第4話 疑われている……!!
俺は冷や汗をだらだら流し、さらには内心で激しく動揺しながらも、なんとか態度には出さず、高速で思考を展開していく。
いいや違う、さっきのは「魔王」じゃない。
俺の名前を呼んだんだ。
黒野真央という俺の名前を呼んだだけで、魔王と呼んだわけではないはず!
だから俺の正体がバレているわけじゃない!
特に仲がいいわけでもないクラスメイトを、名字でなくていきなり名前で呼ぶのは極めて不自然だが、クラスメイトを魔王と呼んじゃう方が、はるかに不自然だと俺は思うな!
それに海外だと名前で相手を呼ぶんだろ?
ってことはハーフの遊佐さんが俺を名前で呼ぶ可能性は、なくはないってことだ!
よってセーフ!
バレてはいない!
どう考えても無理があるな、うん。
穴だらけの論理だな。
明らかに俺は、遊佐さんから魔王ではないかと疑われている。
さっき闇の魔力を使ったせいで、まだその残滓が周囲にうっすらと漂っているからだ。
くそっ、不用意だった。
俺が転生していた以上、勇者ルミナスも転生して俺の近くにいるはずだと、少し考えればわかっただろうに。
世界有数の平和国家・日本でヌクヌクと生まれ育ったことで、かつて魔王として君臨していた頃のギラギラとした鋭い思考や、直感的な感性が鈍ってしまっているのだ。
だがここであっさりボロを出したらそれこそ人生終了だ。
落ち着け、落ち着くんだ。
仮に疑われていたとしても、確証は持っていないはず。
確証を持っていないからこそ、こうやって確かめようとしているんだ。
なぜなら勇者とは「正義の味方」だから。
正義の味方は、俺が魔王だという「絶対の確証」がなければ殺すことはできない。
正義とはどれだけ面倒であっても、常に正しい手順を踏む必要がある。
いきなり魔王かどうか尋ねてきたのは、俺の反応を見るためだ。
俺が動揺して異世界ラビリントス関連のワードをポロリでもすれば、ジ・エンドってわけ。
よって俺がなすべきことは――知らぬ存ぜずで押し通すこと!
全力で「どこにでもいる普通の男子高校生」を装うんだ!
(ここまで0.5秒で高速思考)
「え? ああ、俺は黒野真央だけど? 遊佐さん、俺の名前まで覚えてくれたんだね。ちょっと嬉しいかも」
俺は全力ですっとぼける。
ともすれば聖剣をブッ刺されたトラウマでひきつりそうになる表情筋を、全力で叱咤激励して、渾身の笑顔を浮かべる。
大丈夫だ、バレちゃいない。
少なくとも確証は持たれていない。
俺は心の中で、何度も自分へと言い聞かせる。
「この辺りで覚えのある闇の魔力を感じました。心当たりはありませんか?」
さっきから探りを入れてきているんだろうが、こう見えて俺は元・魔王。
そんな簡単にはボロは出さないぞ?
(なにせ命がかかってるからな!)
「それってもしかしてアニメとかゲームの話? 呪術太戦とか曹操のフリーレンなら俺も見てるよ。面白いよね。遊佐さんってそういうの好きなんだ? 結構気が合うかも?」
俺は逃げ出したい本能的な衝動を必死に抑えつつ、敢えて身を乗り出すようにしながら、遊佐さんとの話に乗り気な様子を見せた。
本当は今すぐにでも会話を切り上げて立ち去りたいところだが、それをしてしまうとよりいっそう強く疑われてしまうからな。
だってそうだろ?
考えてもみてほしい。
遊佐さんみたいな超可愛い女の子に、2人きりの体育館裏で声をかけられて、あっさり話を切り上げてさっさと教室に戻る男子高校生がどこにいる?
そんなことをしたら、魔王だとバレないように逃げたとよりいっそう疑いの念が深まるだけだ。
よって、ここは普通の男子高校生らしく、まずは遊佐さんと仲良くなりたそうな態度を取るべきだ。
これをチャンスとばかりに、遊佐さんと少しでもお近づきになりたい願望が透けて見える、お年頃な男子高校生を演じるのだ。
というか遊佐さんが勇者ルミナスの転生者でなければ、俺は間違いなくそう思ったはず。
転生体とはいえ勇者ルミナスが目の前にいるのは恐怖でしかないが、高校生としての自分を見せるだけなら何てことはない。
いやー、魔王ブラックフィールドの記憶を取り戻すのが遅くて良かったよ。
15年生きてきた自然体の
そして。
会話を上手く運べなくて、居ても立ってもいられずに立ち去るというのがここからの俺のプランだった。
なんとも情けない展開だが、これはこの場から上手く逃げおおせるだけでなく、遊佐さんに「こんなヘタレな奴が魔王なわけがない」と思わせる意味もあった。
1つの行動で2つ、3つと複数の結果を同時に得る。
フハハハハハッ!
これくらいのこと、魔王の俺には赤子の手を捻るがごとくたやすいのだ!
(ここまで0.5秒で高速思考)
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