契約恋愛
香 祐馬
第1話
「相澤真琴です。よろしくお願いします。」
すっと、姿勢良くお辞儀をする姿は、育ちのいい大人しい女性という印象だった。
そして、顔を上げた女性の
そうやって微笑む姿は、太陽のようだった。
「こちらこそ宜しく。須藤樹です。」
互いに握手をして、契約が成立した。
そう、『契約恋愛』だ。
時は、少し遡るが、この契約を結んだのは、切実な俺の悩みが発端だった。
俺は、女難の相を持ってるらしい。
どうしてわかったかというと、街を歩いてた時に、胡散臭い占い師に言われたからだ。
それも一人、二人ではない。何人も、必死の形相で声をかけてくる。
作務衣や着物の合わせを翻し、中の足袋が丸見えになってでも走ってきて引き止められるので、マジなんだろう。
曰く、俺の目尻にある冬の大三角みたいな黒子や、やや垂れ下がった目、薄い額の眉毛までの長さ、こめかみから目尻までの距離などなど、様々な比率がドンピシャらしい。
んな、まさかって思っていた俺だが、青年期に差し掛かった瞬間に、それは爆発した。
まず、ストーカーが湧いて出てくる。
ストーカー同士が、縄張り争いを繰り広げる始末。その隙に、俺は逃げる。
ゴミは、当然漁られる。
だから、友達にいらないプリントを持って帰って処分してもらうようになった。名前が書いてあるテスト用紙なんて、どんな事に使われるか...考えたくもない。
学校でも、俺に平穏はない。
一回でも笑顔を見せて話すだけで、執着される。
そうすると物がなくなる。鉛筆消しゴムが当たり前に消える。
改善策は、なるべく女子とは話さない。持ち物は、友達から借りる。
ただし、一人から借りると友達のものも無くなるから、満遍なくいろんな奴から借りる。
体操着は、鍵付きロッカーに入れる。
高校はナンバー式の鍵が標準装備だったが、なぜかバレる。ゆえに俺だけ鍵付きロッカーが支給された。
しかも大学生になると、さらにひどくなった。
未だ未遂で済んでるが、性的に襲われることが増えた。
知ってるか?据え膳って言葉は、こっちが好意的な場合だけ当てはまるんだぜ?
目がいっちゃってる、鼻息荒い女性は、恐怖でしかない。
そんなことがあっても、やはり俺も男だ。
彼女が欲しくなる。
いい匂いの女子との触れ合いが欲しくなる。
そして、俺はとうとう執着がひどいヤンデレ達から逃げながら、彼女を作ってみた!
初めての彼女だ。嬉しくて、デートもキスも、天にも昇る気持ちだった。
しかし、やはり女難の相の威力は凄かった。俺は...彼女を守れなかった。
どうやっても、そばに居れない時間ができて、その子が標的になってしまうのだ。
結果、号泣しながら「別れて」と言われた。
しかも、罵倒付きである。
あんなに好きだと言ってくれてたのに...。
親の仇のような目で見られた。
なんだよ、女難の相って。
整形すればいいのか?
だが、俺はこの顔を利用して、実はモデルをしている。
かなり稼げるので、辞めるつもりはない。
整形はできない。
そして、彼女と別れて数日経って気づいたことがある。
彼女が居た時は、性犯罪の被害にも遭わず、ストーカーも鳴りを潜めていたことに。
彼女の犠牲はあるが、俺はここ数年の中で一番リラックスできていたことに気づいたのだ。
クズという勿れ。
とにかく、彼女ができれば俺自身は平和に暮らせる。
これを利用しない手はないだろう。
そこで、『契約恋愛』だ。
金銭を払って、彼女になってもらう。
自分の身は、自分で守ってもらうことでお給料を払う。
メンタルも肉体的にも強くて、俺に執着しない女の子を金で買う!
手始めに、柔道サークルを見学したのだが、肉食獣のように襲われそうになって逃げ帰った。
それからボクシング、空手部と強そうな女子が居そうなところを梯子した。
良さげな子に声をかけるが、あえなく腹パンKO。
ですよね...、虐められるのも嫌だし、知らない男の彼女なんて、金もらっても嫌だよね。
連日の交渉で、俺の腹はアザだらけ。
モデルって言ってるからか、顔面は避けてくれただけ優しいのかもしれない。
だが、地味に歩くと痛い。
大学の真ん中のベンチで寝っ転がる。
「あー、もう人材派遣会社に依頼してみようかな...」
青い空を見上げながら独りごちる。すると、頭上から声をかけられた。
「すいません。
あの、...須藤さんであってますか?」
一瞬、また執着女か!と身構えたが、相手の目には情欲は感じられなかった。
まじまじと観察すると、気の強そうな猫目の美女、背中まで伸びた艶やかな黒髪が似合ってる。首を傾げるとさらりと流れて、色っぽかった。
警戒しながらも頷くと、ホッとした顔で微笑まれた。
「あの、お金で恋人を買うって小耳に挟んだんですけど。私じゃだめですか?」
えっ?と、呆気に取られる。
今言われた言葉を脳内で繰り返してようやく理解した。
「え、ええっ!そう、その通りです!
いいんですか!?恋人になってくれるんですかっ?」
「はい。お恥ずかしながら、お金が必要でして...。一応、空手の段持ちです。」
なんと、この美人さん、有段者!!
渡りに船!!
早速、契約内容の確認を始める。
一緒に過ごす日は、日給1万。
大学内では、昼食は必ず一緒にとる。他の時間はなるべく一緒に過ごす。
休みの日は、たまにデートする。デートのお金は完全に俺持ち。
ストーカーを牽制するため、キスはあり。性行為はなし。
キスのくだりの時は、一瞬嫌そうな顔をされたが、すぐに仕方ないかぁって顔で了承された。
そんな反応されるとは、新鮮である。
女性に執着される顔をしているだけに、今まで惚けられることがあっても、歪んだ顔を向けられたことはなかった。
これなら執着されることはなさそうだと安心した。
翌日から、真琴と行動する。
朝は、必ず一緒に大学まで行く。
途中の駅で待ち合わせ、電車に乗る。
真琴に合流すると、痴漢が居なくなった。
早速彼女効果が出た!
授業も被ってるものは一緒に受講。
教室がザワっとした。おれが、女の子を連れているからだろう。
元カノは学外だったから、初めてのお披露目である。
すぐさま、友達がやってきて、真琴に視線を向ける。
「おはよう、樹ぃ!ところで、誰だ?
...まさか、彼女出来たんか?」
いいぞ!その質問!待ってたぜ!!
俺の女難について知ってるからこその質問だ。ひどい振られ方をこないだされてたのも知ってるしな。
ぐいっと真琴の肩を引き寄せ、気持ち少し声を大きくして宣言した。
「おう!彼女だ!
だから、しばらく昼は彼女と二人で食べるから。わりぃ!」
ドヨドヨする教室。
俺のストーカー予備軍が、悔しそうに席を立って教室から出て行く姿が見えた。
真琴は、微笑みながら恥ずかしそうに俯いた。
おお、初々しい。可愛い、俺の彼女。
「さすがモデルは、恋人も綺麗だなぁ。羨ましいぜ。」という友達に、にへらっと得意げに笑いかけた。
そして、お邪魔したなっと友達が去っていく。
その時「それにしても、この講義にあんな美人居たっけか?」と呟いた声を拾った。
確かに...これだけ真琴の見目が整ってたら、印象が残ってるはずだよな....
「真琴。いつもはどのへんで授業受けてた??」
「ん、私は、あの辺。」
窓際の前側だ。
「そっか、なんで俺気づかなかったんだろう?真琴みたいな綺麗な子だったら、絶対気がついたと思うんだけど。」
「綺麗っ!?え、本当っ!?
わー、嬉し...。
あー、気づかなかったのも仕方ないんじゃないかな。目立たないように、普段過ごしてたから...。」
綺麗だと言われたのに、どこか嬉しくなさそうだ。
キョドキョドしていて、言われ慣れてないのかな。
俺のモデル仲間の中でも真琴は、綺麗な方になるのに。
女性にしては高い身長で、武道を嗜んでいるためか姿勢が良くて、目を引くのだ。
なんとなく、腑に落ちなかったが気にしないことにした。
付き合いだしてしばらくすると、想定通り真琴はしょっちゅう絡まれ始めた。
最初は、女子による嫌味程度だったが、真琴に効果がないとわかると、陰湿になった。
だんだんと、エスカレートし、男らに襲われることもあったようだが、全員返り討ちにしていた。
一度、その現場に遭遇したことがあるが、真琴は圧倒的な強者だった。
しなるように繰り出されるまわし蹴りや、舞うように攻撃をいなす腕に、俺は見惚れた。
ちなみに、真琴が最もいやな嫌がらせは、上から水が降ってくるやつだった。
化粧もとれるし、服も濡れて最悪だと怒っていた。
それなら、男に陵辱されそうになる方が、返り討ちにできるだけマシだと男らしい発言をしていた。
やだ!俺の彼女かっこよくなーい!?
契約の恋人ではあるが、真琴と一緒にいるのは居心地が良く楽しかった。
話題が尽きないし、会話のキャッチボールが弾む。
そして、何ヶ月も経っても真琴の目には病的な執着は顕れなかった。
むしろ、無から好意的な視線に変わった。
それが、友情なのか恋愛感情なのかわからないが、俺は嬉しかった。
スポッチャで遊んだ時も、女子なのに俺と同じくらい動けるからすげぇ楽しかった。バスケの1on1でも俺を躱してシュートを決められた。
イェーイと、ハイタッチをする真琴の弾けるような笑顔にキュンとして、思わずキスをしてしまった。
目を見開きびっくりされ、その場で蹲る真琴。
まーこーとー?と、顔を覗き込むと、真っ赤な顔で目が潤んでた。
なにこの表情っ、可愛すぎる!
俺の胸にギュッときた。胸が苦しい。
自然と顔を寄せ、俺たちは再びキスをした。
触れるだけのキスから、唇を喰み、深いキスへ。
契約上の彼女だったのに、俺は本気になっていた。
だから....、
真琴と二人きりになった時に告白をした。
「好きだ。契約じゃなくて、本気の恋愛がしたい。キス以上のこともしたい...。ダメだろうか?」
最近ではよくキスをしていた為、そう言われることは予想していたのだろう。
びっくりすることもなく、真琴は俺の告白を聞いていた。
そして、返事は...
「ごめん。無理。」
俺は、振られた。
私の名前は、相澤真琴。大学3年生。
家は、小さな空手道場。兄弟は、貧乏子沢山という言葉通り5人兄弟。上4人が男。一番下が女である。つまり、娘が欲しかった両親が頑張った結果だ。
そして私は、4人目。お分かりだろうか、私の性別は『男』だ。
樹と契約するまでは、普通に男子学生として通っていた。ただ、ものすっごく女顔であったのと、妹が5年前に産まれるまで娘のように育てられていたこともあり、所作が女性っぽい。
いざ、完璧に男として生きると言ってもなかなか染みついたものは剥ぎ取れず...。
結果、ボサボサの髪に前髪で顔の半分を隠すモッサイ男子学生に擬態していた。決して、女に見えないように...。
そして樹が、空手部に来た時。
私は居たのだ。
...男子部員として。
その時女子部員に交渉している話をたまたま耳にした。
正直、何その美味しい話!って思った。
普通に大学通って、樹の横にいるだけで日給1万。たまに襲われることがあるというが、その辺のメンヘラ女が雇う奴なんてただのゴロつきが関の山。私なら問題ない。
今現在、夜中のジムアルバイトで、時給1500円で暮らしてる自分としては、飛びつきたい条件だった。
これは、女装すれば問題ないのでは?と、考えつくのは、自然の摂理だろう。
結果、樹と無事契約できた。
キスありってところで、びっくりしたが、まぁ同性だしいいかとすぐさま納得した。
あとは、しばらく女性として過ごすために、ゼミの教授には女としてしばらく生きたいと言った。出席もレポートも出さなければ、卒業できないから仕方ない。
子供の頃から娘扱いで暮らしていた話と嘘を混ぜながら話したら同情して協力してくれた。
女装をするのは、自宅アパートだったが、バレることはなかった。
女装を解除するのが、バイト先だったからだ。執着女はバイトまでは着いて来れるが、バイト終わりに出てくるのはモッサイ男。
家を特定されることはなかった。
そんな感じの契約恋愛だったが、想定外に樹の横が心地よかったのは、ラッキーだった。気が合うし、楽しいと思うことが似ていた。
それなのに、お金ももらえて本当いい契約だった。
それに、牽制のためにされるキスが、ぶっちゃけ...気持ちよかった。
別に、同性愛者ってわけではなかったが、これはこれでアリかなと思うほどには、友情を深めていた。
そんな折に、真剣な顔で告白をされた。
申し訳ないが、それは無理だ。
私の股には、樹と同じものしかないのだ。穴は出口だけ...。それ以上のことは出来ない。
「どうしてもダメか?
お金が必要なら、俺貢ぐよ。真琴と居るのすごく楽しいんだ。真琴が笑う時に見える歯が好きなんだ。すっごく可愛いと思ってる。」
ギュッと両手を握られ懇願されるが、無理なものは無理なのだ。
というか、離して〜!!手がデカいから、女の手じゃないんだよ〜。
今までだって、手を繋がずに袖を掴んだり、指を引っ掛けて歩くことしかしてなかったのに!
「俺の顔嫌い?」
「嫌いなわけないっ。さすがモデル!カッコいいよ!」
そっかぁ、よかった。と、にへらと笑う樹に、ウッとなる。
たとえ、同性でもこれだけかっこいい男に好きだと全身で表されたら、絆されそうになる。
「じゃあ、性格が好きじゃない?俺、真琴と感性が似てると思ってたんだけど...勘違いだったかな?」
今度は、へにょんと捨てられた子犬のように訴えられる。
コイツ、自分の武器分かってるじゃないか...。
キュンとしちゃったじゃない。
「私も...、樹と居ると楽しい。
性格もピッタリあってると思ってるよ...。」
「じゃあっ!」
パァっと、輝くような笑顔で覗き込まれるが、そうじゃない。そうじゃないんだ。
どんなに、樹が私を好きでも、私は性別を偽ってるんだ。
「ごめん。それでも私は、樹のこと友達以上には見れない。」
男に惚れてたと知って傷つく樹は、見たくない。この秘密は、墓場まで持っていかなくてはならないのだ。
「そっか...。でも、俺。
真琴とまだ一緒にいたいんだ。契約はそのまま継続してもらってもいいかな?
気まずいかもしれないけど、頼む!」
「それは、うん。いいよ。
私も、助かってるし。」
「ほんとか?!ありがとう、真琴ぉ!」
ガバッと抱擁されたが、すぐ樹は身を離した。
「あ、嫌だよな。下心ある奴に、抱きつかれもキモいよな。ごめん。
もう、二人っきりの時にこういうことはしないようにする。
だけど、ストーカーがいる時は、ごめん。真琴を利用させてくれ。」
「契約分は、ちゃんと恋人として振舞うよ。」
ありがとな。と、辛そうな顔で樹は笑った。
けど、私の心には、抜けない棘が刺さった気がした。
真琴に、断られた...。
なんだよ、俺の顔は女難の相なんだろ。
なんで、真琴は俺に執着してくれないんだ。
俺、真琴になら襲われてもいいのに...。
グスグスと、涙が出てくる。
いつも通り、中間の駅まで一緒に帰り別れた途端に涙が溢れて来た。
今日は、もうやけ酒をしよう...
とりあえず、あてもなく電車に乗った。
自分が知らない場所で、再出発するため、今まで降りたことのない駅で降りる。
ほどほどに栄えている駅の裏道に入り、落ち着いて飲める場所を探した。
半地下になってるbarに当たりをつけて入っていった。
いらっしゃいませー。と、バーテンに声をかけられて、カウンターに座る。
手っ取り早く酔えるものを頼んで、グイッと煽った。
「ねぇ。隣いい?」
程よく酔い始めた頃、横に座ってきた男がいた。ガタイが良くて、ピアスもいっぱいついてて、怖そうな印象ではあったが、女じゃなければ、問題はない。快く了承した。
初対面の人に、フラれた話を聞いてもらって幾分心が軽くなった。
そして、誘われるままに2件目の飲み屋へ。
飲み終わる頃には酔いが回って歩くのにも苦労するほどに。
それが いけなかった。
抵抗もさほど出来ないまま、裏路地に連れ込まれ、陳腐な口説き文句を囁かれながら、弄られた。
男なのに、男にやられるとは、想像したことがなかった。
「や、やめっ!俺は男だぞ!」
グイッと男の胸を押すがびくともしない。
ぱぱっと簡単に頭上に両手を一纏めにされ、足を股に入れられ動けなくされた。
「知ってる。俺、男も女もどっちもいけんだよね。」と、男はニヤリと獰猛に言われて絶望する。
なんだよ...女難だけじゃねぇじゃん。
男もかよ...。俺の処女、こんな場所でこんな奴に奪われるのかよ...。
くそっ、くそっ!
「放せー!!!」
路地裏に響き渡る声で抵抗した。
すると、目の前の男が、吹っ飛んだ。
ドスっと鈍い音がなったので、目を開けると、目の前に蹴りを繰り出した姿勢で止まっている男性がいた。
「大丈夫ですか?」
その声を聞いた瞬間、なぜだが胸が熱くなった。あー、もう大丈夫だと、安堵した。
目の前の男性のことなんて何も知らないのに、彼に任せておけば大丈夫だと、謎の確信があった。
そうこうするうちに、吹っ飛んだ男が立ち上がり、怒りに形相で目の前の男性に襲いかかった。しかし、男性は全てのパンチを軽くいなして躱し、的確に2、3発ボディに蹴りをいれ、呆気なく勝負がついた。
その姿に、既視感を覚える。
助けてくれた男性が、用は終わったというように去っていこうとしたので、思わず腕を掴んで引き止めてしまった。
「ま、真琴?」
自分でもなぜそう呼んだのかわからないが、口から真琴の名前がするりと出た。
「........。」
男性の顔は、前髪で隠れてほとんど見えないが、俺の直感が言ってる。
この
その証拠に、動揺した感情が腕を伝ってきている。
「まことだよ、な。」
再度確認すると、男性が観念したのか頷いた。
「ごめん。樹。私、性別偽ってた。」
「あー、うん。知らなかった...。真琴、男..だったんだ、な。
今が男装しているわけ、じゃないんだよ..な?」
「そう。こっちが、前までの姿...。」
そっかぁぁ...と、ズルズルと座り込んだ。
「ごめん。騙してて。」
「いや、真琴は別に嘘はついてないだろ。性別だって、女ですって言ったわけじゃない。」
「それでも....、私は契約だからキスもしたけど、樹は知らずに男にキスしてたんだよ。気持ち悪くない?」
あー、そうか。今までキスしてたのは、男なのか。
ん〜でも、改めて考えても別に気持ち悪くないな。真琴が、完璧に女性に見えたからか?
「ちょっとゴメン。」
真琴の前髪をガバリとあげて、顔を露わにした。
やっぱり、化粧してなくても、男の格好してても真琴は真琴だ。
目が合うと胸が高鳴る。
小ぶりの唇に吸い寄せられて...
ちゅっ
「ええっ!!」と真琴がズサっと後ずさった。
うん。これが正解だ。
「俺、やっぱり真琴が好きだ。男だと思っても、キスがしたかった!
真琴の中身も、素顔も好きだ!多分、キス以上のこともできると思う!」
「な、何言ってるの?樹、私は男だよ!樹は、異性愛者だったんじゃないの!?」
「俺が好きなのは、真琴という個人だ!問題ない!」
にっこり笑って、自信満々に言った。
「ちなみに俺の告白を断ったのは、性別を偽ってたからか?それともやっぱり、真琴は女性が好きなのか?」
一縷の望みをかけて真琴に問う。
真琴の視線に、好意が確かにあったはずだから...。
「私は...、複雑な環境で育ったから。今も、完全に男らしいとは言えない。
だからと言って、心は女なのかというとそれは違う。ちゃんと男だよ。」
真琴は、娘として扱われて暮らしてきたことを俺に説明してくれた。
「そっか。だから、違和感ない所作だったんだな。そっかぁ...、恋愛対象は女性なんだな...。」
逆立ちしたって、俺の性別は変えられない。
やっぱり、諦めるしかない。
だが、次の真琴の言葉には、希望があった。
「ん、そういえば恋愛対象?まだ恋をしたことがないけど、どうなんだろう?」
すごく小さな声での自問する声が聞こえてきたのだ。
えっ?それって、畳み掛けたら、もしかしてワンチャンあるっ??
「真琴!!こないだ行ったデート楽しかったよなっ!!
一緒に耳付き帽子かぶって、アイスもシェアしてさっ。俺が、景品ギリギリ取れなくて、真琴が代わりに取ってさ。めっちゃ笑ったよな!
それに、こないだ見た映画も、印象に残るシーン一緒だったし。感想もめっちゃ盛り上がったじゃん!
そ、それに!!俺がキスしたら、真琴応えてくれるじゃん?
俺の気のせいじゃなければ、真琴キス好きだろっ!!」
カァーっと顔を赤くする真琴に手応えを感じる。
「俺、待てるよっ!真琴が、性別のこだわりを捨てて、俺個人を選んでくれるまで!!
もちろん、真琴の経済状況も支える!貢ぎまくる!」
真剣な顔で、真琴を見つめる。
真琴が、目を彷徨わせて、迷ってる。
多分、真琴の様子からしてアリ寄りである。
今までの付き合いで、俺にはわかる。
「真琴...。」
懇願するように近づき、前髪をどかす。
目線をしっかり合わせて、キスをした。
真琴の目には、嫌悪感が見られない。
様子を見ながら、キスを深くしていく。
んっ、..はぁ、んっちゅ...
夜の静かな空気に、舌が絡まる音が響く。
最後に、軽くちゅっと唇を合わせて、口を離した。
真っ赤な顔で、俺を睨む真琴。
可愛すぎる....。
はぁ...と悩ましげに息を吐いた真琴は、目を逸らしながら呟いた。
「この契約ってさ、私が社会人になったら、解除するでしょ?」
元々、真琴の経済的支援と俺の利害の一致だったからな。
うんと、頷いて先を促す。
「私はさ、付き合うなら対等がいいと思うんだよね...。」
うん、そうだね。俺もそう思うよ。
やっぱり、気が合うな!
「だからさ...、私たちが社会人になるまで、樹の気持ちが変わらなければ....、いいよ?」
へ?.......。
今、真琴なんて言った?
脳が処理しきれない。
「....ねぇ、何か言ってよ。」
真琴が沈黙に耐えきれずに、見上げてきた。
「ぐっ、可愛...っ。」
男の格好をしてても、もう惚れてしまってるので、真っ赤な顔で見つめられるだけで興奮してしまう。
「だーかーらー、返事!」
「あっ、返事...。返事ね。ゴメン、ちょっと夢見てる気がして、情報が入ってこない。
もう一回言ってくれる??」
「えー!もう一回言うの...。
だからね...、社会人になったら付き合ってもいいって言ってるの!」
何度も言わせないでよ...と、涙目になる真琴青年に、俺の心は狂喜乱舞して陥落した。
「付き合う!!付き合うよ!社会人!?
えっ、今じゃだめ?もちろん、社会人になったら付き合うけど、今からじゃダメ!?
俺、滾って限界なんだけど!!」
「何、言ってんの!??我慢してよ!
対等になってからにしてよ!」
「対等になったら、してもいいんだ!?
やったー!!俺、絶対真琴幸せにするからっ!!」
それまで、我慢するっ!と、真琴をぎゅーぎゅーに抱きしめた。
「お金目当ての契約恋愛だったのにな...。イケメンはずるい。」と、真琴くんは諦めたのだった...。
おしまい
契約恋愛 香 祐馬 @tsubametobu
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