モンスターハッピーバースデイ

masuaka

モンスターのぼくは何でここに居るんだろう?と考える

 パーティーだ、パーティー!


 今日は楽しいモンスター達のパーティーだ!


 どこかで登場したモンスターのバースデイパーティーだ!


 しかし多くのモンスター達が大きな声をあげて踊り楽しんでいる中、パーティーの喧噪に飽きた小さな小さなモンスターがいた。


「なんか面白いことないかな。いっつもパーティーをしていて楽しくない! もっと刺激的なことが起きてほしいよ」


 ぼくがつまらなそうに暇を持て余しているときだった。大きな獣のようなモンスター達がこちらへやってきた。


「よお、ユニ。お前は驚かし合いダンスに加わんないのかよ」


「むり、むり。こいつ小さくてぜんぜん怖くないだろ?」


「いっつもみたいに化けるトリックしてみろよ。まあ、すぐに化けの皮が剥がれちまうんだけどな」


 嫌なモンスター達だ。ぼくは自分の存在にコンプレックスを持っている。


 姿が安定しないのだ。化けるトリックをしなければ、ただの真っ黒な影みたいな存在だ。


「ちがいないねえ」


「あはははは」


「うっさいなあ、ぼくに構うなよ!」


 ぼくはいじわるで、うるさいモンスター達から逃げるようにその場を離れた。


「あいつ向こうへ逃げていきやがった。モンスター失格だ!」


 遠くへ駆けても、あいつらのぼくを笑う声が響いてくる。


 パーティーの喧噪から離れ、ぼくはなぜかモンスターたちが入ってこない森へ歩いて行った。



※  ※  ※



 この場所は一部のモンスターをのぞいて、立ち寄るモンスターがいない。


 ぼくは暇つぶしに地面に咲いている小さな黄色い花をプチッと千切っては空へ投げてみた。


 楽しくない。


 つまらない。


 ーーお前もつまらない存在だろうに。


 そんな声が聞こえた気がした。分かっている、これはぼくが自分に対して思っていることだ。


 ぼくはモンスターとしては、【なり損ない】だって言われている。


 ぼくの力は何でも化けるトリックすることだが、みんな驚かないし、なんなら他のモンスターからケラケラと笑われるような存在だ。


 毎日、毎日、他のモンスター達は歌って踊って……、


 何が楽しいんだよ?!


 ぼくは何でここに居るんだろう?


 ぼくは何のために存在しているのだろう?


 ぼくは石の近くでまどろんでいる年老いた犬に近づいて、化けるトリックをしてみる、大きな声で威嚇してみて、少しでも怖く見えないか試してみた。


 しかし犬は一瞬目を開くが、すぐに目を閉じて眠り始めた。


 ぴくりとも動かない様子を見るに、ぼくは本当に怖くないのだろう。


 ぼくは心底自分という存在に落胆した。


 ぼくは化けるトリックを解いて、石にもたれかかる。


 するとポキポキと音を鳴らして、一体のモンスターがこちらにやってきた。


「やあ、ユニ。その墓石にもたれかかるのは止めなさい」


 ぼくのもとへやってきたのは、パーティーを主催しているモンスターのスケルトンだ。


「スケルトン」


「せっかくのパーティーはお気に召さなかったかい?」


 彼は心配そうにぼくをみる。モンスター達の中で珍しく、彼はぼくを見下さないし、ぼくのことをちゃんと見てくれているモンスターだ。


「別に、ちょっと気が乗らなかっただけ。スケルトンは今日も骨をポキポキと鳴らして楽しそうだね」


 すると彼は分かりやすいように肩の骨を落として、こう言った。


「君にはそう見えるのかい? 私は少し飽きているんだけどね。昔は人間を驚かして楽しめたんだけど……」


「人間って月に旅立った生き物たちのこと?」


 なんだか面白そうな話題がふってきたぞ。少しは退屈をしのげるかもしれない。


「ねえ、人間について教えてよ。スケルトン」


「ふふっ、そうだね。暇つぶしがてらに、人間のことを教えてあげよう」


 スケルトンはポキポキと手の骨を鳴らして、昔話を語り始めた。



※  ※  ※



 私たちモンスターは、人間を脅かすことで成り立っていた存在だ。


 しかし人間達は時が経つにつれ、私たちの存在を忘れ恐れなくなった。


 うん、なんだい?


 私たちモンスターを恐れない人間は、そんなに恐ろしい見た目なのかって?


 ああ、君は人間を見たことがなかったね。


 人間の見た目か……、君と大きさは変わらないくらいかな?


 タイタンのように大きい人間はいないよ。


 そして小人族みたいに小さい人間もあまり見たことがない。


 いや、子どものときは小さいか。


 私、スケルトンはね、人間が元になって生まれた存在なんだ。


 人間の骨だけが動いている存在なんだよ。


 人間には、私の骨に肉がついて動いている存在なんだ。


 髪が生えているし、目もふたつ揃っている。


 口もあって食事をとるし、鼻という犬みたいに匂いを嗅ぐ力も持っている。


 どうだろう? 人間のことが少し想像できてきたかな?


 はいはい、続きをはやく聞かせてくれね。


 人間達は同族同士で争い、数を増やしては減らしを繰り返していたんだ。


 私たちは、人間が居なくなりさえしなければ問題ないと気にも留めなかった。


 それが間違いだった。


 人間がこの地を去って、空飛ぶ箱に乗り込んで月へ旅立ったんだ。


 残された人間も徐々に数を減らしていったよ。


 今ではほとんどお目にかかれない。


 もしかしたら、この地に残っていた人間も滅んでしまったのかもしれない。


 えっ、人間がいつこの地を去ったのかって?


 ……人間がこの地を去って月へ旅立ったのは、200年前のことだよ。



※  ※  ※



 どうして人間は月へ行ったのだろう。


 ぼくはスケルトンに人間がどうしてこの地を去ったのか聞こうとした、そのときだった。


 一際声が大きいタイタンのモンスターがパーティー会場から叫んでいる声が聞こえた。


「大変だーーー!!」


 タイタンの切羽詰まったような、今まで聞いたことのない悲鳴が響いた。


「何かあったのか……。すまない、私は会場へ戻るよ。話の続きはまた今度」


 パーティーの主宰者であるスケルトンは丁寧に一礼をすると、慌ててパーティー会場へ戻っていった。


「……ぼくもちょっと様子を見てこよう」



※  ※  ※



「どうしたんだ、タイタン?」


 スケルトンが尋ねると、タイタンは大きな頭を抱えながらこう言った。


「人間達が月から帰ってきやがった!」


 その瞬間、一瞬しんとパーティー会場が静まったが、すぐにモンスター達はパニックになった。


「人間が?!」


「今頃になって、何しに来たんだ」


「どうしよう! 今、私怖く見えるかしら」


 モンスター達は自分の姿を確認し、同族同士で脅かしあった。


「落ち着きなさい。今はお互いの存在を見て怖く見えているか確認しましょう。帰ってきた人間の観察もしなくては……」



※  ※  ※



 ぼくは会場に向かったが、小さな存在であるぼくはスケルトンに追いつけない。


 黒い影を引きずるように、会場へ戻ろうとしたそのときだった。


 がさっ


 近くに何かがいるらしい、動物か?


 ぼくは音が鳴った方に顔を向けた。すると、


「うわあああああっ!」


 甲高い声が森の中に響き渡った。


 何だ、この生き物は?


 白い服に身を包んだ小さな生き物がぼくを見て、腰を抜かして驚いている。


 ゾクゾクゾクッ

 

 ぼくの中で強い不可思議な衝動が湧き上がった。


 なんだ、これは??


 ぼくは自分の中の衝動を抑えながら、小さな生き物に近づいた。


「ひいっ」


 小さな生き物から悲鳴が上がった。


 その様子を見て、スケルトンの話を思い出した。


 目がふたつ揃って、口がある。


 頭から髪が生えているし、よく見るとスケルトンの骨格に似ているような気がする。


 もしかしたら、あれが鼻というものか?


 スケルトンの言うとおり、骨に肉をつけたら、こんな風になるのだろうか。


 ぼくは小さな生き物を観察しながらも、内心動揺を隠せていなかったのだろう。


 黒い影を纏いながら、自然と化けるトリックを繰り返していたらしい。


 よく見るスケルトンの姿になって、


 次には大っ嫌いの獣のモンスターになって、


 その次には、小人族になって、


 姿をコロコロと変えているぼくが怖かったのか、小さな生き物は体をふるふると震わせ、表情は怯えに満ちていた。


 小さな生き物のふたつ揃った目玉から、ぽろぽろと涙がこぼれだした。


 ゾクリ


 ぼくはこの感覚を知らない。


 初めて味わう感覚にどうしていいか分からず、不思議な感覚を持て余していた。


「こ、来ないで!! モ、モンスター……」


 次第に声が尻すぼみになっていく。


 頑張って威勢をはったはいいが、やはり怖かったらしい。


 ぼくは動揺する心を落ち着かせて、小さな生き物に尋ねた。


「お前、人間か?」


 すると、小さな生き物はびくっと体を震わせ、泣き止んでこちらを見た。


「そうだけど、やっぱり君はモンスターなの?」


 小さな生き物がびくびくした様子で、ぼくに尋ねてきた。


 これがぼくと小さな生き物との初めての遭遇だった。



※  ※  ※



「お前は人間か、月から戻ってきたのか?」


 ぼくがそう尋ねると、小さな生き物もとい人間は戸惑った声でこう言った。


「人類のふるさと、地球へ帰ろうって大人達が言ったんだ。でも、宇宙船が故障して、最後のひとつの脱出ポットにぼくだけ乗せられたんだ」


 まだ人間の体の震えが止まらない。


 ぼくは人間を落ち着かせようと、人間と同じ姿に化けるトリックした。


 自分と似たような姿になったぼくを見て、人間は助けを求めるかのように早口で話し始めた。


「先に脱出ポットに乗った人たちは、別の場所に落ちたみたい」


 何を言っているのかよく分からないが、どうやら他の人間達とこの地へ帰ってきたのだが、はぐれてしまったらしい。


「ねえ、ぼくはどうすればいいの?」


 そんなこと、ぼくに聞かないでほしい。


 何故、人間にこんなことを聞かれないといけないのか?


 ぼくはそんなにも怖くない存在か……。


 そのとき、


『ト、……。トウ、リ』


 人間の右腕から声が聞こえてきた。


「その声、ディーン?! どこにいるの」


『トウリ、よかった。無事みたいだね。我々も無事だ、宇宙船が故障してしまったけどね』


「どうしたらいいの。ぼくひとりぼっちなんだ」


『すまない、我々がトウリのいるポイントまで向かうのに三日はかかる。三日間なんとか生き延びてくれ』


「そんな?!」


『大丈夫、脱出ポットに非常用の食料や日用品は揃っているから、一週間は持つはずだ』


『ああ、バッテリーが切れそうだ。すまない、トウリ。絶対になんとかするから。大丈夫、お前は強い子だから、きっと乗りきれる』


「本当に迎えに来てくれる?」


『約束する。大丈夫、必ず迎えに行くから』


 そう言って、人間の腕から発せられた声は聞こえなくなった。


 目の前にいる人間はどうやら未成熟な存在らしい。


 なり損ないのモンスターであるぼくと少し似ている。


「うああああああんん」


 人間は、その場にうずくまり大声で泣き始めた。


 ぼくは慣れない姿に化けるトリックした人間の手を、ポンと小さな人間の頭に置いて撫でた。


 すると人間は、ぼくにしがみついてきた。


 不安だったらしい。泣き声が一層大きくなる。


 確かにぼくもこの人間と同じ立場だったら、不安に感じるだろう。


 仕方ない、この人間の面倒を見てやるか。


 それに……、


 この人間といたら、この感覚が何か分かるかもしれない。


 ゾクゾクゾクッ



※  ※  ※



 それからぼくは他のモンスター達から隠れて、人間の少年トウリと交流した。


 だってぼくはモンスターとの交流が少なかったから、どのモンスターもぼくのことを気にも留めなかった。


 またパーティー会場から離れた場所に大勢の人間が現れたようで、そちらに気を取られていたらしい。


 一日目。トウリはぼくに対してなかなか警戒を解かなかったが、それでも寂しい思いをするのは嫌だったらしい。


 ぼくにくっついて、後ろを歩いてきた。


 かるがもの親子みたいだ。


 トウリはひとりでいることが怖いらしい。


「ねえ、聞いてもいい」


「なに?」


「君の名前、教えてくれない?」


「ユニ」


「ユニ、そっかユニだね。ぼくはトウリ」


「知ってる」



※  ※  ※



 二日目。


 昨日はトウリに強請られ、仕方なく一緒に眠った。


 ひとりで眠るのが怖いとか言っていた、人間ってそんなものなのか?


 ぼくの隣に人間がいるって、なんだか不思議な感覚だ。


 モンスターが人間と遭遇したときは、驚かさなきゃいけないらしい。


 でも、ぼくはどうしたらいいか分からなかった。


 そんなことで悩んでいたら、ぼくの悩みなんてちっとも知らないトウリが声をかけてきた。


「ユニ、ユニ!」


「なんだよ」


「脱出ポットにあったお菓子がおいしいんだ。一緒に食べようよ」


「ぼくはいらないよ、もったいないだろう」


「え~。ぼくはユニと食べたいんだよ」


「はい、半分こね」


 トウリはそう言って、大きなクッキーを半分に割った。


 割った片方のクッキーをぼくに差し出す。


 一瞬、迷いながらもぼくはクッキーを受け取って、かじってみる。


 甘い。


 こんなに甘いお菓子は食べたことがない。


 なんだか、この甘いクッキーはトウリみたいだとふと思った。



※  ※  ※



 三日目。


 だいぶトウリとは打ち解けてきたように感じる。


「ユニ、ぼくたち友達だよ」


「友達ってなに?」


「えっ、そんなこと初めて聞かれたよ。なんて言えばいいのかな……」


「一緒に遊んだりしゃべったりする人達のことかな?」


「ぼくは人間じゃないよ」


「人間じゃなくても友達になれるよ!」


「そういうもんか?」


「うん、ぼくとユニは友達!」


 友達……、


 ぼくは友達になりたかったから、トウリと一緒にいるのか?


 分からない。


 でもトウリが遠くへ行ってしまうのは、嫌だなと感じた。


 もしトウリがいなくなったら、きっとぼくは寂しいと感じるはずだ。


 でも今日か明日には、人間達がトウリを迎えに来る。


 ぼくはそのときを考えるとムカムカと自分の内側で疼いていた。


 そのとき。


『トウリ、トウリ。オウトウシテクダサイ』


 トウリの右腕に装着した通信機といわれる物から音が聞こえてきた。



※  ※  ※



「T3-G1だ! ぼくを迎えに来たんだ」


 トウリは音の主が近くにいないか、キョロキョロとあたりを見渡す。


 すると、木の向こうから、鉄のかたまりロボットがこちらへ向かってきた。


『トウリ、ヤットミツケマシタ』


「T3-G1!」


 トウリは嬉しそうな顔をして、鉄のかたまりに近づいた。


『トウリ。ハヤク、フネヘカエリマショウ』


 鉄のかたまりがトウリに向かってそう言った。


 自然とは思えない音。


 どこか不愉快な音の羅列が、鉄のかたまりロボットから発っせられている。


「あっ、T3-G1! こっちにいるのがユニなんだ。ぼくを助けてくれたんだよ」


『トウリ? ソコニハ、ダレモイマセン』


 どうやら鉄のかたまりロボットには、ぼくの姿が見えないらしい。


 鉄のかたまりの言葉にトウリはぎょっと顔を強ばらせた。


 ゾクッ


 トウリは帰るのか?


 このまま残ってくれないのだろうか?


 そんなことを考えているときだった。


『トウリ。ハヤクフネヘ』


 鉄のかたまりロボットがユニを小さな箱宇宙船に乗せようとしている。


 トウリは一瞬こちらを向いたが、すぐに笑顔でこちらに手を振って、宇宙船に乗り込もうとする。


「ユニ、またね! またここへ来るから、そのときはクッキーを一緒に食べよう!」


 ガツンと殴られたような衝撃を受けた気がした。


 あんな笑顔見たことがない。


 何だよ、ぼくだけだったのか友達だと思っていたのは。


 ふつふつと怒りがこみ上げてくる。


 怒りで化けるトリックしてコントロールができないのか、ぼくの姿がコロコロと変わり安定しない。


 その様子を見たトウリは、顔をこわばらせた。


 あの表情は、ぼくのことが怖いと思っている顔だ。


 ゾクゾクゾク


 自分の内側で何かが湧き起こってきた。この感覚は初めてトウリにあったとき以来。


 トウリがぼくを不安そうに見ている。ぼくたちは友達だと自信を持って言い放った顔が、不安の表情を隠せずにいる。


 ぼくはトウリのその表情が、すごくたまらなく好きだなあと感じた。


 ああ、ぼくはやっぱりモンスターなんだ。


 人間を驚かして、自分の存在を示すモンスターなんだ。


 自分の中で、もやもやしていた気持ちが消え、すとんと腑に落ちた。


「ユニ……?」


 どこか不安そうに見るトウリを安心させるように、人間の子どもの姿に化けるトリックする。


 そしてぼくは、人間の右手をあげて手を振った。


「うん、トウリ。”またね”」


 トウリが宇宙船に搭乗する直前、ぼくを不安そうに、どこか怯えたように見ていた気がして、ぼくの中で何かが生まれた。


 この日、ぼくは自分の本性に目覚めたんだ。



※  ※  ※



 小型船が本艇に到着すると、大人達がわっと駆け寄ってきた。


「トウリ、無事でよかったわ! なにか怖い思いとかしていないわよね?!」


 母親代わりのテレサが、ぼくをぎゅっと抱きしめる。


「ごめんなさい、トウリ。まさか脱出ポットの自動振り分けに誤作動が起きるなんて……、ひとりで怖かったわよね?」


「ぼく、怖くなかったよ!」


「そんな、無理して言わなくてもいいのよ!」


 テレサはぼくぎゅっと抱きしめて、チークキスをした。目から涙が溢れて、美しい顔がぐちゃぐちゃだ。


 テレサをなだめるように、船員のアレンが止める。


「テレサ、落ち着きなさい」


「だって! 私たちですら、あんな恐ろしい目にあったのよ」


 テレサは引きつった顔で、大きな声で叫んだ。


 その瞬間、大人達が顔を強ばらせる。


 ぼくは恐ろしい目という言葉が気になって、つい聞いてしまった。


「恐ろしいってどんな目に遭ったの?」


 体が大きくて、筋肉自慢の激しいアレンが体を震わせて呟いた。


「骨がひとりで動いて襲ってくるし、石が勝手に浮き上がって飛んできたんだよ」


「大きな獣みたいなのもいたわ、あれは狼かしら? それにしても二足歩行の狼なんて聞いたことがない」


「やっぱり、人類が地球へ戻ってくるには早すぎたのよ」


 大人達はやっと帰ってきた地球の現状に落胆しているようだった。


 でも、ぼくは少し地球が好きになった。


 最初は怖かったユニが、ずっとぼくと一緒にいてくれたからだ。


 そう言えば、どうしてユニはぼくの傍にいてくれたのだろう?


 ぼくは失礼なことに、心のどこかでユニのことが怖いと感じていた。


 別れる間際も一瞬怖いなと感じるなんて、ぼくはどうしてそんな思いを抱くのか自分を責めた。


 ーー決めた! 大人になったら、地球へ戻ってくる。


   もう一度、ユニに会いに行こう!


   そうしたら、きっとこんな怖いという感情は消えるよね。


   だって、ぼくたち友達なんだから!



※  ※  ※



 パーティーだ、パーティー!


 今日は楽しいモンスター達のパーティーだ!


 何てったって、今日は特別な日だ!とあるモンスターのバースデイパーティーだ!


 人間達が月へ再び帰ってから、少し落ち着くとスケルトンはまたパーティーを開いた。


 スケルトンがパーティーを開催するには、少し早い気がするが一体どうしたのだろう?


「やあ、ユニ。元気かい?」


 ポキポキと音を鳴らして、スケルトンがこちらへやってきた。


「スケルトン。今日はお招きいただき、ありがとう。ところで、今日のパーティーはいつもと違うね。なんと言うか、華やかな感じがする」


「ふふっ、そうさ!今日は特別な日だからね。盛大に祝わないと!」


「特別?」


「【ユニ】が真のモンスターになった特別な日さ! そうだろう?」


 そうか、このパーティーはぼくのバースデイパーティーだったのか。


「モンスターハッピーバースデイ! おめでとう、ユニ」


 スケルトンは拍手をすると、軽いポキポキとした音が響いた。


 ドスンッドスンッ


 巨体な体で歩いてきたタイタンが、ぼくに向かって祝辞を言う。


「ユニ、お前も立派なモンスターになったか。今日は盛り上がろうぜ~!!」


「タイタン。君、少し酔ってないかい?」


「こんな日が来るかもと、人間が去ったときに置いていった葡萄酒ワインを飲んでいるのさ」


「ふうん」


 主役はぼくなのに、他のモンスター達の方が盛り上がっている気がする。


 ぼくがつまらなそうに暇を持て余しているときだった。


 ぼくの大っ嫌いな大きな獣のようなモンスター達がこちらへやってきた。


「よお、ユニ。お前、ハッピーバースデイなんだって?」


「少しはモンスターとして、ましな存在になったのかよ」


「無理無理、だってあのユニだぜ?」


 こいつらは他のモンスターのバースデイでも、いちゃもんをつけてくるのか。ご苦労なことだ。


 ぼくの態度が気に食わなかったらしい。


 獣のモンスターは大きく肩を揺らして歩いてみせた。要するに威嚇をしているのだ。


 でも今のぼくには、ちっとも怖くない。


 すると、怯えないぼくを見て面白くないと思ったのだろう獣のモンスターがこう言った。


「いっつもみたいに化けるトリックしてみろよ。まあ、すぐに化けの皮が剥がれちまうんだけどな」


 こんなモンスター達を相手にするなんて面倒なだけだが、こいつらに一度ぎゃふんと言わせたい。


 仕方ない、化けるトリックしてやるか。


 黒い影に覆われたのっぺらぼうの姿から、ぼくは化けるトリックをしてみた。


 人間のような姿になったが、肌は一際雪のように白く、口から牙を覗かせる。


 ふたつ揃った目の下に青黒いクマをこさえて、人間で言うきれいな装束を翻した。


 この獣のモンスターの天敵・吸血鬼ヴァンピール化けるトリックしてみた。


 すると分かりやすく目の前にいる獣のモンスター達は動揺した。


「あっ、あっ、吸血鬼ヴァンピール?! 何で、奴らは絶滅したはず。ひいいいっ」


 一体の獣のモンスターがその場で腰を抜かした。


「うわああああ」


「な、なんだ?!」


 ほかの獣のモンスター達もその場から、命からがら逃げ出した。


 ぼくの中で達成感が感じられたが、トウリを脅かしたときのような高揚感は得られなかった。


 やっぱり驚かす相手は、人間に限るな。


 そんなことを考えていたときだった。


 ポキポキポキ


 と聞き慣れた音が響き渡る。スケルトンがぼくに向かって拍手をしている。


「すごいね、ユニ。いつの間に、そんな化けるトリックができるようになったのかい。何かイマジネーションを感じる出来事があったのかな?」


 スケルトンは気づいている。ぼくが人間と接触していたことに……。


 それでも特に何も言わないのは、喜んでくれているからなのだろうか?


「うん、いいことがあったよ。もっと化けるトリックを練習したいなあ」


「驚かす相手なんて、同族しかいないのに?」


 分かってて聞くのは、意地悪だなと思いながらぼくは答えた。


「もうすぐ、脅かす相手がたくさんやってくるよ」


「そうか、それは私も気合いを入れて準備をしなくてはいけないね」


 スケルトンは嬉しそうに笑っていた。



※  ※  ※



 ねえ、トウリ。


 ぼくは最近モンスターハッピーバースデイを迎えたんだ。


 やっと自分の存在が安定して、モンスターとして認められるようになったんだよ。


 ぼくはね、相手が怖がるものに何でも化けれるまね妖精ボガートになったよ。


 ーーだからね、トウリ。


 今度トウリと会うときは、モンスターとしてのユニを磨いておくよ。


 トウリが今度ぼくに会いにきたときに、盛大に驚かせるように、怖がってもらえるように。


 今度会ったときは、きっとあの恐怖に引きつった顔を見せてくれるよね?


 トウリ。モンスターの本性を教えてくれて、ありがとう。

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モンスターハッピーバースデイ masuaka @writer_koumei

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