第39話 勇者を過剰に警戒する魔王さま
ま、そうだろうな。
観察するなら正面からよりも横からするべきだ。
俺でもそうする。
俺を観察するなら正面からのほうがいいんじゃないか? などと思うのは、これは素人の浅知恵というものだ。
説明しよう!
ルミナが俺をまっすぐ見れるということは、俺もまたルミナをまっすぐ見れるということに他ならない。
当然、観察するような視線は相手からもバレやすい。
視線は交差するし、相手に警戒感を与えてしまう。
しかし横からであれば、視線が交差することがまずない。
俺の視線が向いていない状況で、ルミナが一方的に観察することができる状況を、いくらでも作り出せるのだ。
しかも右隣というのが、これまたいやらしかった。
おっと、いやらしいと言ってもエロいって意味じゃないからな?
というのも、ほとんど全ての日本人は、物を見るときに必ず左から右に視線を送る。
これは左から右に文字を書く横書き文化圏だからだ。
つまり日本人はふと眼を動かしたときに、無意識のうちに左を見る。
つまり左を見ること=自然な目の動きになるわけだ。
逆に俺が右隣のルミナを観察しようとすると、不自然に右を見なくてはならない。
本当に小さな違いだが、それで俺がルミナを警戒して観察していることを悟られる可能性が出てきてしまうのだ。
つまり席取りの時点で、俺はルミナに後れを取ってしまったというわけだった。
さすがは勇者の転生体だ。
座る席一つにしても、当然のように自分有利の状況を作り出してきやがる。
だが魔会での戦いは始まったばかりだ。
まだまだ勝負はこれからだ――!
(ここまで0.5秒)
「それで、どんな活動をするんですか?」
「今はとりあえずラノベを読んで、気楽に感想会をしてるくらいかな」
「いわゆるインプットの時間というわけですね」
「そんな感じだ」
「既にかなりたくさんのラノベが置いてありますよね?」
「これは全部ロゼッタが持ってきてくれたんだ。ロゼッタはラノベやファンタジーに詳しいみたいでさ」
「えへへ~、それほどでも~!」
「ずっと話していてもなんだ。ロゼッタ。ルミナが好きそうな本を適当に見繕ってくれるか?」
「はーい」
ロゼッタは本が何冊も並べられた本棚に向かうと、
「ど・れ・に・しようかな~? やっぱり最初はこれかなっ。ロミオとジュリエットみたいですごくロマンティックなんだからっ♪」
1冊の本を取り出した。
この前、俺がどうしても納得がいかなかった、魔王と勇者が恋に落ちる例のラノベだ。
……よりにもよってそれかよ。
どうしてわざわざ「魔王」と「勇者」を彷彿とさせるような本を選ぶんだ。
ルミナに意識させてどうする。
下手したら挑発しているとも受け取られかねないぞ?
もちろんそんなことを思っているとはおくびにも出さない。
「かなり面白いよ。俺もこの前呼んだんだけど、結構お勧め」
「2人のお勧めとなると、今から読むのが楽しみです」
ルミナが早速、ラノベを読みだした。
「はい、魔王さまにはこれっ」
続けてロゼッタが俺にも1冊見繕ってくれたので、
「サンキュー」
俺も受け取って同じように読み始める。
ロゼッタも自分用の本を用意して読み始めたので、俺たちはすっかり静かになった。
ふぅ、やれやれ。
こうやって本を読む時間に入ってしまえば、ロゼッタが失言することもないし、かなり気楽でいられるな。
俺はルミナが俺を監視・観察していることは意識しつつ、それでもかなり気楽な気分でロゼッタの推薦図書を読みふけったのだった。
ちなみに今日のお勧めは「破邪の聖女」という作品だったんだが、ヒロインがなかなか個性的な性格をしていて、これもまたとても面白かった。
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