第41話 ロミオとジュリエットが嫌いな理由を、必死にこじつける魔王さま。

「劇……ですか?」


「ああ、ロミオとジュリエットの劇だったんだよ」

「もしかしてロミオ役をマオくんがやったんですか?」


 何を期待しているのか、妙に目を輝かせるルミナ。


「あはは、主役なんてまさか。俺の役は『木』だよ」

「……き? えっと……き、とは?」


『き』の意味が分からなかったようで、ルミナがわずかに小首をかしげた。


「英語で言うとツリーだな」

「あっ、その『木』ですか……え? 木の役をしたんですか? だって、木って普通は絵で描いたりしませんか?」


「当時の俺はお世辞にも、セリフなんてまともに言えるような利発な子供じゃなかったからさ」

「今のマオ君を見ていると、その話はとても意外な気がします。かなり饒舌じょうぜつですよね」


 もしかして、今までいろいろ誤魔化すためにしゃべり過ぎたことで、疑われてしまっているのだろうか?


 今だってそうだ。

 ロゼッタのポカを誤魔化すために、俺は必死に言い訳トークを続けている。

 明らかにしゃべり過ぎている。


 やましいことがある奴ほどよく喋るってのは、心理学的にも証明された事実だ。

 今の俺はルミナから見れば相当怪しいに違いない。


 ま、考えても仕方ない。

 今の最優先目標は、目の前にある窮地を脱することなのだから。


「昔は結構、内向的だったんだ。自分から何かをするってタイプじゃ全然なくてさ」


 昔というか、魔王として覚醒するまでは、だけどな。

 別に嘘は言っていないので、俺は堂々と言った。

 なんなら1秒前だって昔は昔だ。


「ですが、そういうマオくんも見てみたくはありますね。今となっては見れないのが残念です。とても想像ができませんから。ふふっ……」


 内向的な俺の姿は、ルミナ的には小さな笑いどころだったらしい。

 あれか、ギャップ萌え(ルミナは俺に萌えているわけではないが)とかそういう感じか。


「で、話を戻すんだけど。俺の親も劇を見に来る手前、俺を参加させないわけにもいかないだろ? 困った末に一言もしゃべらない役を用意したんだろうな」


「それでもさすがに『木』はないんじゃないでしょうか?」


「俺の『活躍』を実際に見た親は笑っていたな。俺がそういう子供だったのは親が一番知っていたから、上手い落としどころを見つけたなって、納得もしたんじゃないか? 今になってのなんとなくの推測だけどさ」


「なるほど……なんですかね? 納得いくようで、納得いかないような?」


 ルミナが小さく苦笑した。

 根が真面目なルミナは、微妙に納得がいっていないらしい。


 まぁ、もしルミナが幼稚園の先生だったなら、内向的だった俺がなんとかセリフを言えるように、付きっきりで練習に付き合ったりしそうだもんな。


「それでそれ以来さ。俺は俺を木にしやがったロミオとジュリエットには、必ずケチをつけるようにしているんだ。映画だろうが、漫画だろうが、ラノベだろうがな」


「そういう理由だったんですね。なるほど、全てはマオくんの私怨でしたか。それならしょうがありません」


 長々とした俺の説明の果てに、ルミナはクスクス笑いながら一応の納得してくれたのだった。


 ――とまぁ今日も今日とて、感想会でも連発されるロゼッタの失言をなんとか誤魔化し、命の危機を切り抜けた俺だった。

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