秘密 ~ヴァンパイア少女と初級冒険者の少年の秘密の共有~

滝川 海老郎

第1話 本文 1500文字

「そこの新人君」

「え、なに僕」

「うん、そう」


 私はエルダ。初級冒険者に一見見える少女だけれども、実は違う。

 金髪ロングに赤い目のどこにでもいるいわゆる美少女だ。


「えっと、名前は?」

「僕はミーシャ」

「私はね、エルダ」

「エルダちゃんも仲間を探してるの?」

「うん」


 こうして握手をする。

 ミーシャ君は革鎧を着ただけの簡単装備に短剣だ。

 初級冒険者だとしたら10歳からなので、おそらくそれくらいの年齢だろう。

 私も革鎧だけど下には赤いミニドレスを着ている。手には魔法の杖だ。


「一緒に冒険しよっか、ミーシャ君」

「ぼ、僕なんかと、一緒でいいのかな?」

「もちろんだよ」

「そ、そうか」


 テレテレとするミーシャ君はかわいらしい。


「一緒に冒険する代わりに、半分こだからね」


 そういってオオカミ肉の焼肉セットを二つ頼む。


「「いただきます」」


 お肉は贅沢品だが、このオオカミ肉は比較的安い。

 もぐもぐと味わう。

 貧乏そうなミーシャ君はそれはもうばぐばくと食べていた。


「ふふふ」


 ミーシャ君からはまだ女の子を知らない綺麗な血の匂いがプンプンする。

 私は興奮していた。

 この穢れを知らない少年の血はさぞ美味しかろう。


「じゃあ、お腹もいっぱいになったし、スライム狩りにいこっか」

「うん」


 二人でダンジョン一層のスライム平原に向かう。

 無駄に広い割には人が少ない。


「いえやー」

「ファイアッ」

「とぅー」

「アイスッ」


 彼が剣で戦い、私は魔法で戦闘をする。

 スライムを次々と倒して、魔核を回収する。


 スライムの血はあるんだかないんだか、多少甘い匂いはするものの、別段好みではない。

 ゴブリンの血はクソ不味い匂いがするので飲んだことはない。


 一通り、戦闘を終え、二人で火を囲んで休憩にする。


「ふう、お疲れ様」

「う、うん……」


 ミーシャ君の顔が赤い。

 それはそうだろう。今横並びに座っているが、顔がとても近い。


「んんっ、はぁはぁ」

「エルダちゃん」

「なに?」

「大丈夫、息、荒いよ?」

「大丈夫、大丈夫」


 私は再び興奮していた。

 汗だって元は血の成分なので、男の子の甘い匂いがするのだ。

 この広いスライム平原、見ている大人はいない。


「あれでしょ、血、飲みたいんでしょ?」

「ひぇっ」


 あれ、バレていたのか。この私がヴァンパイアだと。


「だってかわいい牙が見えるし、僕の首筋を何度も見てくるから、さすがにわかるよ」

「い、いいのか?」

「うん。干からびるまで飲んじゃダメだよ」

「わかった」


 本来、ヴァンパイアのことは秘密なのだ。

 しかしバレてしまったのであれば、しょうがない。

 そっと首筋に牙を突き立て、血をすする。


「んんっ」


 ごくごくと甘美な少年の血を堪能する。


「これからも、一緒に冒険してくれる?」

「いいぞ、少年」

「ミーシャだよ」

「知ってる。ミーシャ、これからも頼む。たまには血を」

「うん。たまにだからね」

「分かっている。それからヴァンパイアということは」

「秘密なんでしょ。冒険者ギルドに殺されちゃうもんね」


 ヴァンパイアは人間に近い種族だが、分類上はモンスターだ。

 人間に取り入るが敵対関係にある。

 冒険者ギルドは目の敵にしてくるだろう。


「これからもよろしくね、エルダちゃん」

「ああ、ミーシャ。よろしく」


 そっと握手をする。

 そうか、敵対的に血を吸わなくても、こうして協力してくれる人がいれば相手を殺さずに血を吸えるのか。

 今まであまり考えたことがなかった。

 これからも二人で冒険者でいられるといいな。


 ぽつ、ぽつぽつと涙が落ちる。


「大丈夫だよ、エルダちゃん」

「なんでもないぞ」

「そうだね」


 そっと肩を抱き寄せてくれる。

 まだ10歳だと言うのに、女の子に優しくできるのはいい子だ。

 私はなんだか、この日、今まで生きてきて、はじめて救われた気がした。


(終)

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