんだって…でも、それを伊川くんに聞いたらしい』
//なぁ、プリンスー//
[ん? ]
//手をさー、人に向けてグーパーグーパーするのって意味あんのかー?//
[どうした、藪から棒に]
//実はさ、車に乗ってた女の子が車の外の人間に向かって、手をさグーパーグーパーしてたんだよー//
[グーパー、グーパー? 聞いたことないが…実際に見せてくれよ]
//手のひらを見せて、親指曲げて、それを残りの指で握ってたんだよー//
[!!!!!!!おい、それ、いつの話だ!? ]
//今日の、ついさっき、15分くらい前かなー//
[走って戻るぞ! 車って言ったよな! どんな車種だ、色は? どっちの方向行った? ]
//えーっと、海の方…、黒の軽…てかどうしたんだよー//
(海…港…倉庫…船……)
伊川の肩を掴んで…
//なぁ、プリンスー//
[知らねぇのか!? テレビやネットで話題になってるはずなんだがな…秀二は、その女の子より遅れてんのな…]
[いいか、それは……助けを求める、シグナル フォー ヘルプ。カナダ女性財団が、DVや誘拐で声を出せずとも外部に助けを求める為に作った、全世界共通のハンドサインなんだよ!]
[勇気を出して、助けを求めたのに、お前は、手を振ったんだろ……その子絶望してなきゃいいがな…]
//そんな…俺……どうしよう…//
[悔やむな! 過ぎたことを悔やんでも仕方ないだろ、お前らしくもない。その悔やむ時間があるならバイク乗ってこい!]
//えっ!?//
[グジグジするな! 探しに行くぞ。]
//あては?//
[ない。だが、この時間、この時期、そして今日は海に繋がる道はほぼ全て混んでるよ。なんてたって、今晩は人でごった返すはずだからな。]
プルプルプルプルプルプル
[北条警部ですか?伊川です。]
:どしたー?:
[未成年者誘拐です。]
:!? 場所は? :
[海側に行ったというのと、黒い軽という情報しかありません、今から我々も向かうんですが、湾岸警備隊と海上保安庁、そして港に警察官向かわせてください。]
:おっし、分かった!:
ヘルメットが飛んでくる
//おーーい、プリンスーー、乗れ!!//
[あぁ!]
//海方面でいいんだろー?//
[とりあえずはな………ん? …今曲がった…紺の軽のナンバー…]
//あれが、どうしたんだよー//
[ナンバープレート見たか?]
//いやー、一瞬だったし…でも"し"の○○-49だったと思う//
[そんなナンバー、あり得ないんだよ。]
[まず、車両番号から…数字は、上二桁、もしくは下二桁に42と49は使えない。死に、死苦を連想させるからって、国交省が欠番にしてんだよ……ただ、希望ナンバー制が出来てから、希望すれば、つけることは出来るが、誘拐する車にそんな車、普通は選ばないだろ…]
[次に登録種別、つまり、ひらがなの方な。自家用車両には、"お"、"し"、"へ"、"ん"、は付けられない。なぜなら、"お" は "あ" と間違えやすいから、"し" は死を、"へ"は屁を、"ん" は語呂が悪いからって付けられない。因みに、"わ" が付いてるのはレンタカーな。]
[以上のことから、推測するに、あの紺色の軽は、偽造ナンバーの可能性が限りなく高い。そんなことする、大馬鹿野郎は、車を犯罪に使ってるか、使おうとしてるやつだけ、だから、秀二、安全運転で、あの軽を追え。]
プルプルプルプル
[もしもし、警部。]
:伊川、そのあとどうだー:
[天ぷらナンバーです。]
・
・
・
・
:ほー!! 相変わらずよく知ってんなー、警察の隠語もそうだけどよー。そんなこと言ってる場合じゃねぇわな:
[港近くのサツキ倉庫です。至急、応援を]
:おっしゃ、すぐ行く!:
//どうする?乗り込むか?//
[警部を待つべきだ…]
パシャッ
□このガキ、キレイな顔してるぜ…そそられるぜ…送信っと(兄貴と)…楽しまなくちゃな…グフフ
『(怖いよ…だれか)だずげて…』
□そんなもの来るわけねぇだろwww
『(あぁ……私…このまま…ママ……)うぅ……うぅ…ヒクッ…うぅ…』
□黙らねぇなら、躾ねえとな…ニタニタ
ブゥーンブンブンブンブーーーーーーーーーン
□なんだ!? バイク!?
[相変わらず…お前は、堪え性がないな……。]
//だって、放っとけるわけねえだろ//
//こいつは任せろ//
[あぁ!! っ?! 秀二、気を付けろ!! 男の左腰にサバイバルナイフ、無理するなよ]
[君! 怪我はないか? ……直に警察が来る。]
ナイフを往なしながら、パンチを叩き込む。
ナイフで刺そうと伸ばす腕を、左に体を捻ることで避け、右腕で締め上げた。締め上げた腕を殴り、ナイフを落とさせ、背負い投げをした。
前より、腕を上げたか……秀二のやつ。
ヒューーーーーーーーーーーーードン!!!…パチパチ
花火の光に照らされる伊川
[花火か…もぅ、大丈夫。よく頑張ったな…君が勇気を出して周りに伝えたから、私は気づけた。君を助けたのは、君自身の勇気だよ。だからそう泣くな…その勇気、大事にね。]
『うっ…ぅん…うん……』
ガサッ……チャキン
□うおーーーーーーーー
グサッ……
伊川は少女を持ち上げながら回転し、男に対し背を向けていた…
[あ…あぁ、すまない…か…顔に傷が…]
//っ!? あいぼーーーーーう!!! このロリコン野郎……てっめぇ//
『おっ、お兄さん…大丈夫?』
[あ…あぁ、だい…じょうぶ…私じゃなければ…すまない…]
:そこまでだ!! って…なんじゃ、こりゃー:
:伊川 !!! だいじょぶかー!!! しっかりしろー!!!:
:おい!! 誰でもいい! 救急車もう一台、呼べー!! : }
『あの時の花火に照らされた、伊川くんの顔…かっこよかったな…(ポッ)』
『奏、さっきから、ずーーーーっと伊川を見てるけど、お熱ですかーw ヒューヒューw さっさと食べないとカレー冷めちゃうよ』
『もぅ! そんなんじゃないよ!! (でも、あの時の伊川くんは、私にとってナイトだったなー)』
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