第27話『魔王と異世界ファンタジーについて考える会』活動方針

「それで、勇者ルミナスはどこの誰なんですか?」


「俺とロゼッタが廊下でバッタリ会ったときに、俺の隣に女子がいただろ?」

「はい。1組の遊佐ルミナさんですよね」


「なんだロゼッタ。もしかしてルミナを知っていたのか? たしかにロゼッタはごく稀にものすごい直感を見せるが……」


 廊下ですれ違う時に一目見ただけで、姿がまったく違っている俺が魔王だと見抜いたように、ルミナが勇者であることも見抜いていたのか?


「うちのクラスでも噂になっていますよ。アイドルよりも可愛い子がいるって。実際に目の前てみたら、ちょー可愛くてびっくりしちゃいました」


「いや、そういう話じゃなくて、遊佐ルミナが勇者だと知っていたのか、って聞いたつもりだったんだが」


「えええええっ!! 遊佐さんが勇者ルミナスなんですか!?」


「ばかっ、声が大きいっての。誰かに聞かれたらどうする? ルミナや、勇者ルミナスの仲間たちが俺たちを見張っているかもしれないんだぞ。もう少し小さな声で話してくれ」


「は、はい。でも、本当なんですかー?」


「本当だ。廊下で俺の隣にいた遊佐ルミナが勇、者ルミナスの転生体だ」

「わわっ、本当に遊佐さんが勇者の転生体なんですね~。すごーい!」


 なんか反応がイチイチ軽いなぁ。

 俺は今後のことを考えると、もう既に不安でいっぱいだよ。


 俺はともすればメゲそうになる心を、必死に奮い立たせた。


「そういうわけだから。魔王とか異世界とか、前世がバレるようなことはルミナの前では絶対に言うんじゃないぞ」


「おっけー、おけまる!」

 ロゼッタが右手の親指を立ててグーと突き出してきた。


 ……この風船のように軽い受け答え。

 絶対にわかってないだろ。

 賭けてもいい。


 だがロゼッタに何を言っても無駄だろう。

 俺がなんとかフォローしないと、まずいことになるのは確定的に明らかだった。


 はぁ……。

 俺は心の中で深々とため息をついた。


「それと、同好会を作るから、ロゼッタも参加してくれ」

「なんでしたっけー? 『魔会』でしたっけー?」


「ああ。『魔王と異世界ファンタジーについて考える会』、通称『魔会』だ。誤魔化すためとはいえ、言ってしまったからには、やらないとルミナから疑念を持たれるだろうからな」


「魔王さまと同好会、楽しそうですー。それで魔会では、なにをするんですか?」

 それはもう楽しそうに、にへらーと笑うロゼッタ。


「とりあえず異世界もののラノベを読んだり書くことにする。というかそれ以外思いつかなかった」


 なんだよ『魔王と異世界ファンタジーについて考える会』って。

 こんな口から出まかせを、ルミナもよく信じてくれたな。


 まぁ信じたというよりは、黒と断定できないから保留したって言った方が正しいんだろうけれども。

 これで勇者が心の底から信じたなどとは、俺も思っちゃいないわけで。


「さすがです魔王さま! ラノベを読むだけでなく、書くこともできるんですね! 実はわたしも悪役令嬢とか婚約破棄とか読むのが結構好きで~。そういうの書ける人って、尊敬しちゃいますよぉ」


「いやいや、いくら俺でも物語なんて書けるわけないっての」

「えー、そうなんですかぁ?」


「そりゃ、文章を書く練習なんて、魔王時代も転生後もしたことはないからな。未知の領域だよ」

「あははー! できないのにそういう同好会を作るって言っちゃったんだ~! もぅ、魔王さまったらドジ~!」


 いったい誰のせいだと思っている、と言いたい気持ちを、歯を食いしばってぐっと堪えた俺、すごくえらい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る