第49話 星奈先輩の正体

「もちろん構いませんよ。ってことらしいから、悪い。2人は先に帰っててくれないか?」


「分かりました。それではまた明日、学校で」

「魔王さまバイバーイ! また明日ねー」


「2人ともまた明日」

 ロゼッタとルミナが肩を並べて帰っていく。


 ロゼッタとルミナを2人きりにすることに不安を覚えないと言えば嘘になる。


 が、しかし。

 ここでどちらか1人だけを引き留めるのは、これまたかなり怪しい行動だとルミナに勘繰られるだろうから、ここはさらっと見送る判断を取ったのだ。


 こうして星奈先輩と2人きりになったところで、俺は口を開いたのだが――、


「それで星奈先輩。話というのは――」


「いつまでそうやって男子高校生を演じているつもりかな? 史上最強の魔王ブラックフィールドの転生体くん」


 そこで星奈先輩から予期せぬ言葉が投げかけられた。


「……ええと、なんのことですか?」


 俺は困惑顔を作りながら、すっとぼける。

 同時に頭の中では思考が猛烈に加速し、臨戦態勢を構築していた。


 星奈先輩の一挙手一投足に最大限の注意を払い、いつでも闇の魔力を開放することができるよう、神経を研ぎ澄ましてゆく。


 ルミナさえいなければとっくに魔力を発動しているんだがな。

 ルミナがまだ校内にいる可能性がある以上、うかつに闇の魔力は発動できなかった。


 他の誰よりも、ルミナに俺の正体がバレることが、バッドエンドへの一番の近道だからだ。

 魔力の開放はギリギリのギリギリまで我慢する。


 しかしまずったな。

 完全に不意を突かれてしまった。


 抜き打ちの生徒会特別監査を乗り切った直後&ルミナがいない状況だったので、俺としたことがすっかり気を緩めてしまっていた。


 いや、そうか。

 生徒会監査は口実だ。

 星奈先輩の目的は最初から俺を観察すること、もしくは俺との接触だったんだ。


 くそっ、いつから気付かれていた?


 そんなの当然、魔会を申請しにいったあの日以外にあり得ない。

 俺と星奈先輩の接点はそこしかないからな。

 小学生だってわかることだ。


 いや、「いつ」を気にしてもいまさらもう無意味か。

 目の前の星奈先輩が何者なのか、今のこの状況をどうやって切り抜けるかを考えろ。


 まさか危惧していた勇者の仲間なのだろうか?

 いいや、それなら先に勇者ルミナスの転生体であるルミナとコンタクトを取るはずだよな?


 つまりルミナが勇者だと分かっていない……?

 だが魔力を隠す技術は、ルミナよりも俺の方がはるかに上手だ。


 完全に魔力を隠している俺が魔王だと見抜いているなら、ルミナの隠しきれていない聖なる魔力に気付かないはずがない。


 だとしたら――OK、Q.E.D.

 星奈先輩はおそらく味方だ。


 もちろん味方の振りをした敵の可能性が排除できない以上、俺はすっとぼけ続けなければならないわけではあるが。


(ここまで0.5秒)


「ははは。とぼける必要はないさ、魔王さま。ほら、アタシだよアタシ」

「ええと……星奈先輩ですよね?」


 俺には星奈先輩の情報がほとんどない。

 だから何を言われてもひたすらにすっとぼけるのみ。


 会話を続ける中で、なんとかして星奈先輩が何者なのかの見当をつけないと――!

 などと考えていると、


「だからアタシだっての。魔王四天王の一柱ひとはしら。『剛鬼』の二つ名を魔王さまより頂戴した、鬼族筆頭のルルセナさ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る