1999日本橋ヤマギワソフト★青春ノストラダムス
@ka-na-me
リターン・トゥ・1999
何度も夢に見たあの頃
あれから5年…10年…いや、20年以上経ってしまった
僕はぼんやりとした感覚の中
大阪日本橋通りの上に架かる歩道橋の上に立っている
一方通行の車道とは関係なくリュックサックを背負った人達が
屋根の付いた通りを行き交っているのを見下ろしている
左手には「ヤマギワソフト」と書かれた4階建ての建物
右手には大きなガンダムの看板が飾られている
「…ここは…日本橋なのか?
僕が働いていた街…というより働いていた時の日本橋?」
昔、頭を強く打って数時間記憶が無くなった事があった
その時は夢の中で人と会話しており
段々と目の前が現実とブレンドしていく感覚を味わったことがある
その時と同じ様に夢の中で眺めていた日本橋の景色が
街のざわめきと共に視界をはっきりと戻してくる
もうとっくの昔に無くなったはずなのに当時見慣れたテナントや看板
聞こえてくる音楽が1999年の日本橋だと言うことを教えてくれる
「ちょっと待ってくれ
僕は2024年にいたはずだ…でもこれは夢ではない?」
確かにこの時代、この場所にいつか戻りたいと思っていた
もしかして僕は死んでしまったのか?
歩道橋に立つ前の記憶を思いだそうとする
「たしか…2023年大晦日…年越し花火を見に行って
カウントダウンと共に打ち上げられた花火を見上げていたら
目の前が花火でいっぱいになって…
大きな音と光で包まれた後…
フェードインするように歩道橋の景色が目の前にひろがった…?」
ああそうか、おそらく花火の光か音で気絶でもしたのだろう
ということはこれは夢だ。
現実感が少々強い夢だが、そう考えれば納得がいく
「うーん、、、これはもしかしたら…楽しむしかないかもしれない」
どうせ夢というものは良いところで覚めるものだ
「目覚めたら病院のベットか自宅の布団の上か」
そんな事を考えながらさて、どうしようか考えていると
背中にリュックサックを背負っていることに気付く
肩から見える趣味の悪い紫色のベルト
当時使っていた安物のリュックだ
確かプランタンで買ったペラペラのリュックにはスマホではなく
電卓かとツッコミたくなるような小さい液晶が取り付けられた携帯電話がコロンと入っていた
中から携帯電話を取り出しカチっとボタンを押すと
7月15日 10時35分と表示された
いつもアルバイトに出勤する時間だ
夢の中でも働くのはどうかと思ったが
会いたい人たちはこの建物の中にいる
僕は少しドキドキしながら左手に見えるヤマギワソフトに入っていった
4階建てのこのビルには音楽、映像、PC、ゲーム、アニメ、
が各フロアに分かれており僕は1階の音楽担当だった
所詮はバイトなので本社から送られてくる商品を店頭に出したり
支店間の商品をピッキングしたりと大した作業はなく
同じフロアの仲の良い人達と話すのが日課で
どうやったらお互い彼女ができるか真剣に話し合ったりしていた。
4階でおこなわれる朝礼が終わった後、誰かが肩をたたく
「よっ!おはよう」
振り返ると映像担当の中川さんがいた
中川さんは僕より5歳ほど年上でまじめな雰囲気の人だ
ここに来る前は日本橋にある他のお店で映像担当していたらしい
「昨日仮面ライダーチップス買ったらええカード出たでえ!」
満面の笑みでごそごそとポケットを探る
その瞬間、僕は思い出した
(そうだ、この時は僕もカードホルダーがもらえるカードが出たんだった!)
とっさにポケットを探ると光るカードが1枚入っていた
どうせ夢だから間違ってもいい。なんとでもなるだろ
そんな気持ちでそのカードを出す準備をする
「ちょっと待ってください、実は僕もいいカード出たんですよ!」
「ほんまに?そしたらいっせーのでで出そうか!」
「いいですよ…いっせーので!」
二人の手には同じ光るカードが握られていた
「おーっ!」
「すごいですやん!二人とも当たりでましたね!」
「いやー、正直これやったら驚いてもらえると思ってんけどなー
まさか要君もこれ当ててたとはなー!やるやん!」
「僕も中川さんがええカードって言ってたから多分これじゃないかと思いましたよ」
「あーそっかー、普通に見せたらよかったかもしれんなー」
大抵夢ならここで訳のわからないカードが出るか
急に場面転換して違う話になったりするのだが
記憶のままの内容だ
いや、記憶だから当たり前と言えばそうかもしれない
「どうしたん?二人ともめっちゃ嬉しそうやん」
僕と中川さんの間に入ってくる人物がいた
首から携帯電話をぶら下げ
エヴァンゲリオンの赤いTシャツを着ている
僕と同じ音楽担当の前塚さんだった。
前塚さんは僕の3歳年上でモーニング娘。の大ファン
「あ、前塚さん。実は中川さんと僕、おんなじカードが出たんですよー」
「マジで?(笑)」
この「マジで?(笑)」は前塚さんの口癖で驚き、怒り、笑い
ほぼこの言葉で対応する便利な単語の持ち主である
「そういえば中村君、昨日休みやったから知らんと思うけど
明日の休館日に皆で通天閣行こうって話しててん」
「え、本当ですか?行きましょ!行きましょ!」
覚えている。通天閣へ登った事。
確か男5人で行ったはずだ。
夢ならそろそろ覚めるはずなのに一向に覚める気配がない
というよりも時間もしっかり体感している。
こんなに時間を体感できる夢なんて初めてだなと思いつつ
しっかり働き家路についた。
「あれ?夢のはず…やんな?」
当時住んでいたのは地下鉄千日前線の新深江駅の近くにあるマンション
路線図ではピンクなのでお色気線とよくいじられたのを思い出す
ドアを開けると積み上げられたCDとレコード以外何もない部屋が広がる
少し埃っぽい6畳一間の部屋
本当に何もない。
この時は免許も車はもちろん無く
テレビはブラウン管の大きな形、パソコンはまだ普及しておらず
フリーターの僕にはとても買える品物では無かった
家ではテレビを見るか、音楽を聴くしか時間を潰す手段がなかった
「明日は11時にヤマギワソフト横の歩道橋に集合か」
このまま寝たら2024年に戻るのだろうか?
これが夢ならまだやり直したいことや会いたい人が沢山いる
当時の僕は何者にでもなれると信じていた
そう、未来には希望しかなかった
この年にフリーターを卒業して2000年に就職したのだが
いつしか仕事や現実に追われ、この頃の世間知らずな僕は死んでしまった
というか、自分を殺さずには現実でうまく生きていけないと悟った
殺してしまった何者にでもなれる無邪気さこそが、本当に自分が求めていた事だと知るには時が経ちすぎてしまったのかもしれない
夢か現実かわからない一日で頭が疲れていたのだろう
テレビをつけたまま寝てしまっていた
目が覚めるとほこりっぽい、6畳一間のベットの上だった
「夢…じゃないのか?本当に1999年にいる?
だとしたらすごいことやん!なんだってできるし、未来のことも知ってるし!
え、マジでほんまにやばいって!」
何よりもうれしかったのは
1999年に置き忘れてきた「無邪気で何者にでもなれる自分」
そして楽しかったヤマギワソフトでの日々、
もう会えないと思っていた仲間との想い出を取り戻せる
夢か現実かそんな事はもうどうでもよかった
胸の中で大きく熱く脈打つ忘れていた感覚が蘇る
「そうだった。僕は何者にでもなれるんだ」
10時45分に千日前線日本橋駅から地上に出ると
通天閣の方向にある待ち合わせ場所へと向かった
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