再会
あれから、三年の月日が流れた。
俺は、来月で34歳になる。
咲空ちゃんは、もう24歳になったのかな?
どんな女になったんだろう。
彼氏は、出来たのかな?
ピンポーン……。
「はい」
「休みの日に悪いな!龍」
「道木……どうした?」
「真由美ちゃんママと鰻食べに行くんだけど、車が潰れてエンジンかからなくて……送ってくれないか?」
「えっ?電車で行けばいいじゃん」
「何か場所的に電車じゃ、ちょっと遠いんだよ。だから、送ってくれないか?頼む」
「えーー、仕方ないっすね」
俺は、仕方なく道木の為に車を出す。
「めちゃくちゃ上手い鰻屋さんらしいんだよ」
「へーー」
「真由美ちゃんママ、みんなに奢るって言ってさ」
「みんなって、真由美ちゃんとか奈美ちゃんとか?」
「いやーー、あの辺はこないらしいわ。妹の悠子ちゃんは来るみたいだけど」
悠子ちゃんが来るなら、咲空ちゃんも……もしかして?
期待が胸の中に広がる。
「有名なら、俺も自腹で鰻食べようかなーー」
「おっ!いいんじゃないか!せっかくだし、食って帰れよ」
「じゃあ、そうします」
車をパーキングに停めて、俺は道木と鰻屋に向かって歩き出す。
「やっぱり、真由美ちゃんママは凄いわ」
「道木は、仲良いよな」
「うん。飲み友達になったからね!真由美ちゃんママといるとめちゃくちゃ楽しいし」
「へーー、会うの楽しみかも」
「龍は、ほとんど絡んだ事ないんだよな」
「ない。遠くの席にいたとかはあるけど……」
鰻屋について、道木がドアを開ける。
扉が、ガラガラと音をたてた。
ドクン……。
視線の先には、咲空ちゃんがいた。
貸し切りだからと言われて適当に道木と座る。
視線の先に咲空ちゃんが入る。
そのせいで、高い鰻の味なんかわからなかった。
「うまかったな」
「ああ」
食べ終わるとすぐに咲空ちゃんがトイレに行った。
「二次会のカラオケ行く人」
「龍は?」
「えっ?俺は、どっちでも。あの、ご馳走さまでした」
「いいの、いいの」
一旦、みんなと一緒に店を出る。
「お母さんの彼氏の車で行くでしょ?」
「うん。あっ、カラオケBOXの予約してるから、もう行かなきゃ!咲空ちゃんどうしよう。まだなら、悠子とタクシーで来てもらおうか?」
「緊張したのかも知れないし、その方がいいね」
「龍が連れてきますよ!」
「えっ?」
悠子ちゃんのお母さんと彼氏さんの話を道木が遮る。
俺は、驚いてしまった。
「えっ!本当ですか!助かります」
「あっ、はい。場所だけ教えてもらえますか?」
「車で10分ぐらいの所にある」
「わかりました」
「そこしかないでしょ?」
「はい」
「じゃあ、咲空ちゃんの代わりに俺が乗っけてもらっていいですか?」
「いいよ、いいよ」
道木は、嬉しそうに笑ってる。
悠子ちゃんのお母さん、彼氏、悠子ちゃんは歩き出す。
「ちょっと待てよ!俺が、何で?」
「龍は、咲空ちゃんと仲良しだから」
「えっ?意味わかんないんだけど」
「自分の気持ちに気づいてるかしらないけど、龍さ。多分、咲空ちゃんの事好きだと思うよ!」
「えっ……」
「もしかしたら、これが会うの本当に最後かも知れないだろ?二人きりで少しだけいてさ。違うなら、違うでいいじゃん。でも、もし好きかも知れないんだったら……。酒入ってない時に真剣に伝えなきゃ!」
「道木君、行くよ」
「じゃあ、行くわ!まあ、頑張って」
悠子ちゃんのお母さんに呼ばれて道木は走って行く。
まさか、道木に気持ちがバレてるなんて思わなかった。
いや、バレてないって思うのがおかしいか……。
だって、道木とは17年一緒にいる。
俺は、店にもう一度戻る。
暫くして、咲空ちゃんが現れる。
俺しか待ってない事に驚いていたようだった。
こうやって、並んで歩くのは初めてだ。
いつもは、送るだけだから……。
触れそうで触れない手がもどかしい。
咲空ちゃんといるとあの日キスした事とかずっと押さえてた気持ちとか溢れ出してきそうになる。
気づくと咲空ちゃんの手を握りしめていた。
咲空ちゃんが、驚いた声をあげると俺はもう自分の気持ちを止められなくなった。
再会した時から思ってた、咲空ちゃんの服の趣味が変わったって……。
それに咲空ちゃんが纏ってる雰囲気も、前よりもエロくなってる。
本人は多分気づいてない。
探りを入れると男は出来てなくてホッとした。
「いないけど、何人かには抱かれた?」
怒りに任せて、咲空ちゃんを車に押し付けた。
咲空ちゃんは、俺が何で怒ってるか理解してないみたいで……。
トイレが長くて怒ってたと思ったのだろうか?
悠子ちゃんに場所を聞こうとするから、俺の苛立ちはピークになった。
咲空ちゃんの唇にあの日と同じようにキスをする。
咲空ちゃんは、あの日と違って拒まない。
何で拒まないんだよ。
意味わかんねーーよ。
咲空ちゃんに尋ねたら、お姉ちゃんが結婚したからってとか言ってきた。
咲空ちゃんの言葉に胸の奥が痛む。
ずっと咲空ちゃんは、俺を好きじゃないんだって思ってた。
だって、あんなに伝えたのに……。
咲空ちゃんは、俺と出掛けてもくれなかったから……。
だけど、今日わかった。
咲空ちゃんは、ずっと奈美ちゃんの代わりだって本気で思ってたんだ。
大人なんだから、俺がちゃんと言わなきゃ……。
10歳も下の咲空ちゃんを傷つけてばかりじゃ駄目だ。
カッコ悪くても剥き出しの自分の気持ちを伝えなきゃ……。
咲空ちゃんは、俺の気持ちに答えてくれた。
車でカラオケBOXに向かう。
咲空は「私も龍一さんに本気ですよ」と言ってくれた。
照れ臭くてくすぐったい。
キスしたくなって……。
プー、プー、プー
「怒ってる!後ろの人」
「早く行こ」
「うん」
車を走らせる。
まさか、助手席に咲空を乗せる日が来るなんて思わなかった。
カラオケBOXにつくと駐車場に車を停めて降りる。
「夏だけど、夜は少しだけ寒いな」
「うん」
「行こうか?」
俺は、咲空の手を握りしめる。
さっきとは違って一方通行じゃない。
咲空は、俺の手を握り返してくれた。
「えっと、部屋番号は……」
道木が送ってくれていた番号を受付で言った。
飲み物は、向こうで選べるというので俺と咲空は部屋に向かう。
蓄積された想いが爆発したせいで、咲空とキスしたりくっついていたいと思ってしまう。
「ここだな」
「そうだね」
触れていた手が離れる。
「ああ!きたきた」
「ごめんね。緊張してお腹痛かったから」
「それって大きいの?」
「違うわ!」
「出れなかったパターンね」
「それな」
咲空は、悠子ちゃんと楽しそうに話している。
「俺もお酒飲もうかな」
「龍は、車だろ?」
「代行頼むから」
「いいんじゃない」
「咲空ちゃんは、何飲む?」
「お腹痛いなら、ソフトドリンクがいいんじゃない」
「えぇーー。もう、大丈夫だよ!私はね、メニュー見ていいですか?」
「うん。一緒に見ようか?」
「はい」
咲空は、俺の隣に座ってメニューを見る。
他の人にバレちゃいけないからドキドキする。
「じゃあ、私はカシスオレンジにしようかな」
「俺は、ビール」
「これで、頼めるんだよ」
悠子ちゃんがデンモクを操作して注文してくれる。
悠子ちゃんのお母さんが歌い出すと音楽が大きくて話し声が聞こえなくなった。
「えっ?何?」
悠子ちゃんの所に行こうとする咲空の腕を掴んでしまう。
道木と悠子ちゃんのお母さんの彼氏は近づいて話しているから、俺の行動に気づくのは悠子ちゃんだけだ。
「三森さん……」
咲空は、困ったように俺を見つめる。
「ごめん」
「ううん」
咲空の腕をそっと離すと悠子ちゃんの席に行ってしまった。
これからは、咲空を掴まえていれるのに……。
手を離した瞬間に悲しくなった。
飲み物が到着して、乾杯をする。
一時間ほどして、咲空がトイレに立った。
俺は、わざとらしくスマホを見る。
「悪い。お客さんから」
「休みなのにご苦労さん。どうせ彩ちゃんだろ?」
「ああ。悪い」
道木に嘘をついて部屋を出る。
急いでトイレに行くと咲空が出てきた。
「ちょっ……人に見られるから」
俺は、咲空をきつく抱き締めていた。
あの『Kiss 』の事……♡龍一編♡【カクヨムコン応募中】 三愛紫月 @shizuki-r
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