第7話

「っ!! 【急所突き】!!」


 仲間の魔族は往生際が悪いのか、自分と俺の力量の差を分かっていないのか秒間五撃程の速さで攻撃を打ち込んでくる。そしてその攻撃全て障壁に阻まれていた。


「くっ……! 何故障壁が割れない!! 貴様一体、どれだけの魔力を――」

「黙れ、俺がいつお前に発言を許した?」


 瞬間、ピタッと魔族の動きが止まる。口も動かせないのか目で必死に何かを訴えてくる。

 俺が《空間固定》の魔法を使い、魔族の鼻より下を固定したのだ。

 この魔法は魔力の消費が激しいので滅多に使わないが、片手で周囲の建物や人に気付かれずこの魔族を取り押さえる自信がなかったので使った。


「さて、もう特に聞くことはないかなぁ。……あ、そうそう。この街で流行っている病気って、まさかお前たちの所為じゃないよな? 正直に答えれば殺さない」

「は、はい。私達がやりました」


 フイがそう答える。

 やはり魔族の仕業か。マティーさんに聞いた薬草二種から作れる治療薬は、イーフィル病と言う魔族が以前他の国で流行らせた病気に効く。

 だからもしかしたら魔族の仕業では……? と思っていたが案の定だったな。


「そうか……ならもう用はない」

「へへ……では私達は見逃してもらうという事で――」

「は? そんなわけないだろ」

「……え?」

「何か勘違いしているな? 俺は殺さないと言っただけでお前たちを見逃すといったわけじゃないぞ?」


 フイは放心状態で固まる。

 ふむ、少し時間が掛かり過ぎたな。もう流石にさっさと終わらせよう。


「彼の者達の体に宿りし魔を源に、彼らを蝕む命の結晶と成れ。――《結晶化魔法》」


 すると魔族らの体が中心から順に黒紫の結晶に変わり始める。


「な、なんだこれ!?」


 フイがそう慌て始めるがもう遅い。この魔法に掛かってしまった限り、逃げようが隠れようが結晶化する。


「じゃあな」


 俺はそう一言だけ掛けて、二つの結晶なりかけの魔族を異空間収納の中に落とした。


「お掃除完了っと」


 俺は誰も居なくなった路地にそれだけ呟き宿に転移で戻った。




 宿の自分の部屋に転移した俺は、ベットに勢いよく腰を下ろす。

 すると押し返されるような感覚があった。弾力の良いベットのようだ。


 因みに俺が泊っている宿は勇者様が泊っている宿と同じである。

 そこらへんは抜かりない。

 

 今は勇者様が食事中なので少し時間をずらして食堂に向かおうと思う。

 その前にまず、《魔力回復ポーション》で魔力を回復しておかなきゃな。


 そう思い異空間収納リストとステータスのMPだけを表示させる。


=====

・ンクルフの角×63

・劣化級魔力回復ポーション×14

・初級魔力回復ポーション×24

・下級魔力回復ポーション×127

・通常級魔力回復ポーション×370

・中級魔力回復ポーション×52

・上級魔力回復ポーション×1820

・準超級魔力回復ポーション×0

・超級魔力回復ポーション×46

・冠三位級魔力回復ポーション×1

  ・

  ・

  ・

=====

 

=====

MP:179,525,310/184,710,320

=====


 大体500万くらい減ってるな。これだったら準超級魔力回復ポーションを使うのが望ましいが、丁度今切らしているようだ。

 そして残念ながら寝て回復する様な量じゃない。


 ここは久しぶりに買いに行くか。――異界商店へ。


 俺は異空間収納から《異界商店への鍵》を取り出して、何もない空間に向けて差し込む。すると青緑色のドアが出現した。

 そして鍵を捻るとガチャリとした音が鳴り、ドアが開ける状態になった。


「行くか」


 俺はそう呟き心の準備を決め、ドアを開けた。

 そして中に入ると自動的にドアが閉まる。


 するとそこは相変わらず賑わっていた。それもそのほとんどが高そうな装備に身を包んだ人々。中には魔族や天使といった怪物たちも居る。

 感覚としては先程の男爵級の魔族以上の存在がゴロゴロいる感じに近い。


 なぜ彼らがこんなにも多く集まっているのか、それはこの異界商店で出されている依頼が原因だ。

 どれもこれも高額依頼ばかり。だから冒険者達は収入の良い依頼を見つける為にこの商店に来ている。


 その中で俺は駆けだし冒険者の様な服装をしている。悪目立ちするのは当たり前だろう。


「おい嬢ちゃん、俺と遊ばね?」

 

 明らかに素行の悪そうな男が近づいてきた。

 胸が控えめな俺に何の用があるっていうのだろうか? まぁ控えめの方が好きな人間もいないことはないが。


「無視すんなよ! 俺はSS級冒険者のトンラってんだ、『百氷びゃくひょう』のトンラって言ったら知ってるだろう?」

「いや、知らんな」


 変装時の口調でコイツに返事してやる気力が湧かず、普段の口調で答えた。


「な、なんだと!?」


 それが気に障ったのか男は剣を抜刀して構えてくる。


 それを見ながら俺は思った。

 あ、こいつ死んだな。と。


「ストーップ~~!!」


 瞬間、間の抜けた女性の声が聞こえてきた。

 間違いなくこの商店の主の声だった。


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