第3話 勇者ルミナスの転生体――遊佐ルミナ
見覚えのある女の子だ。
俺と同じ1年1組のクラスメイトで、隣の席の
イギリス人と日本人のハーフ――クオーターだったかも――らしく、流れるようなサラサラの金髪と、女神のごとき端正な顔立ち、出るところは出た魅惑的な身体を、我が県立高校のどこにでもありそうな平凡極まりないブレザー制服で包んでいる。
が、しかし。
平凡な制服を着てすらその美しさを貶めることはできない――そんな美少女だった。
にわかには信じられないのだが、どうも中学までは地味な子だったらしい。
黒髪大国の日本で、金髪で地味子ってある意味すごい。
やろうと思ってもやれない気がする。
性格とか、容姿以外のところが本当に地味だったんだろう。
そんな遊佐さんが、春休みの間にキラリン☆とイメチェンし、見事に高校デビューを果たしたのだとかなんとか、クラスメイトの陽キャたちが盛り上がっていたのを俺は思い出していた。
しかし入学早々モテカワ女子ランキングぶっちぎり一位と噂され、クラスのリーダーとなっている彼女が、どうしてこんな人気のないところに来たんだ?
もしかして俺に告白とか?
遊佐さんは美人だし、誰にも分け隔てなく優しいし、明るい笑顔が素敵な女の子だ。
遊佐さんなら俺はいつでもウェルカムだぜ?
なーんてな──って、ブフォぁぁっっ!?
アホなことを考えていた俺はしかし、驚きのあまりおもわず吹き出しそうになった。
ちょ、ま!?
嘘だろおい!?
と、いうのもだ!
抑えようとはしているようだが、抑えようとしていても隠しきれない、この強大な聖なる魔力の波動!
なにより前世の記憶に鮮明に残っているものとそっくり同じ、女神のような端正な顔立ち!
お、お前!
お前お前お前お前!
お前まさか、勇者ルミナスか!?
思わず問いかけそうになって、俺はとっさに口をつぐんだ。
いいや違う。
勇者ルミナスはあの時、前世の俺と刺し違えて死んだ。
だから勇者ルミナス本人ではありえない。
だが人違いと言うのもありえなかった。
聖剣を腹にブッ刺され、聖なる魔力で身体の内部から焼き清められた俺の魂が、痛いほどに覚えている。
遊佐さんからにじみ出る光の化身のごとき聖魔力は間違いなく、俺を殺した勇者ルミナスのものだった。
つまり導き出される結論は、一つ。
遊佐ルミナは勇者ルミナスの転生体だ――!
俺の転生の秘術に介入した勇者ルミナスは、俺と同じくこの世界へと転生を果たしていたのだ!
よく声に出さなかったと思う。
もし「勇者ルミナス」という言葉を一度でも口にしていたら、今頃、俺の命はなかっただろう。
勇者ルミナスを知っているということはつまり、異世界ラビリントスからの転生者であることを自白したようなものだからだ。
刑事ドラマとかでよくある「犯人しか知りえない秘密の暴露」ってやつだな。
俺の背中を、冷や汗とあぶら汗がダラダラと流れ始めた。
聖剣をブッ刺された時の痛みが鮮明に蘇り、半ばトラウマとなってフラッシュバックする。
最強クラスの聖なる魔力で身体の中から焼かれる痛みは、想像を絶するものだった。
うぐぅ、思い出すだけで吐きそうだ。
昼めしを食べる前で良かった。
そんな、内心の動揺を必死に抑えつけている俺に、遊佐さんは言った。
「クラスメイトが不穏な一団に連れていかれるのを見かけて来てみたのですが、おかしいですね?」
「お、おかしいって、なにが?」
「誰もいない上に、なにやら闇の魔力の
魔王と呼ばれて俺はドキッと胸を震わせた。
お、俺が魔王ブラックフィールドであると、いきなり疑われているぞ!?
今の俺は記憶が戻ったばかりで、まだ力の多くを取り戻していない。
しかも身体は人間だ。
強大な魔族の身体とは異なり、人間は魔力への親和性が低く、肉体強度も極めて
対して勇者とはそもそも人間でありながら、魔族の王たる魔王と戦うことができる特殊存在。
遊佐さんが勇者ルミナスの力をどれだけ取り戻しているかはわからないが、遊佐ルミナの肉体でもなんら問題なく勇者の力を使える可能性は高かった。
全盛期に程遠い俺では、もし今、勇者ルミナスの転生体と戦ったら、一方的に敗北する可能性が高い。
つまり戦いになるとまずいわけ。
そもそもからして、俺は魔王ブラックフィールドではなく普通の人間・黒野真央として普通に生きるつもりなので、勇者ルミナスの転生体と戦う理由がない。
だから遊佐さんももう、魔王ブラックフィールドを殺すために頑張る必要はないんだよ?
――ってことを説明しても!
遊佐さんが魔王絶対殺すマンの勇者ルミナスなら、絶対に信じてくれないよなぁ!(涙)
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