第50話 魔王四天王ルルセナ

 その名前を聞いた俺は、そこでやっとホッと安堵の一息を付くことができた。

 臨戦態勢も即座に解除する。


 星奈先輩が嘘を言っているかもしれないって?

 大丈夫、それはないという確信が俺にはあった。


 というのも鬼族は真名を隠し、親しい相手以外には通り名しか教えないというシキタリを守り続ける種族だからだ。


 ルルセナは彼女の真名であり、一族以外では俺くらいしかその名を知らない。

(それ以外にはセナと名乗っていた)


 よって星奈先輩はルルセナ本人で99%、間違いはない。


 そして前世の俺とルルセナは、魔王と四天王という上下関係よりも、トップクラスの戦闘力を持った気の合う仲間といった感じで、心を許せる間柄だったのだ。


「なんだルルセナ、お前だったのかよ。勇者ルミナスの仲間かと思って焦ったじゃないか」


「おや、まさか本当に今の今まで、アタシがルルセナだって気付いてなかったのかい?」


「まさかって言いたいのはこっちだっての。まさか星奈先輩がルルセナだったなんて思いもよらなかったよ」


「平和ボケして、感性が鈍ったんじゃないかい? 楽しそうに同好会活動をしていたみたいだし」


「高校生ってのは青春を楽しむもんだろ。っていうか俺が魔王だって分かっていたなら、もっと早く声をかけてくれよな。こういうやり方は心臓に悪い」


 さっきは一戦やりあう覚悟で、マジのガチで臨戦態勢だったんだからな?


「アタシだってすぐに声をかけようと思ったんだってば。だけど近くに遊佐ルミナがいたからね。そりゃあ警戒もするだろう? 不用意には近づけなかったのさ」


「ルミナが勇者ルミナスの転生体だってことにも当然、気付いていたか」


「そりゃああれだけ聖なる魔力が出ていたらね。気付かないはずもないさ。というか、魔王さまこそ勇者ルミナスと一緒に同好会とは、どういう風の吹き回しなんだい?」


「それがさ、聞いてくれよ~!」


 俺は聞くも涙、語るも涙。

 ロゼッタの失言をなんとか誤魔化すために「魔会」を設立した話を、星奈先輩に語って聞かせた。


「ふふふふっ! あはははっ! さすがはロゼッタだね~!」


「笑い事じゃないってーの。本気でヤバかったんだぞ」


「これを笑うなってのは無理な話だねぇ。だって『異世界』をごまかすために『伊勢海』『老』でしょ? 力業にもほどがあるでしょうよ」


 ケラケラと腹を抱えて笑う星奈先輩。

 魔王相手にここまでフランクに接してくるのは、ロゼッタと星奈先輩くらいのものだろう。


「マジで必死にひねり出したんだっての。身バレして死ぬかと思って、冷や汗ダラダラだったんだからな」


「わかるよ。わかるけどさ? でもあの子は悪気なんてまったく無しで、ただただナチュラルにダメな方のツモを引き続ける子なんだ。ある意味、才能の持ち主なんだよねぇ」


「酷い才能もあったもんだ……でもよかった。やっと安心できる味方ができた。これで気持ちも楽になる。九死に一生を得た気分だ」


「今世の魔王さまはイチイチ大げさだねぇ」


「大げさなもんかよ。ロゼッタはあの通り、嘘をついたり隠し事ができない。大事なことは言えないし、問題を共有することもできない。ルミナの前で前世がらみの失言するたびに、俺は必死で言い訳を考えてきたんだぞ」


 そしてロゼッタがそんなだからこそ、星奈先輩もこの場にロゼッタを呼ばなかったのだろう。

 自分が魔王四天王ルルセナであることをロゼッタに伝えるのはまずいと、そう判断したからだ。


 ……おいこら。

 冷静に考えたら、ロゼッタの理解者みたいなことを言いながら、やってることは完全に自己保身じゃねーか!


「あの子は素直が取り柄だからね。本来、世界なら素直は美徳だけれど、勇者ルミナスの転生体が目の前にいて、命を狙われているという状況なら話は別だね」


「そうなんだよなぁ。ま、ここで言ってもしょうがないんだけれども」


 俺と星奈先輩は顔を見合わせると、昔のようにお互いに苦笑しあった。

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