あの『Kiss 』の事……♡龍一編♡【カクヨムコン応募中】

三愛紫月

初めての一目惚れ

りゅうさん、マジで暇ですね」

「確かに、暇だな。まっ、もうすぐあいちゃんが来るんだけどね」

「やっぱり、さすが愛ちゃんですね」


いつものように久弥ひさやと話している所に道木みちきがやって来た。


真由美まゆみちゃんと奈美なみちゃんが来るって」

「えーー。めっちゃ久々じゃん」

「本当だな」


真由美ちゃんと奈美ちゃんの同級生は三年前まで働いていた。

その頃、よく二人は来てくれていた。

だけど、今は、ほとんどこない。

やり取りは、年賀状のメッセージぐらいになってしまった。

一緒にいると楽しい奴等なんだけど……。


「龍、愛ちゃん来たよ」

「はいはい。じゃあ、久弥は待機頑張って」

「はーーい」


俺は、愛ちゃんの席につく。


「龍、来たよ」

「いらっしゃい」

「つうか、全然じゃん。うちも閑古鳥だったから早めに閉めた」

「やっぱり、今日は暇だよな」


愛ちゃんは、近所のCLUBでママをしている。

何でも話せてしっぽりのめるって喜んで『ベル』に来た。

そのうち、愛ちゃんは俺を指名してくれるようになったんだ。


「ゲッ……。何、あの格好」


水割りを差し出した瞬間に愛ちゃんが苦虫を噛み潰した顔をして入り口を見ている。

俺は、その姿を見て振り返る。

まっピンクのジャージ上下を着た女の子が目に入る。

その前を歩いてるのは、真由美ちゃんと奈美ちゃんだ。


「龍、今の見た?」

「うん。派手だったね」

「いやいや、派手とかじゃないから……。あんなんでよくここに来たよ」

「まあ、服装は自由だからね」


あんなに堂々とジャージ上下で歩いている姿を見て、何故か笑えた。


「愛ちゃんありがとね」

「うん、じゃーーね」


閉店30分前。

ようやく俺は、真由美ちゃんと奈美ちゃんの席につけた。

この席について、まっピンクのジャージ上下を着た女の子が、奈美ちゃんの妹だと知った。


「奈美ちゃんの妹なんだ」

「服装は、あれだけど顔はマジで可愛くないですか?」

「確かに……。初々しくて可愛いな」


まだ、男を知らない気がする。

ドクドク……。

何故か、心臓が音をたてる。


「19歳でキスするなんて……」


奈美ちゃんの説明で、やっぱり咲空さらちゃんは男を知らないんだと思った。


ドクドクとまた心臓が波打つ。

俺は、生まれてから一度も一目惚れなんてした事がない。

だけど、何故か……。

咲空ちゃんを見ていたら、胸が痛む。


この感情に名前をつけられないまま。

店は、閉店した。


「じゃあ、気をつけてね」


真由美ちゃん、奈美ちゃん、咲空ちゃん、悠子ちゃんはタクシーに乗って帰って行く。


「いやーー。20歳って若いですよね」

「って、久弥はまだ29歳だろ?」

「いやいや。若いです」

「9歳下なら許容範囲じゃないのか?」

「いや、ないですね。さっきも見たでしょ?ノリについていけないですから」

「だよな」


久弥に笑って店に戻る。

今までも、恋なんか普通にしてきた。

だけど、何でかな……。

どうしても、咲空ちゃんが欲しい。


「お疲れーー。二人の妹、初々しかったよな」

「ですね」

「龍、どうした?ぼんやりして」

「いや、何もないですよ」

「まさか!奈美ちゃんの婚約話聞いて落ちこんでんじゃないのか?」

「まさか。道木には、どう見えてんだよ」

「ってきり、龍は奈美ちゃんが好きだと思ってた」

「ないよ!馬は合うだけで友達だよ」

「じゃあ、何でそんな浮かない顔してんの?」

「さあ?」


そんなの俺が教えて欲しかった。

今までだって、人を好きになった事はあった。

だけど、こんな気持ちになった事は初めてで……。


【咲空ちゃんの連絡先教えてもらっていい?】


スマホを開いて、奈美ちゃんにメッセージを送りそうになってすぐに消した。


「ヤバッ!今、一瞬。キモい事送りそうだった」


ポケットにスマホをしまう。


「龍、何してんの?店、終わったから帰るぞ」

「あっ、はい」


咲空ちゃんと同い年じゃないのに、咲空ちゃんと同い年みたいな反応してた。

俺は、大人な態度で接しなきゃ駄目だろ。


「じゃあ、電車組は?」

「はい」

「あっ、俺はこっちなんで。お疲れ様です」

「はいはい。気をつけてな」


家に帰る道中で、コンビニに寄る。

求人誌発見。

試しに読んどくかな……。

フリーペーパーである求人誌とお味噌汁を一個買って帰宅した。


色営なんかした事ないからなーー。

どっちかっていうと楽しく飲みたいって方針だし……。

勝手に推してくる子はいるけど。

求人誌を捲りながら、咲空ちゃんの隣に歩く俺を想像する。


「やっぱり、昼職だよな」


パラパラ雑誌を捲るけど、30過ぎて何の資格もスキルも持っていない俺に出来る事は、ほとんどなかった。


「高校バックレずにちゃんといっときゃよかったわ」


お湯を沸かして味噌汁を入れる。

まっピンクのジャージって!

ハハハ、よく来たな!マジで!


それからも仕事中も頭の中も咲空ちゃんでいっぱいだった。


【妹の連絡先教えてくれない?】


駄目だ、駄目だ。

奈美ちゃんが無理なら、真由美ちゃんか?


【咲空ちゃんの連絡先教えてもらえない?】


駄目だって……。

俺は、一体何やってんだよ。

あっ!そう言えば飲み会とかって言ってたよなーー。

やっぱり、男が放っておかないよな。

あんなタイプ……。

同級生でも滅多に出会えないからな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る