通天閣ラプソディ

歩道橋に到着するともう皆集まっていた


いつもの3人にパソコンフロアから大塚さん

最近映像に入った山岡さんを含めた5人だ



中川さんが

「ほな、全員集まったし通天閣登ろうか」


通天閣へ向かいながら僕は前塚さんに話しかける


「前塚さん…見てくださいよ男5人、男だけですよ!

どう思います?山岡さんもせっかく新しいバイトに来たと思ったら

まさかの男だけで通天閣登るなんてね!あはは。」


大塚さんが話を遮るように笑いながら入ってくる

「俺はあれやで。ホンマは来たくなかったで!なあ前塚君!」

そういいながら肩を組んだ。傍からみれば絡まれてるようにもみえる


ちょっと困りながら前塚さんは返答する

「マジで?(笑)」

でた!この返し!


「えーそんなこと来たくなかったとか言わんといてくださいよー、ねえ山岡さん」

早くなじんでほしいと思い僕は山岡さんに話を振る


「自分は…楽しいと思いますよ」


中川さんがフォローに入る

「ええ子やろー山岡君はー。ヤマギワソフトに染まらんといてほしいね」



「中川君、どういう意味なん?それー」

大塚さんが俺は違うアピールをしているときに電話が鳴った


着信を見ると「森広さん」と表示されてる


心臓がバクバク高鳴った。

僕はこの森広さんが好きだったんだ



でも彼女には彼氏がいて実業団の水泳の選手だった

バイトを始めて数か月経ったころ

彼女が僕に少し興味を抱いているのは知っていた


今思えば彼氏が実業団で忙しくなかなか会えないから

暇つぶしに話したり相談する相手が欲しかったんだと思う


僕もここでバイト始めてからすぐに当時付き合っていた

彼女と別れていたということもあり


森広さんと音楽のことや恋愛のことなどで話すうちに彼女の魅力に惹かれていった


もちろん自分の気持ちは伝えた

彼女は少し迷ったようだったが

ただのフリーターである僕ごときが実業団の選手に勝てるわけもなく

当時はあっさりとフラれてしまったのだった。


「もしもし」

僕は胸の高鳴りが受話器越しに聞こえてるんじゃないかと

通話口を上のほうに向けて電話に出た


「あ、要さん?こんにちわー。今日皆で通天閣いってるんやろ?」

人懐っこい気さくな声は、記憶の森広さんと全く同じだった


「そうやで。よく知ってるやん(笑)」

思っていたよりも自然に会話がすすむ


「昨日、前塚さんがレジにきて明日皆で通天閣行くって言うてたから。

私、要さんも行くのって聞いたら、行くでって」


「今まさに登ろうとしてるところやで」


「そうなん?ほんでな、今日夜ご飯いかへん?夜はみんなと行く感じなん?」


「たぶん行くけど…あ、でも皆お酒あんまり吞まへんから19時ぐらいには帰ると思う」


「そっかーそしたらその後でいいし、一緒にご飯いこう」

この森広さんが言う「ご飯」というのはお酒を飲んで音楽や恋愛について話し合う二人の会合だった


「わかった。後で連絡するわー」


僕が電話を終えると


「…電話誰から?」

前塚さんが話かけてきた


「あ、友達っす、友達が夜ご飯行こうっていう電話っす!

大丈夫です、20時ぐらいからなんで!」


当時僕と森広さんがご飯に行くのは二人だけの秘密…というか

森広さんには彼氏がいるのに他の男と出かける尻の軽い女性だと周りに思われたくないので周りの皆には内緒にしていた

森広さんも二人でご飯に行ってる事は周りには話してないと言っていた


別にやましいことはない、なのに二人だけの秘密にしてるのが皆に申し訳ないと思っていたのも事実だった


大塚さんが残念そうに

「そっかー要君は20時までやなー仕方ないあー。なあ中川君」


「まあええんちゃう?どうせ16時ぐらいから吞むやろうし」


山岡さんがポツリとつぶやく

「要さん…その友達は女の…人ですか?」


「えっ!?」ドキッと身震いしてしまった

「な、なんでそんな事言うんですか山岡さん!」


「いや…そんな感じがしたから」


「いやいや、違いますって、ねえ前塚さん?」

話をそらすために前塚さんに同意を求める


「マジで?(疑)」


ものすごく敵対心を感じる言い方だ

裏切り者を許さないという気持ちが視線にこもっている

「もし、、そうだとしたら、、、」

拳を握りながら威嚇の体制を取っている


いや、この雰囲気はどうやら本気だ。

一緒に仕事しているので前塚さんの扱いには慣れているが

たまにこういった本気が見え隠れする


「なんなん前塚君、それなんかの拳法のマネしてんの?」

「俺こないだ映画で見たわその構え。ユン・ピョウやったけ?」


大塚さんと中川さんが前塚さんの妙な威嚇をいじってくれたので助かった

この二人は前塚さんよりも年上なのでこういう時に頼りになる存在だ


通天閣の近くにあるお店の大きなフグのはりぼてを大塚さんのお父さんが作った話を聞きながら新世界でスイカを食べ

ツッパリグッズが入ったガチャガチャを皆で回したが

煙の出るタバコ以外出なかったり

入る勇気も(お金も)ないのに飛田新地をうろついたりと

また皆と楽しい充実した一日が過ごせた


僕は人生が終わる走馬灯の1ページに残せるように

場面の瞬間、瞬間を何度も目に焼き付けていた



もし、今日と同じ事を2024年の年老いた僕がしても楽しいと思えるだろうか?

未来に希望があるから楽しいと思ってるのか

何も考えてないから楽しめるのか


いや、皆と一緒なら2024年の僕も同じように楽しめるはずだ

どうして2024年には皆一緒に居れなかったのだろう

どこかで歯車がかみ合わなくなったのか?


今ならその歯車をかみ合わせることができるかも

いや、そうする為に僕はこの時にやってきたんだ


そうじゃなきゃ戻ってきた意味が無いじゃないか

そう思うだろう?1999年の僕。

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