お隣さんにフリでもいいから「彼氏になってほしい」と頼まれ付き合い始めたら彼女が甘々になった件について【SS】

柊なのは

「す」の次の文字は秘密

 2月14日。私、月島有沙つきしまありさは、するべきことが1つある。それは、好きな人に渡すバレンタインチョコを作ることだ。


 料理があまり得意ではない私は、ネットで作り方を調べてから作ることにした。


(まず、こういうのは形からですね)


 ブロンドの長い髪を1つにまとめるためポニーテールにして、家にあるエプロンをつけた。


 作れる時間は、彼が帰ってくる時間まで。となると後、1時間だ。


 最初、普通にハートのチョコを作ろうかと考えていたが、ネットで検索しているとチョコのカップケーキが美味しそうだと思い、作るものを変更した。


「よしっ、大丈夫です」


 小さく呟き、ネットにあった作り方を覚えてからチョコのカップケーキ作りに取りかかった。


 カップケーキは、前に1度だけ作ったことがある。けど、それは1人で作ったわけではないので正直、今、1人で作っていて不安だ。


 美味しそうに食べてくれる顔が見たい。1人で作れたことを褒めてもらいたい。いろんなことを思うとちゃんとしたものを完成したいという気持ちが強くなった。


(オーブンで18分……間に合いますかね?)


 時計を確認すると彼が帰ってくる20分前だった。ギリギリ間に合いそうで私は、ホッとする。


 後は焼けるのを待つだけ。ここまでよく自分1人でできたなと思い、嬉しさのあまり口元が緩んでしまう。


(ふふっ、まだ完成していないのに気が早いですね)


 焼き上がるまで後でカップケーキに乗せる小さな板チョコに白のチョコペンで文字を書くことにした。小さな板なので、書くとしても短い言葉だけ。


「ありがとう……いいえ、やはり好きですかね」


 バレンタインなので、好きと書くのがいいだろうと思い、チョコペンで好きと書き、「す」と書いたところでインターフォンが鳴った。


(は、早いです!)


 委員会があると言って5時頃には家に着くと聞いていたが予定より少し早めに彼は帰ってきた。


(早く帰ってきてくれるのは、嬉しいですけど、まだカップケーキが完成していません!)


 取り敢えず、エプロンを外して急いで玄関へ向かって鍵を開けた。


「は、早かったですね、千紘」


 私があまりにもドアを勢いよく開けたのでお付き合いしている天野千紘あまのちひろは、驚いていた。


「大丈夫か?」


「だ、大丈夫ですよ? さっ、寒いので入ってください」


「あ、あぁ……」


 千紘を家の中に入れると彼は、私のことをじっと見てそして近づいてきた。


「ち、千紘……?」


「有沙からいい匂いがする。何か作ってたのか?」


「えっ、あっ……」


 完成してから言うつもりでしたが、まさか匂いでバレてしまうとは……反省です。


「実は、千紘に食べてもらいたいと思い、カップケーキを作ってました」


 サプライズで1人で作ったことに驚いてもらおうと思ったが、もう隠す必要はないと思い、甘い匂いがする理由を話した。


「カップケーキ? えっ、食べたい。有沙1人で作ったのか?」


「は、はい……今日は、バレンタインなので。食べてくれます?」


 まだ味見はしていないが、味には自信がある。千紘は、食べてくれるだろうか。


「うん、食べるよ」


「で、では、お茶も用意しますね。千紘は、ソファにでも座って待っていてください」


 私は、キッチンに戻り、千紘は、私に言われたソファに座った。


(さて、焼いたものは……)


 オーブンからカップケーキを取り出してみるとかなり上手くやけていた。


 後は、先程の板チョコを突き刺して、もう一度オーブンで焼くだけだ。


 この間に温かい紅茶を淹れて先に千紘のところへ持っていった。


「紅茶です」


「ありがとう」


 渡した後は、またキッチンへ戻り、時間になるまで待っていると焼き上がった音がした。


「ふふっ、完成です」


 出来上がったカップケーキをお皿に乗せてフォークと一緒に千紘に渡しに行く。


「千紘、ハッピーバレンタインです」


「あっ、そう言えば今日は、バレンタインか」


 千紘は、忘れていたようでカップケーキを私から受け取りカップケーキがチョコである理由を理解した。


 立っているのもあれなので千紘の隣に座り、食べてくれるのを待つ。すると、千紘が何か見つけたのかカップケーキをじっと見た。


「この『す』って何?」


「す……?」


(あっ、そのまま出してしまいました!)


 好きと書くつもりが、『き』を書かずに板チョコを焼いてしまったことに今さら気付いた。


「えっと、それは……秘密です」


「えっ、秘密とか言われたら余計気になるんだけど……」


「なっ、内緒です。それより食べてください、どんな味か気になるので」


「う、うん……いただきます」


 千紘は、1口食べると美味しそうな表情をした。


「うん、美味しい。有沙も食べるか?」


「はいっ、食べま……食べません」


「えっ、今、はいって言わなかった?」  


「いっ、言ってません……」


 危なかった。千紘のために作ったものを私が食べるのは違う気がする。


 甘いものが好きだからつい食べたいと言ってしまうところだった。


「はい、あ~ん」


「えっーと、食べないと言いましたけど……」


「美味しかったよ?」


「むむむっ、ズルいです」


 美味しさの誘惑に負けて私は、千紘に1口カップケーキをもらった。


(……美味しい)


「お返しは、何がいい?」


「お返し……シュークリームがいいですっ!」


 千紘の作ってくれるシュークリームが、スイーツの中で1番好きなので即答する。


「わかった、シュークリームにするよ」


「ふふっ、楽しみです」


 ポスッと彼の肩に寄りかかり、目を閉じ、来年は、何を作ろうかと考えた。


(来年は、また違うものにチャレンジしたいです)



 





         (完)

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