第9話

「貴女、名前は? 私はラミィ。私と少しお話しましょ?」

「ゴフッ」


 おわああああああああ!!! 至近距離に勇者様がいるぅうう!? 微笑みが眩しッ!! 


「わっ、大丈夫ですか?」


 勇者様はあろうことか咽た俺の背中をさすってくれた。


「——――」


 はい、ここが天国ですね分かります。

 あっ、なんか良い匂いする……(童貞)(年齢イコール彼女いない歴)(昇天が加速)。


 ハッ! そろそろ何か受け答えしなければ……! 挙動不審だと思われる。


「すみません、ラミィさん。取り乱しました……」

「いえいえ、大丈夫ですよ」


 勇者様はそう言って微笑んでくれる。

 勇者様スマイルの威力高すぎて、俺の存在が浄化されそうだわ。


「そういえばさっき、名前を聞きましたよね。私の名前はレイナです」


 俺はあくまで冷静を装って自己紹介をする。


「そうレイナ! ……さん。レイナって呼んでもいい?」

「いいですけど……」

「じゃあ私の事もラミィって呼んでね」

「あっ、ハイ」


 えっっっっ!? まさかの呼び捨て権ゲット。

 というか距離の詰め方凄い。勇者様ってこんなにぐいぐい来る方だったっけ?


「ところで兵士さん達から聞いたんだけど、レイナ、盗賊団の幹部倒したの本当?」


 は? 兵士さんから聞いた……?


「……」


 俺は無言で左に居たカンの事を睨む。するとサッと目をそらされた。

 というかなるほど、兵士らから俺が盗賊団幹部を倒したと聞いていて、そんな俺に興味を持ったというところか。

 ここで誤魔化しても変な印象にしかならないし、認めるしかないだろう。


「一応……そうです」

「そうなのね。その幹部は強かった? 男爵級の魔族と比べるとどれくらい?」


 勇者様はそう言って不敵に微笑む。

 

 流石は『閃光』の勇者様。魔の気配には敏感か。俺が男爵級の魔族と交戦したって感覚的に分かっていらっしゃる。

 

 俺の戦った感想としては男爵級の魔族より少し弱いくらいだと感じた。冒険者ランクに直すとA級くらいだろう。


「男爵級の魔族より少し弱いくらいでした」

「そう……やっぱり。レイナは男爵級の魔族を倒しているのね。それも最近」

「……」


 それに対して俺は無言で頷き肯定を示す。


 さてどう返される? それ次第によっては俺はこの場から直ぐにエスケープしなくてはいけない訳だが。

 

 勇者様は少し沈黙した後、意を決したような表情で俺に向き直り口を開いた。


「レイナ、私と一緒に旅をしてくれないかしら」

「」


 えっ? 聞き間違えか?


「すみません、よく聞き取れませんでした。もう一度お願いしてもいいですか?」


 すると勇者様は少しもじもじして俺の目を真っ直ぐ見てくる。頬が若干紅潮しているように見えた。

 その普段とは違う姿が見れただけで俺は吐血しそうです。はい。


「その、私と一緒に旅をしてほしいの」

「……」


 一般通過ファンの俺が勇者様と旅……? おい、それ他のファンから殺されかねんやつではないか?

 だがしかし、ここでこの提案を受ければ、実質公認護衛としての立ち回りができる。それがとても魅力的だ。それに――


 俺が出した答えは――。






「喜んで」


 勇者様は花開いたような笑顔を見せ、小さくガッツポーズする。普段冷静かつ美しくかっこいい勇者様らしからぬ、可愛さだった。


 だがその喜びも次第に薄れていって、沈んだ表情をされた。


「私、『閃光』の勇者なの。だから貴方を巻き込むわけにはいかないわ。やっぱりこの話は――」


 これ以上は言わせない。


「知ってますよ。ラミィが勇者だってことも、仲間になったらって事も。知ってて私はOKしたんです。……今更なしなんて言いませんよね?」

「……っ!」


 勇者様は今にも泣きだしそうな顔をして、一言「ありがとう」とか細い声で呟いた。


 俺は知っている。

 勇者様が故郷の国から追われている事も。そのせいで勇者様には仲間ができないことも。

 どれだけ孤独で寂しい思いをしてきたか、俺には察することしかできない。が、今の俺、レイナならその孤独と寂しさを埋めることができる。


 勇者様はまた断られるかもしれない恐怖を感じながら覚悟を決めて、俺を誘ってくれたんだ。失望させるわけにはいかない。


 目尻に涙をためている勇者様を昔のように撫でたくなる衝動に駆られるが、何とか耐える。


 そうしていると勇者様は立ち上がり「また明日、朝食の時に会いましょ」と言って食堂を出て行ったのだった。

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