第5話 【事件】

めっちゃ、冷たい…伊川くん。どうしてあんな風に言われるんだろう…。でも気になるんだ。放っておけないんだ! 犯人にあんな十字架背負わせたままで、放置なんてできないんだよ!!





[いいか!! お前は、ただの学生だ。興味本位で手を出していい山ではない。それに、正義を振りかざすのは、よしたまえ。身を滅ぼすだけだ。]



「だから、なんなんだよ! 俺は非力な学生だ、でも人間なんだ!! 人が亡くなってるんだ。放置なんてできない!! 」



数秒視線を交わし……





(こいつもか…どうして、こういう人間は生まれるんだろうな……なぁ、教えてくれよ…友よ……)







[分かった…答えよう……だが、お前終電はいいのか?]


「あっ、やっべ…。でも聞きたい…どうしたら……」


[いかなる真実が待っていようと、知る覚悟があるのなら、きたまえ。明日は、定時制は休みだが、学校に来るといい。全日の部活のために、学校の門じたいは空いている。中庭で待っている。]








渡 敦也は、悶々としながら帰宅し、伊川 旺司の問うた覚悟を考えていた…





<覚悟…だなんて、一体、何があると言うんだろうか……>

<伊川くんは、持っているからこそそう言ったんだ…彼に持てたんだ、俺にも……>























「おはよう、伊川くん」


[来たのか、どっちでもよかったが……覚悟はあるか?]



「一晩考えた…やっぱり、放っておけないんだ……覚悟はできた! 俺に、教えてください、真実ってやつを……」




(お前もそんな顔をするんだな……)

[いいだろう、最後まで聞いてから、意見を言え…。]


<勿論だとも…さぁ、聞かせてくれよ>



[あの崩落事故は、殺人かと聞いたな、立派な殺人だ…。なぜそう推理したか、それは、落ちた鉄骨を見たからだ。あの死亡した男性は工事現場の作業員であり、鉄骨をトラックで現場まで運ぶ仕事だ。そして鉄骨をトラックからクレーンに吊るすため器具を取り付けるのは、別の人間だ…なぜなら、それをするには資格がいるからだ。

吊るしかたは、鉄骨を横に吊るか、縦に吊るかで、場所が違うがあの時の位置的には縦吊りだろう。本来なら、鉄骨は鉄骨に沿うように鉄骨に対して垂直に付けられバランスの取れるように計算された適当な位置で万力の巨大盤、クランプを用いて2ヶ所~4ヶ所で挟み、クレーンのフックから挟まれた2ヶ所のクランプで適した三角形ができるように吊るす。勿論三角形の頂点それぞれの角度も安全に吊るされるように、計算されている。あのときは2ヶ所だったな。

2ヶ所のうち、1ヶ所、クランプから出ているワイヤーが途中から切れたことによる落下だろう。落下した鉄骨には切れたクランプが片方残っていたが、クランプの位置が…斜めになっていた。普通は鉄骨に沿うように鉄骨に対して垂直に付けられてなければおかしい物がだ。落下の際に、ズレた可能性も否めないが…クランプは相当な力で挟んでいる、そう簡単にズレたりするようなものではない。まぁ仮にそうだとしても、あのクランプの位置はおかしい。鉄骨の中心に寄りすぎていた。あれでは、できる三角形の頂点の角度が鋭角すぎる。吊るされるには、力の分散が均等になっておらず、落ちたとしても不思議ではない。]


[そして、クランプから出ているワイヤーにも細工がされていた。結構な太さのワイヤーだが、切れた断面が2種類だった。普通、千切れるとしたら、断面は全体的に歪になっていないとおかしい。だが、あのワイヤーは、端から中心部にかけて、切り揃われていた。それこそ、鋭利な物で切られたように……。つまり、元々千切れやすいようになっていた、ということになる。]


[そして、潰れた男にも問題がある。なぜ、逃げなかった…かということだ。普通、クレーンが吊るされている間、下には人が居ないように安全確認と整理がされている筈だ。警備員や、作業員の案内でな…。そして彼らも頭上には注意して、仕事をしている。であるならば、なぜ、逃げなかったか、ではなく、なぜ、逃げ遅れたのか、と考えるべきだ。だから、周囲を観察した。するとどうだ…倒れている作業員の手元にはスマホが落ちていた、そして、なぜか潰れたサッカーボールがあった。まぁ、それらの状況を鑑みるに、作業員は電話をしていた、誰とは、端に置いとくとして、内容はこうだ、トラックの下にボールが転がっている、子どもが取るために入り込むかもしれない、その前に、回収しておいてくれ……とな。そしてその男は拾うために潜り込んでいた。そしてトラックの下からボールを押し出して、作業員は出てきた、そこに不運にも落ちてきた…と考えられる。]




[以上のことから、作業員の男を狙った計画的な犯行と見られる。クランプをした人間と、死んだ人間に電話をしていた相手が犯人だろう。]




ヒューーーーーーーー


「……だから殺人だと…なら動機は? 」







[そんなもの知るか…人を殺す人間なんて、皆、頭がおかしくなっている。正常な人間がいくら説明されたとしても、分かる訳がないし、分かる必要もない。なぜなら、正常な人間は人を殺す必要がないからだよ…………自分自身を殺める自殺も含めてな…]


「っ!? そう…そうかもしれない……ならせめて警察に…」


[やめておけ、通報してなんになる? もし仮に君が事件解決に貢献したと、マスコミに知られたら、犯人からの報復を受けるかもしれない。そして、それは、君だけに留まらないかもしれない。身内や自分を危険に晒してまで、するような、そんな良いものじゃないさ。]


「君は放っておけるのか!? 犯人たちは一生、人殺しっていう十字架を背負うし、いつか誰かにバレるかもしれないという恐怖を持って生きていくんだ……それに何より、なくなった人が、あまりに可哀想じゃないか…」


[ふっw君は存外、甘っちょろいな……だがそれがどうした? 私には関係のない話だ。態々矢面にたつ必要もないしな。それに、人間が皆君のように性善説では生きていないよ。]


「なんだって!? 俺をバカにするのはいい!! でも、そうやって誰彼構わず、疑うような、そんな生き方するなよ! ! 人間はそんなに、自分勝手じゃないさ。みんな、どこかで支え合ってんだよ、相手が多い少ないはあるけどさ! 」




(なんだ、その満面の笑みは……これじゃまるで…あいつみたいじゃないか……)









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