第28話「気にするな。これも生き延びるための必要経費だ」「じゃあパフェも頼んでいいですかー?」

「明日の朝一で生徒会に申請して、可能なら放課後から活動を始めようと思っている。適当に漫画とかラノベがあれば持ってきてくれ」


 ルミナの近くでロゼッタを野放しにしておくわけにはいかないからな。

 これに関しては早いに越したことはない。


「お勧めのご本を魔王さまに紹介しますね~。アレと、アレと、あ、アレもいいかも~! あ、だったらアレも~~!」


 楽しそうに指折り数え始めたロゼッタに、小さく苦笑しながら俺は話を続ける。


「それと何かしらの成果物を作らないと、同好会としての活動が認められないらしいんだ。ま、活動実績ってやつだな」


「成果物……何か当てはあるんですか?」


「とりあえずWeb小説でそれっぽいファンタジー小説でも書いて、文化祭でそれをコピー本にして展示することで、手っ取り早く成果物にしようと思っている」


 文科系の同好会は一律に、秋にある文化祭で一年間の活動実績として成果物を提出し、生徒会から活動チェックを受けなければならない。


 この辺りの同好会に関する規定は、生徒手帳を見てすべて確認してある。

 俺に抜かりはない。


「でもでも。そんな適当で大丈夫なんですか?」


「これは俺の推測だが、成果物さえあれば、その中身の出来・不出来はそこまで厳しく問われることはないはずだ」


「そうなんですかね……?」

 ロゼッタが可愛らしく小首をかしげた。


「なんだよ? なにか気になることでもあるのか?」


「気になるというかー? やっぱり成果って言ったら、受賞とか、デビューとか、そういうのになるんじゃないかなーって」


 へぇ。

 さっきからロゼッタの受け答えを聞いてると、結構Web小説とかそういうのに詳しそうだな?


 そう考えると『魔王と異世界ファンタジーについて考える会』――『魔会』同会は、意外と「あり」だったのかもしれない。


「考えてもみろロゼッタ。本気でプロ作家を目指すようなガチガチの創作集団ならいざ知らず、しょせんは高校生の同好会だ」


「そうですねー」


「ってことは、出来上がったものが大したものじゃなくても、なんら問題にならないであろうことは、火を見るよりも明らかだろ?」


「なるほどですぅ! さすがですね、魔王さま!」

「それとできれば『魔王さま』って呼び方もやめてほしいんだが――ま、無理か」


「はい、無理です♪ だって魔王さまは魔王さまなんですから」


「だよな。急にやめるのは無理だろうから、『マオさま』って俺の名前を様付けで呼んでいるってことで押し通すしかないか」


 世の中、諦めが肝心だ。

 嘘も貫き通せば真実となる。

 生き残るために、俺は嘘をつき続けよう。


 とまぁ、とりあえず全部話したいことは全部、話し終えたところで、


「お待たせしました~。『豪華!伊勢海老入り!特製海鮮丼!!』になります」


 注文していた海鮮丼が運ばれてきた。


「いっせえび~♪ いっせえび~♪ ふんふんふ~ん♪ いっせえび~♪」


 ロゼッタは再び伊勢海老ソングを口ずさむと、しっかりと両手を合わせて「いただきます♪」と言ってから、海鮮丼を食べ始める。


 もぐもぐと、それはもう幸せそうに食べるロゼッタを見ながら、俺も「いただきます」と言って食べ始めた。


「へぇ、美味しいな。2500円もするだけのことはある」


 2人で5000円。

 もちろん俺のおごりだ。


 俺は魔王で、しかも男の子。

 元とはいえ、部下の女の子に払わせるなどもっての他である。


 バイトをしていない高校生にとっては結構な出費だが、命には代えられない。


 幸い、俺=黒野真央は無駄遣いが少なく、お年玉もため込むタイプだから、まったく払えないというわけでもないしな。


「美味しいですぅ~♪ 魔王さまありがとうございます」


 うん。

 そうと思えば、魔王さまではなくマオさまと言っているようにも聞こえなくもない……かもしれない……多分。


「気にするな。これも生き延びるための必要経費だ」


「じゃあパフェも頼んでいいですかー? すごく美味しそうなのがあって、気になってるんですよね~」


「……好きにしてくれ」


 危機感ゼロの天真爛漫な笑顔で言われた俺は、その可愛らしい笑顔にドキリ半分、危機感のなさにがっくり半分てな感じで、苦笑するしかなかったのだった。


 明日から全力フォローしないとだな……。

 


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