LAST MATCH TO REACH MYTHIC②:バックドア 


 ――ローディング画面――


 『りあむ』

 使用キャラ:シルヴェンスター

 役職:ハンター


 『CoCo^_^』

 使用キャラ:メイヤー

 役職:ハンター


 『liane ryne』

 使用キャラ:ビジョン

 役職:アサシン


 『Lacey』(レイシ)

 使用キャラ:フランク

 役職:タンク


 『Nàpoli』(ナポリ)

 使用キャラ:リア

 役職:メイジ


     ―――――


 りあむさんは試合に入ると人が変わる。


 フレンドになって一緒にランク上げした数試合で疑問に思ってはいた。

 それがDMOの生放送機能でりあむさんのプレイを見てから、確信に変わったのだ。


 試合中に非効率なことはしない。


 会話は必要最小限に。

 指示出しは的確に。

 プレイには集中して油断せずに。

 

 生放送で僕が見たりあむさんの動きに、一切の無駄がなかった。


 試合に入ったからには、全力で勝ちに行く。

 勝利へのたしかな道筋を見据えて、丁寧で効率的に行動する。

 りあむさんはそういうタイプの人間なのだろう。

 それを知ってから、僕はりあむさんのことを更に好きになった。


 「キャラのスキル回しを理解してないならランクに行くなよー」

 「味方のジャングラーめっちゃ死んでんじゃん。何をやってんの」


 ……僕はりあむさんのことが好きだ。



「今回の敵まあまあ強いな」

「そうですね」


 試合が開始してから10分も経ったが、僕たちのチームは敵に押されるだけだった。

 

 マッチングシステムで同じチームになった味方の『CoCo^_^』さんと『liane ryne』さんはキャラを使い慣れていないからか、さっきからデス数を重ねていた。

 今は、僕とレイシさんとりあむさんでなんとか持ち堪えている状況だった。


「ナポリはこの試合に勝ったら『ミシック』になるよな」

「そうなんですよ」


 DMOのランクは『ブロンズ』→『エリート』→『マスター』→『グランドマスター』→『エピック』→『レジェンド』→『ミシック』→『Gミシック』の8段階に分かれている。


 この試合はミシックに昇格できるかどうかをかけた試合だから、なんとしてでも僕は勝ちたかった。



 そのまま僕たちは耐え続け、試合が開始してから20分が経った。

 敵のチームとのキル数の差は『16ー34』と大きく広がっていた。


「ちょっとやりたいことあるけどいいですか?」

 

 さっきから暴言以外は何も言わずに試合に集中していたりあむさんが、ついに僕とレイシさんに話しかけた。

 

「はい」

「おう、いいよ」


「バックドアを狙おうと思っています」


     ―――――


 【ララちゃんの試合中いきなり解説コーナー♪②】


「ディメイショナル・オンラインをより深く楽しめるように、ララちゃんが追加の解説をするにゃん♪」


「MOBA系は自陣の本拠地ベースを守るゲームだにゃん♪」


「だから敵をいくらキルしていても、敵にいくら有利を取っていても、最後にベースを壊されたら負けになってしまうにゃん♪」


「『バックドア』とは集団戦中などの相手の隙をついて、敵陣のペースを狙うことを言うにゃん♪」


「味方に4対5で敵の注意を惹きつけてもらうから負けやすい、バックドアのために敵陣の奥深くに入るから成功しなかったら倒される、などの危険もたくさんあるにゃん♪」


「成功すれば勝ち、失敗すれば負けに繋がるのがバックドアだにゃん♪」


「完全に劣勢な状態でもバックドアなどの立ち回り方次第で一発逆転を狙えるのが、ディメイショナル・オンライン(MOBA系)の魅力だにゃん♪」


     ―――――


「まずは野良(※1)のあの2人を餌に……」


【ゲーム通知】:「CoCo^_^」は「●●」に倒されました。

【ゲーム通知】:「liane ryne」は「▲▲」に倒されました。


「あ……」


 敵は前に出すぎて浮いていた2人を見逃さかった。


「うわマジかよ。さっそく死んでやがる」


 りあむさんは口でそう言いながらも、既に敵のホームへ動き始めていた。


「りあむ、動きます」

「へ? ナポリ今なんか言った?」

「なんでもないですよ。たぶんりあむさんが知らないネタです」


 そう会話している間にも、りあむさんと敵のベースの距離はどんどん縮まっている。

 一方で僕とレイシさんはというと、敵からの攻撃に頑張って耐えていた。

 味方が二人倒されていないから、`実質2対5である。


 なぜ、耐えることができるのか。

 それは僕が使っている「リア」というメイジのおかげが大きいだろう。

 

 「SP2で魔法の爆弾を設置」「SP1で爆弾の起爆」ができて、

 魔法マニアと機械マニアを掛け合わせた女の子、というのがこのキャラの設定である。

 範囲内の敵全員にダメージを与える魔法爆弾マジックボムが非常に便利で、攻守ともにいける万能キャラだ。


 ナポリくんはにやっとした。

 りあむさんが敵のホームの中に入ったからだ。


 と思った、その直後のことである。

 敵の一人がホームの先から出てきた。


 MOBA系のゲームでは、プレイヤーはミニオン兵と一緒にいる時しかタワーを攻撃できない。

 単体で攻撃しようとすると、自分がタワーに撃たれてしまうからだ。

 だから拠点でスポーンされて敵のタワーに向かって動くミニオン兵を肉壁にして、その間にタワーを攻撃する。

 

 敵はおそらくミニオンを処理しにホームに召還リコールしたんだろう。

 バックドアはミニオンがベースの近くにいて周りに敵がいない時を狙うことが多いが、敵がいるとなると難しくなってくる。


 僕ははらはらしてその様子を見守っていた。

 

 りあむさんがこの試合で使っているのは「シルヴェンスター」というハンターだ。

 文明が超発達した40XX年代で世界大戦が起きて住んでいた星が滅び、生き延びるために異世界転移装置で『黎明の地』にやってきたサッカー選手、というのがこのキャラの設定である。

 特殊なサッカーボールを蹴って通常攻撃をし、「SP1でボールを大きくする」「SP2でスライディングする」ことができる。


 ミニオンを処理しにやってきた敵はりあむさんに気づいて攻撃をした。


「気づかれちゃったか」


 僕たちと戦っている残りの4人の敵はリコールすることを選ばなかった。

 それは優勢になっていることへの驕りか、それとも――


【ゲーム通知】:「●●」は「りあむ」に倒されました。


「ないす!」


 試合が劣勢になってもデスしないで慎重に動いてファームを続けたりあむさんは、敵よりもおゴールドを持っていた。


 時間の経過で得るゴールド、ミニオンを倒すことで得るゴールド、モンスターを倒すことで得るゴールド、敵を倒すことで得るゴールド。

 ゴールドを使い装備を購入することで自分のキャラを強化できる。

 りあむさんは敵よりも多くのアドバンテージを持っていたのだ。

 

 一秒一秒を無駄にしないように。

 効率よく立ち回れるように。

 攻守の判断は素早く適切に。


 いつしか僕が生放送機能で見たあのプレイを、りあむさんは今回の試合でもしているだろう。


「あ」


 そして、僕はあることに気づいた。

 りあむさんは試合で敵を煽ったり、小馬鹿にしたり、舐めたようなプレイをしてないことに。

 むしろ試合に勝つ直前に、チャットを【チーム】から【ALL】へ宛先を変えて、「Good game」と送っている。


 本気でプレイをすることこそが、ゲームと敵への最大の敬意と賞賛の表れなのだろうか。



 彼のプレイにはなぜか、いつも魅入られるものがあった。



「なんだか、泣きそうです……」

「は? なにを言ってんの?」

「いやなんでもないです」


 バックドアが成功しそうであれば、残った僕とレイシさんのやることは簡単だった。

 敵のリコールをとにかく邪魔するのだ。


 リコールは発動するまでに6秒の溜めがいる。

 その間にダメージを受けたりアクションを起こしたりするとリコールがキャンセルされるから、それを狙うのだ。


 僕とレイシさんは奥の方に隠れてリコールしようとする敵にダメージを与えるように努めた。

 1ダメージでも与えればキャンセルさせることができるから、スペルとSPスキルはなんでも使った。

 リアのSP1の爆弾を設置した際に発生する少量のダメージが便利だった。

 スキルの攻撃範囲リーチが長いのもあって、上手く止めることができた。


「一人がいなくなりました!」


 敵の一人は逃がしてしまった。


 バックドアを狙ったのがベースでミニオン兵がスポーンする瞬間と被っていたのもあって、りあむさんと一緒にいるミニオン兵がタワーの攻撃範囲内に入ったのが少し遅れた。


 攻撃範囲内に入らなければ、ミニオンはタワーにターゲットをロックオンされない。

 ミニオンがターゲットをロックオンされなければ、代わりに範囲内のプレイヤーがターゲットにされる。

 ミニオンが範囲内に入らないとプレイヤーのタワーに与えるダメージが90%減少するというのもある。


 とにかく、ベースを攻撃するにはミニオンが範囲内に入らないとダメなのだ。

 りあむさんは味方ミニオンを止めている敵ミニオンを倒して、それを待っていた。


 敵の一人がホームにリコールしたのと、ミニオンがベースの攻撃範囲内に入ったのは、

 ほぼ同時であった。


 僕は息を飲んだ。

 

 敵はリコールしてすぐに移動ブリンクスキルを使った。

 ベースを守ろうと必死なのだろう。

 警戒を怠ってバックドアで負けるのは、ある意味MOBA系プレイヤーにとっての屈辱なのだから。


 りあむさんはベースを攻撃した。

 ベースの耐久値はフルの8000から半分の4000に減った。


 敵はりあむさんを攻撃した。


 ベースの耐久値は残り3000になった。


 火力特化のハンターなのもあって、りあむさんの体力HPはすぐ半分に減った。


 ベースの耐久値は残り1000になった。


 りあむさんのHPは残り少しとなった。


 ベースを破壊するのが先か、 

 りあむさんが倒されるのが先か、




 異様に長い数秒間だった。




「おお!」

「うわ」



 りあむさんがベースを破壊したのが先だった。



【ゲーム通知】:貴方のチームは勝利しました。



「うわー、熱すぎだろこの試合」


「この試合に勝てたのはりあむさんのおかげですよ!」

「やるじゃん」


 僕とレイシさんはりあむさんを褒めたたえた。


「ま、まあな。俺くらいの実力者になればこんなの朝飯前だよ」


「そうですよ!」

「すげえよお前」


 様々な要因が重なって、バックドアは成功する確率よりも失敗する確率の方がよっぽど高いのだ。

 そのバックドアを成功させたのは、凄いことである。

 りあむさんはなぜか鼻を高くしているが、今はそれを許してもいいと思った。


「おいそこの野良二人、AI対戦でもやってスキルの回し方を覚えとけ」

「なんでこんな高ランク帯まで上がれたのかマジで謎だよな」


 ……許してはダメだと思った。



【システム通知】:Nàpoliさん、おめでとうございます。貴方は『ミシック』になりました。



 DMOをプレイし始めてから2カ月、こうして僕は最高ランク帯の一つ手前である『ミシック』に到達することができた。




     ――――――――――




 【簡単に理解! 誰にでも分かるDMO用語解説!②】

~「MOBA」が分かる方は流し読みでOKです~



 ※1「野良」→チーム人数不足分を埋める、ランダムにマッチングした見ず知らずのメンバーのことを指す言葉である。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ディメイショナル・オンライン 氷室怜 @LaLaplas

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ