第3話 賊との戦闘

「へっ! 出て行く馬鹿がいるかよ!!」

「おまっ、馬鹿!」


 う~ん、この悪党。声に出すとか馬鹿丸出しなんだよなぁ。

 そしてそれを諫めるように声を出す馬鹿二人目。


「そこか――《風刃》」


 勇者様は声がした茂みの方に剣を横薙ぎにする。

 これでは攻撃が悪党どもに届かないが、《風刃》という初級風魔法を使う事で中距離に居る相手にも攻撃を当てられる。


 横薙ぎにした剣の軌道上に風の刃が生まれ、秒速30m程の速さで悪党共が居る茂みへ飛んでいく。

 だが、悪党共の身体を真っ二つにする考えは無かったのだろう。魔力の入りが通常量の少し上ほどだ。あれでは鋼鉄のプレートを着用している悪党共を少し突き飛ばす程度にしかならないだろう。


 しかし、勇者様にとってはそれで十分だ。

 《風刃》より速いスピードで勇者様は悪党共の後ろへ回り込む。


「ぐへっ」

「おぶっ」


 突き飛ばされ、身体をコの字にして勇者様の元へ飛ぶ悪党二人。それを勇者様は縄を生き物のように動かし、地面に尻餅をついた悪党二人を拘束する。

 そして【空間倉庫】から取り出した、睡眠薬を染み込ませた麻布を悪党二人の口に当て、吸わせている。


 これ、睡眠薬を吸わせるところだけ見たら勇者様が悪党にしか見えんな。

 そんな失礼なことを考えつつ、俺は俯瞰視で見続ける。


 今の眠らせる行為は必要不可欠で、衛兵や兵士の詰め所に引き渡す場合そこまで運ぶとなると、悪党を起こしたままだと脱走を図られたりして厄介だ。だからこその強制睡眠。


 さて、大剣使いは仲間が声を出した時点で弓使いと逃げ出している。もう大分距離も離れているので、勇者様が追いかけるのは難しいだろう。


 だからここは俺が、逃げた二人を捕まえる。


 俺は《転移》を発動し、逃げた二人の前に現れる。


「うわっ! なんだお前!」


 大剣を持った大男が後ろに跳びながら、そう聞いてくる。


「俺か? 俺は……勇者様の信者さ」


 そう言って俺は大男に肉薄し、顔面を掴み地面に叩きつける。すると見事にめり込んだ。

 左から飛来している矢を左手の【念力】で潰し、弓使いの男に肉薄する。そして男の方に触れ【触発麻痺パラライズ・タッチ】で気絶させた。


 大男には【触発麻痺パラライズ・タッチ】は効かない。なぜならちらっと大男を【鑑定】で見た際、【麻痺耐性/Lv.8】を持っていたからだ。

 【触発麻痺パラライズ・タッチ】は【麻痺耐性/Lv.6】以下にしか効かないスキル。だから大男には効かないと思い、直接的なダメージで気絶させた。


 ちらっと見ると大男は泡を吹いていた。頭からも血を流している。

 やべぇ、死にかけじゃん。と思いながら異空間収納から《通常級回復ポーション》と縄を取り出し、ぽかんと空いた口の中にポーションを流し込む。

 そして俺は大男は起こし、縄で縛る。弓使いの男も同じようする。

 

 ふと【俯瞰視】で勇者様を見ると、どこからか荷車を取り出しそこに悪党二人を乗せていた。

 その荷車を押してミスラ街以外の最寄りの街へ向かうのだろう。


 俺はポケットからスマホを取り出しつつ、【分身】を勇者様の影に付ける。

 そしてスマホでこの国の賞金首の顔が載っている国営サイトを開く。そのサイトの画像検索に今捕まえた二人の顔を検索する。

 すると二件ヒットした。


=====

【盗賊・血拭い団の構成員】


[画像]


名前:ペス 特徴:やや瘦せ型、大体160cm。弓使い。髪色はクリーム色。

耳の後ろに団のシンボルのロゴが彫ってある。

賞金:大銀貨一枚



【盗賊・血拭い団の幹部】


[画像]


名前:『大岩』ゴート 特徴:全体的に筋肉質で大柄。大体190cm。大剣使い。ハゲ。

耳の後ろに団のシンボルのロゴが彫ってある。

賞金:大銀貨四枚、銀貨五枚

=====


 俺は男二人の耳の後ろを確認する。すると確かにロゴがあった。

 ああ、なるほど。このハゲ、盗賊団の幹部だったか。通りでスキルが沢山ある訳だ。


 俺はそう思いながら両肩に盗賊二人を担ぎ、ミスラ街以外の最寄り街……ヤムに向かおうと《転移》を発動する。


 次の瞬間には俺は城壁の傍に居た。

 城壁の門の近くに転移した訳ではないので少し駆ける事にする。


 駆け出してから20秒後、俺は門の列に並んだ。周りから忌避の視線で見られる。この盗賊を担いでいるせいだろう。

 すると門から門番らしき兵士達がこちらへ向かって走ってくる。

 

 俺の近くまで来ると険しい表情で問いかけてきた。


「おい、これはどういうことだ?」

「……すいません、道中で盗賊に逢ってしまって、倒して縛って連れてきました。できれば詰め所に案内してくれませんか」


 すると事情を察したのか、兵士は急に態度を変え口を開く。


「あっ、はい。そういう事でしたか。では私に付いてき下さい」

「有難うございます」


 俺は大人しく兵士たちの後へ続く。




 詰め所に着いた俺は盗賊をスマホの画面を見せながら引き渡した後、椅子に座らされどういう状況だったかを事細かに説明させられた。

 やっと解放されたのが一時間後。俺の手には大銀貨一枚が握られていた。


 幹部の方の賞金は、本当に本人か確認が終わってから引き渡すとの事だったので、俺の連絡先を教えその場を後にしたのだ。


 さてこの大銀貨をどうするかだな。懐に入れるのは何か忍びない。何故ならこれは勇者様を狙っていた盗賊を引き渡した報酬だからだ。

 そこで勇者様ならこの報酬をどう使うかを考え、直ぐに答えが出る。


 よし、孤児院に寄付をしよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る