第26話「いっせえび~♪ いっせえび~♪ ふんふんふ~ん♪ いっせえび~♪」

「俺とこの子、期間限定の『豪華!伊勢海老入り!特製海鮮丼!!』を2つで」

 俺が店員さんに告げると、


「いっせえび~♪ いっせえび~♪ ふんふんふ~ん♪ いっせえび~♪」

 俺の気も知らずに、ロゼッタはルンルン気分で超適当な伊勢海老ソングを口ずさんだ。


「出来上がるまで少々お待ちください」

 店員さんがにこやかに笑いながら立ち去っていくのを見送りながら、俺は口を開いた。


「ロゼッタ。まじめな話をするから、よく聞いてくれ――っとその前に自己紹介が先か。俺は今は黒野真央。1週間ほど前に前世の記憶を思い出したばかりだ」


「わたしは今は咲蓮されんロゼッタです。えーっと、趣味はカラオケでぇ、スイーツが大好きでぇ、犬を飼っていて。あ、見ます? ミニ柴なんですけど、モフモフでもうすっごく可愛くて~」


 ロゼッタがスマホを取り出すと、フォルダ内にある犬の写真を見せてくる。

 赤茶のミニ柴はくりくりした瞳で愛嬌のある顔立ちで、とても可愛らしかった。


「なるほど。たしかに可愛いわんこだな。ま、それは置いといてだ。ロゼッタが前世の記憶を取り戻したのはいつだ?」


 飼い主ってのは自分ちのペットの話をしだすとたいがい、話が長くなるものなので、俺はサクッと話を次に進める。


「わたしは今日です。魔王さまを見てビビッと電流が走っちゃいました」

「おいおい、あの瞬間かよ? 前世と今じゃ、見た目は全然違っているだろ? 良くわかったな?」


「もぅ、魔王さまってば~。そんなの見ればわかりますよ~。やだな~」


 ロゼッタはさらっと言ってのけるが、もちろんそんな簡単な話ではない。

 現にルミナはいまだに俺が魔王であると確信が持てずに、俺を疑い続けているのだから。


「本当にわけのわからないところで、理解を超えた直感を働かせるヤツだな……」

「えへへ、それほどでも~」


 俺に褒められて、ロゼッタがにへら~とうれしそうに笑った。


「それともう一つ。闇の魔力をまったく感じないが、隠しているのか? 前世じゃそういう細かい技術は苦手だったと記憶しているが」


「あー、魔力はないっぽいですー」

「は? ないってのは、なんだ?」


「魔力はまったくのゼロですね。記憶が戻ってから、魔法を使ってみようと思ったんですけど、ぜんぜん使えなくて。どうも前世の記憶だけ思い出しちゃったみたいですね。あはは~」


「……なるほど。そういうパターンもあるのか」


 なにせ俺の転生の秘術は、本来の形を逸脱して完全に暴走していた。

 記憶だけしか受け継げなかったとしても不思議ではない。


 むしろ俺がそうならなくてよかったまであった。


「ただの女子高生ですね♪ 毎日、とても楽しいですよ~♪ 前世の記憶が戻ったからいっそうそう感じます。魔界は日本と比べたら、オワってましたからねー」


「ま、ある意味悩みが減ったとも言えるか」


 幻術や催眠といった使い勝手のいい魔法をまったく使えないことは、たしかに残念だ。


 しかし同時に、ロゼッタが後先考えずに闇の魔力を使うことで、ルミナからロゼッタが魔王の関係者だと疑われる心配がなくなったことに、俺はおおいに安堵したのだった。


 あとはこのおしゃべりな口を黙らせればいいだけだ――もちろん、それが一番難しいんだけどな!

 だってロゼッタの奴、明らかに考える前にしゃべってるから!


 それでもなんとか手綱を握っていないと俺は死ぬわけで。

 だから俺はまず、ロゼッタに現状を説明した。


「俺のクラスに勇者ルミナスがいる」

「勇者ルミナスがですか?」


 さすがのロゼッタも勇者ルミナスの名前を出すと、まじめな顔になった。


「正確には勇者ルミナスの転生体だな。俺やロゼッタと同じで転生の秘術に巻き込まれたんだ」

「なるほどです~」


「実を言うと、既に俺は疑われているんだ。魔王だとばれたら殺される。ちょっとヤバい状況だな」


「疑われるようなことをするなんて、魔王様ってばドジっ子~! あはは~♪」


「くっ、よもやこの俺が、よりにもよってロゼッタにドジだと笑われる日が来るとは……っ! しかも事実なので言い返せない……っ!」


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