秘密の特訓
八万
秘密の特訓
気になるあの子は
五年生になってクラス替えをした時から僕は万里藻ちゃんにひとめぼれ。
万里藻ちゃんはすぐにクラスメイトみんなと仲良くなって人気者。
一方の僕はといえば少数のゲーム仲間と教室のすみっこでゲームの話で盛り上がっているような感じだからまだクラスの女の子と話したこともない。
でも僕は万里藻ちゃんが気になるんだ。
気づけば僕は万里藻ちゃんを目で追っていた。
登校した時の眠そうな瞳。あくびをする小さな口。
友達と話している時の万里藻ちゃんの天使のような笑顔。
男子が掃除をさぼっている時の叱る声。怒った顔。
宿題をよく忘れてとぼけている顔。
ぜんぶ好き。
なのに僕には声をかける勇気がない。
僕はクラスで一番のぽっちゃりだ。
僕なんかが万里藻ちゃんに話しかけたらきっと周りの女子に馬鹿にされるのは目に見えている。
それはまだいいけどもし万里藻ちゃんに嫌われたら……。
そんなヘタレな僕についにチャンスがやってきた!
一か月後の秋の運動会だ。
さっそく僕は家に帰るとランドセルに水を入れたペットボトルをぱんぱんに詰め込んだ。
そして近くの河川敷を日が暮れるまで毎日走り回った。
最初はすぐに息があがってしまったけどだんだんと長く走れるようになってきた。
この特訓は絶対にみんなには秘密だ。
みんなを驚かせてみせる。ぽっちゃりだってやればできるんだって見返してやる。
何より万里藻ちゃんに振り向いてもらうんだ!
――運動会当日
快晴。
ふふふ。ようやく僕の勇姿を万里藻ちゃんに見せる時がきた!
僕は鼻息荒くスタートラインにつく。
心臓が今にも飛び出しそうだ。
「よーい」
パンッ
よしっ絶好調だ!
特訓の甲斐あってか独走状態だ。
万里藻ちゃんも僕の勇姿を見てくれているだろう。ふふ。
さあコーナーを華麗にキメて――
そう思った次の瞬間僕の膝が嫌な音をたてて壊れた。
そして――僕はあろうことか万里藻ちゃんに深い傷をつけてしまった。
謝ってすむ話じゃない。僕が万里藻ちゃんの足にならないと。
それから僕は病院で万里藻ちゃんを全力で支えようと決めた。
万里藻ちゃんの天使のような笑顔を取り戻すために。
完
秘密の特訓 八万 @itou999
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