久しぶりの再会とキス

モヤモヤしながら過ごすと、30にもなったのに時間が経つのがやけに遅い。

このまま明日が一生こなかったらと思った。


「いらっしゃい」


久々に現れた咲空ちゃんは、ジャージ上下じゃなくて……。

夜の女の子の格好をしてる。

その姿を見て、真由美ちゃんの所を手伝わされていたのがわかった。

手伝わされた理由は想像できる。

咲空ちゃんは同級生よりも年上の男が欲しがって群がるタイプだから。

勿論、それには俺も含まれる。


やっぱり、可愛い。

だけど、それだけじゃない。

何だろう。

前とは違って、エロさが内側から出てる。


もしかして!!

経験したのか?

何で、傷ついてんだよ……俺。


真由美ちゃんと久弥がいなくなって、咲空ちゃんと二人やっと話せる。

やっと話せるのに……。


「ゆっこの好きな人に言い寄られて、脅されて初めてだったのに……。嫌だったのに……」

何だよそれ……。

咲空ちゃんは、話の途中で泣いてしまった。

戻ってきた真由美ちゃんに、とっさに誤魔化して話す。


ってか、何だよ今の。

同意の上じゃないのかよ。

初めてで嫌だったって……。

言い寄られたら誰とでもしちゃうのか?


何を話してるか、わからないまま。

あっと言う間に閉店時間になる。

俺は、さっきからイライラしていた。


久弥と見送りに行くと真由美ちゃんとタクシーを拾いに行ってしまう。俺は、咲空ちゃんと残されてしまった。

咲空ちゃんの隣で残された俺は、苛立ちとどうにかなりそうな気持ちを必死で押さえて立っていた。


「あの、さっきの話なんですが忘れて下さい」

咲空ちゃんの一言は、俺の押さえていた気持ちにいっきに火をつけた。

俺は、咲空ちゃんに力ずくでキスをする。

体の力は入れて押さえても、唇は優しくしなきゃ……。


「可愛い」


好きだって言いそうになって咄嗟に言った。

咲空ちゃんのスカートに手を入れたい。

そいつでいいなら、俺だっていいだろ?


だけど、咲空ちゃんに断られた。

だから、強く抱き締める。

咲空ちゃん、断れるんじゃん。

だったら、そいつを好きだったの?


見送って、堂々と真由美ちゃんに咲空ちゃんの連絡先を聞いた。

真由美ちゃんは、すぐにメッセージをくれる。


【高級寿司、奢ってやってよ!】

【了解】


中学生じゃあるまいし、こんな事で嬉しいなんて……。

咲空ちゃんの番号を知れただけで、モヤモヤは一つ消えた。


「龍さん、お疲れ様です」

「お疲れ」

「あれ?何か、今日の龍、機嫌よくないか?」

「そんな事ないって」

「そっか……。ならいいんだけど」


ニヤついてないか心配になりながら帰宅した。

家に帰って、唇に手を当てる。


「柔らかかったな……」


若いからか肌が吸い付くみたいだった。

スポーティーな咲空ちゃんの太ももの感触が、まだ手に残ってる。

ってか、俺あの場所で何してんだよ!


今まで、お客さんや真由美ちゃんや奈美ちゃんを送ってもあんな事した事なかった。

あんな、裏手の壁に咲空ちゃん押し付けて……。

自分の手を見つめてハッとした。


俺、あの場所でするつもりだったんだ。

マジかよ!ホストして有り得ないだろ。

有り得ないけど……。

咲空ちゃんは、俺に有り得ない事をさせる。


「咲空ちゃんとしたい……」


力ずくじゃなくて、受け入れて欲しい。

あの吸い付くような肌感覚。

経験から相性がいいのがわかる。


咲空ちゃん……。

咲空ちゃん……。

咲空ちゃん……。


おいおい。

中坊みたいな事やってんじゃねーーよ。

馬鹿か俺は……。

ティッシュをゴミ箱に投げつける。


ブブッ……。


スマホをポケットから取り出すと咲空ちゃんからメッセージが届いた。


【お寿司は奢らなくて大丈夫ですから】

【そうなの?家着いた?】

【はい。さっき着いて。もう、寝る準備です】


他人行儀なやり取りだな。

キスしたのに……。

思ったより大人で、気にしてないのかな?


それとも、適当にやっちゃったから。

自分を、適当な存在に扱ってんのかな?


駄目だ。

連絡したら、咲空ちゃんをもっともっと知りたくなった。


次の日から俺は、事あるごとに咲空ちゃんに連絡した。


「お姉ちゃんの代わりでしょ?」

そう言われる度に「違う」って言った。


「咲空ちゃん好きだよ」

「またまたーー」


ホストだってだけで、信じてもらえない。


「咲空ちゃんは、可愛いから心配だよ」

「可愛くないですよ」


俺の気持ちが、咲空ちゃんに届く気がしない。

連絡を取り始めて、半年。

咲空ちゃんといまだに食事にすらいけていない。


そんな時だった。

21歳の女の子が店にやってきた。


「31歳ですか?恋愛対象かどうか、ないよねーー」

「お姉ちゃんの友達ってだけで無理。だって絶対、お姉ちゃんもその人も意識してんじゃん」

「わかる、わかる。あっしもないわ」

「だよねーー。友達に言っとくわ」


彼女達に、友達がと嘘をついて相談した結果。

31歳がしつこく愛を囁くとか有り得ないと言われてしまった。

あんまりしつこいと逆に怖いのだそうだ。

それと姉の友達とは有り得ないって事も……。


帰宅した俺は、咲空ちゃんの連絡先を紙に書いて消去した。

メッセージも削除する。


「めちゃくちゃ辛いわ」


咲空ちゃんにハッキリ言われる前でよかった。

もしも、ハッキリ言われてたらもっとショック受けてたわ。

傷は、浅いうちにだよな……。

忘れよう。


リビングの棚の一番上の引き出しに咲空ちゃんの番号を書いた紙をしまう。

咲空ちゃんは、俺の事なんか何とも思ってないのに……。

おっさん一人で何を浮かれてたんだよ。


気持ちを失くそうとしたのに、唇や手にハッキリと咲空ちゃんの感触が残ってるのを感じる。


「時間かかるけど仕方ないよな」


生まれて初めての一目惚れは、フラれて幕を閉じた。



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