第29話💕ルミナの乙女回路~2~💕

 💕ルミナSIDE💕


「はぁ……。気分が乗りません……」


 ルミナは学校からの帰り道を一人で歩きながら、大きなため息をついた。


 普段なら仲のいい友達と一緒に帰るところなのだが、今日という日に限って部活だったり、委員会だったり、デートだったりと、みんなして用事があったため、ルミナは友達との会話でテンションを上げることもできずに、一人さみしくうつむきながら家路を歩いていたのだ。


「マオくんとは結構いい感じに仲良くなっていたはずなのに。なのにあんなに可愛い幼馴染がいたなんて聞いていませんよ……」


 廊下ですれ違ったロゼッタは、真央のことを「マオさま」と実に親し気に呼んだ。

 しかもそれだけでなく、真央も「ロゼッタ」と名前で呼び捨てにしていた。


 そのことに、ルミナは何とも言えない心のもやもやを感じていたのだ。


「幼馴染なんですから、そりゃあ親し気に呼び合っても不思議じゃありません。そもそも私にはあれこれ言う権利なんて、猫の額ほどもありませんし……」


 仲良くなったとはいえ、ルミナと真央はただのクラスメイトでしかない。


 真央の親しい交友関係に――反社会的勢力と繋がりがある相手とかならまだしも――文句を言う権利も筋合いも、ルミナは持ち合わせてはいなかった。


 そのことはルミナも重々承知している。


 だが頭では分かっていても、心はちっとも納得しておらず、ロゼッタと親しげに話す真央を見てからずっと、いいようのないもやもやがルミナの心を覆い続けていたのだった。


「今頃マオくんは、ロゼッタさんと仲良く伊勢海老を食べているのでしょうか……。伊勢海老デートです……。はぁ……」


 2人が仲良く伊勢海老デートをしている姿を勝手に想像しては落ち込み、また勝手に想像しては落ち込む。


 マッチポンプの堂々巡りに陥りながら、ルミナはもう何度目かわからない大きなため息をついたのだった。


 ――え?

 ロゼッタが魔王ブラックフィールドの関係者だと、疑ってはいないのかって?


 それはもちろん。

 そんなこと、ルミナはこれっぽっちも疑ってはいませんよ?


 人気のない体育館裏で最初に真央を疑ってしまった後、「勘違いでした」と心からの謝罪をしたルミナ。

 あの言葉に、嘘偽りがあるはずないじゃないですか。


 前世で勇者だっただけあって、ルミナはとても正直で実直で、裏表のない性格の女の子なのです。


 真央が魔王でない以上、ロゼッタが魔王の関係者なわけもない。

 しごく当たり前の結論ですよね?


 むしろ疑う理由すらないといっても過言ではないでしょう。


 なにより今のルミナは、恋する乙女。

 恋とは種の存続という、人間の本能の最も深いところ根ざした生命の神秘が、具現化したもの。


 今のルミナは手強い恋のライバルの出現に、心は千々に乱れ、魔王ブラックフィールドのことなんて1ミクロンたりとも考える余裕などありはしないのです。


 恋とは人の心をこれでもかと焦がし、震わせ、燃え上がらせるモノ。


「ですが、私だって負けません。幼馴染という強固な関係性に割って入るには、真正面からアタックあるのみです!」


 ルミナはうつむいていた顔を上げると、拳をグッと強く握りしめ、真央への更なるアプローチを誓ったのだった。


 💕ルミナSIDE END💕

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