カレー工場の秘密
沢田和早
カレー工場の秘密
オレはジャーナリストだ。最近とんでもないネタを入手した。とある地方のとある都市の郊外に、とある食品加工会社のカレー工場がある。生産しているのはレトルトカレーで、どういうわけかほとんどが海外に輸出されている。このカレー工場に関して、とある筋の方から信じられない話を聞かされてしまったのだ。
「あのカレー工場には毎朝バキュームカーがやって来るんだ。おかしいと思わないかい」
「いや別におかしくないだろ。田舎で下水道が整備されてないから、毎朝浄化槽のウンコを汲み取りにくるんだろう」
「違うんだ。バキュームカーはカレー工場にウンコを配達しているんだよ。お取り寄せ
「な、なんだって!」
怖ろしい話だ。どうしてカレー工場にウンコが必要なのだ。もしこれが事実だとすれば大変なことになる。オレは真偽を確かめるために工場スタッフ募集に応募した。
「採用!」
ひとまずカレー工場への潜入には成功できた。身分はパート従業員、仕事は清掃だ。
「おいおい本当にウンコじゃないか」
とある筋の方の話は真実だった。カレー工場にウンコが搬入されていたのだ。このカレー工場にとんでもない秘密が隠されているのは間違いない。それを暴くためにオレはウンコを追った。搬入されたウンコがどのように使用されているのか、レトルトカレーとどのような関係にあるのか、清掃する振りをしてウンコをひたすら追跡した。
「け、研究開発室だと」
ウンコは全てカレー工場付属のカレー研究開発室へ運び込まれていた。中へ入り込むに厳重なセキュリティチェックを突破しなければならない。だがオレはプロのジャーナリストだ。ヴィレッジヴァンガードで八割引きで購入した「スパイなりきり七つ道具セット」を使っていとも簡単に内部へ潜り込んだ。
「ウ、ウンコを使った新商品開発だと!」
オレの予感は的中した。ウンコを使って新しいカレーを作ろうとしていたのだ。恐怖で全身が身震いした。神をも恐れぬ所業とはまさにこのことであろう。あまりの怖ろしさにウンコを漏らしそうになってしまった。
「まさか私たちの秘密を暴こうとする者がいようとはね」
「し、しまった」
油断した。知らぬ間にオレは数十名の研究員に取り囲まれていた。
「君、ウンコを漏らしそうなのではないかね。よかったらそのウンコ、我々に提供してくれないか」
「その前に説明しろ。どうしてお取り寄せ
「もちろん使っているさ。しかし研究には多種大量のウンコが必要なのだ。日本だけでなく海外からもお取り寄せ
そこまでウンコにこだわっていたとは。研究者の執念は凄まじいな。
「それで、オレをどうするつもりだ」
「秘密を知られてしまった以上、君は二度とここから出られない。今の君にはふたつの選択肢しか残されていない」
「ふたつの選択肢? どういうことだ」
「ウンコ味のカレーか、カレー味のウンコか、どちらかを選びたまえ」
こ、これは究極の選択ではないか。どちらも嫌だがどちらかと言えばウンコ味のカレーのほうがマシなような気がする。
「ではウンコ味のカレーで頼む」
「そう言ってくれると思っていたよ。さあ召し上がれ」
カレーライスが運ばれてきた。ウンコの臭いがする。見た目もウンコだ。
「おい、これはウンコ味のカレーじゃなくて本物のウンコじゃないのか」
「まさか。ウソだと思うなら食べてみればいい」
「嫌だと言ったら」
「君は飢えて死ぬことになる」
背に腹は代えられぬ。オレは思い切ってウンコみたいなカレーをすくって口の中に放り込んだ。
「う、うう、うまいじゃないか」
驚いた。確かにウンコ味なのだがうまいのだ。どうしてうまく感じるのだ。このカレーにどんな秘密があると言うのだ。
「驚いているようだね。ウンコ味のカレー。その名は知っていても実物を見た者はひとりもいない。我々はウンコ味のカレーを現実の物とするために日々研究を重ねているのだよ。ウンコから採取したスカトールやインドールをカレーに作用させ、ウンコ風味でありながらうまいカレーを作る。長年の努力の結晶が、君が今食べたカレーライスなのだ」
「そ、そうだったのか」
ウンコ味のカレー、それもただのウンコ味ではなく美味なるウンコ味。彼らはその実現のために日夜ウンコと格闘してきたのだ。実に胸を打つ話ではないか。感動のあまりウンコを漏らしそうになってしまった。
「だが、まだ完璧とは言えない。そのカレーライスはさらにうまくできるはずだ。君にも協力してほしい」
「喜んで」
こうしてオレはウンコ味カレーの研究開発員となった。悔いはない。この研究が一段落したらカレー味ウンコの研究に取り組んでみたいと思っている。
カレー工場の秘密 沢田和早 @123456789
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