第48話 分かりあう(?)星奈先輩とルミナ

「遊佐さんだっけ。初めまして」

「初めまして星奈先輩。私のことをご存じなんですね?」


「そりゃあもちろん。1年生にすごく可愛い女の子がいるって、2年生の間でも有名だからね。うん、とっても噂通りの美人さんだ」


「そ、そうなんですね。自分の知らないところで噂されていたなんて、なんだか恥ずかしいです」


 ルミナがくすぐったそうにはにかんだ。

 その姿に不覚にもドキッとしてしまう俺。


 最近よく一緒にいるからか、こんな風にルミナの何気ない姿にドキッとしてしまうことが多い俺だ。


 どれだけ可愛くても、ルミナは俺を殺しに来た勇者。

 腹に聖剣をぶっ刺された痛みを今一度、思い出すんだ。


 魔王であることがバレたら問答無用で殺されるってことを、俺は絶対に忘れてはいけないのだから。


 俺は心の中で何度も何度も己に言い聞かせて、理想を上回りそうになるドキドキを意識の彼方へと追いやった。


「遊佐さんは、どうしてこの同好会に入ろうと思ったんだい?」


 おおっと?

 世間話をしつつも、監査はまだ続いていく。

 さしずめこれは部員のモチベーションを確認するための質問だろうか?


 ま、普通に異世界ファンタジーが好きだと言えばそれで終わる話で、ルミナならそう答えるだろう――という俺の期待は、はかなくも裏切られてしまう。


「そ、それはその……あの……ですね?」

「なんだい?」


「だからその、いわゆる一つのアレと言いますか……」

 星奈先輩にもにょもにょと歯切れの悪い言葉を繰り返しつつ、ルミナが俺をチラリと見た。


 なんでここで俺を見る?

 その行動はノット・グッドだぞ?


 それじゃあまるで俺のせい――つまりは「俺がルミナを人数合わせのために無理やり入れた」などと、星奈先輩に勘違いされてしまうかもしれないじゃないか。


「ふうん、なるほどねぇ。そういうことかぁ……いやはや、なかなか込み入った事情みたいだねぇ」

「えっと、その、はい……えへへ」


 星奈先輩の言葉に、ルミナが消え入るような声でうなずいた。


「すみません、込み入ったというのは何の話でしょうか? というか、今のルミナの説明で分かったんですか?」


「むしろ君は分からなかったのかい?」

 星奈先輩が小さく苦笑した。


「すみません、まったく分かりませんでした。話は聞いていたつもりだったんですが」


 というかルミナは「その」とか「あの」とかしか言ってなかったのに、それで何が分かると言うのだろうか……?


 どうにも話についていけずに困った俺が、同じく理解できていないであろうロゼッタに視線を向けると、ロゼッタは、


「えー! 分からなかったんですかぁ?」

 なんて言って返してきやがった。


「なん……だと……? ロゼッタにも分かっただと……?」


「もうー、魔王さまってばー。そんなのルミナちゃんが魔王さまのことを――」


 俺に何事か説明しようとしてくれたロゼッタの言葉を遮るようにして、


「あの! 話しているばかりじゃなんですし、実際にロゼッタちゃんの書いたものを星奈先輩に見てもらうというのどうでしょうか! やはり活動実績を確認してもらうのが、一番いいと思うんですよね!」


 ルミナがとてつもない早口でそんな提案をしてきた。


「それはたしかにルミナの言う通りなんだけど、俺としてはその前にさっきのやり取りの意味を知りたい――」


「それはもういいと思います! 思いますよね! はい、思いました!」

「え、あ、うん。そうだな」


 前世の勇者ルミナスを思わせる裂帛の気合をぶつけてくるルミナに、強引に押し切られる形で、俺はこくこくとうなずいたのだった。


 そのまま流れで、ロゼッタ先生が鋭意執筆中の異世界転生ものを星奈先輩に読んでもらい、


「これはすごいね。軽く目を通すだけのつもりだったんだけど、序盤のところをつい引き込まれるように読みふけってしまったよ」


 なんて高評価も貰いながら、特に問題はなく生徒会特別監査は無事に終了した。


 しかし終わったと思った矢先に、


「黒野くん、事務的なことを二、三確認したいから今から少しいいかな?」

 俺だけ星奈先輩から居残り要請をされてしまった。

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