第53話
イルメラとの――……脳内会議を終わらせて、大きく息を吸い込む。
そして使者を真っ直ぐに見つめて口を開いた。
「――これは提案なんですけれど……こちらの言い分を全て聞いていただけるなら……穏便に済ませても構いませんよ?」
「……――穏便に、とおっしゃいますと……?」
使者が視線を揺らしながら首を傾げる。
私の本心が分からず、不安なんだろう。
――一番頭下げなきゃいけない人間は来てねぇしなっ!
「――……べつに修道院に行っていただかなくとも……構わないという話ですわ」
「お嬢様⁉︎」
私の後ろに控えるように立っていたジーノさんが、咎めるような声をあげ、目の前では使者はポカンと口を開け、私の顔をジッと見つめている。
……ジーノさんがおっしゃりたいことは重々承知の上ですが、これが
――今ここで全て説明するのはムリだけど、自分の気持ちを説明するぐらいならできる。
「……――私だって、あの女は今でも大嫌いです。 二度と顔も見たくありませんし、名前を聞くのも嫌です。 けど……――モンティー商会には恩があります。 だからエミリーちゃんの未来を潰すのはちょっと……」
その言葉に視界のはしに映っていたご夫妻の血色が良くなり、互いに無言で手を握り締め、喜びを分かちあっているようだった。
「しかし、それではっ!」
どうしても納得ができなかったのか、ジーノさんはソファーに手をついて、縋り付くように抗議する。
それを宥めるように、後ろを振り返りながらソファーに座り直す。
そしてジーノさんの手に自分の手を重ねて口を開く。
「もちろん色々と条件は出します。 ……私が納得できる程度の条件は――これは私なりの復讐なんで、やらずに修道院に行ったほうがマシ――ぐらいは思うんじゃないかなー? ってくらいには厳しい条件になっていると……」
「……――その条件とは?」
そう尋ねてきたのは、話しているジーノさんでもインザーギからの使者でもなく、エド様だった。
少し心配そうに顔を歪めている。
――……そりゃ心配もするか、エド様にとっちゃ、男爵家との関係はこれからもずっと続くわけだし……
「一つ目は……謝罪ですかね?」
「――妥当だな」
私の言葉に、エド様は意外そうな顔つきで頷ずく。
「……当然、私にもしてもらいますが――それだけではなく、今回の被害者一人一人全員に謝罪し、その全員からきちんとした許しを得てもらいます。 ここで重要になるのはレベッカ嬢が謝ったかどうか、ではなく、謝罪をされたほうが許すかどうか、です。 ――その際、多少の金銭や品物の譲渡ぐらいならば認めます。 なのであの場にいた全員……――ジーノさんの後でリストアップを頼めるかしら?」
「もちろんでございます」
「そのリストにある全員から、一人一人許しを得ていただきます。 一人一人なので夫妻や家族だからといって一緒に済ませるのは許しませんし、子供だからだと、親に許可を求めるのも許しません。 誠心誠意謝って許しを得てください」
つまりは――ちゃんと許されるまで謝れよ? ってことだ。
「私は謝ったんですけどー」なんて言葉で済ませてなんかやらない。
そして私だって一回や二回謝ってもらったぐらいじゃ許してやらない。
……っていうか、多分私にたどり着くにはカーラさんやジーノさんたちの許しを貰わなきゃいけないだろうから……――道のりは長いと思う。
……卒業までに終わるといいね? 謝罪行脚。
「――えぇと……?」
私の提案をどう感じているのか、使者は忙しなく視線を動かしつつ、確認をとってくる。
――が、今の説明で終わりなんだよなぁ……?
結構難しいと思いますよ? 傷つけた子供たちから許しをもらうのとか……
子供は悪者に厳しいんだから……――話を聞いてもらうだけでも時間がかかるんじゃないかな?
その子の保護者たちだってレベッカにいい反応はしないだろうし。
――ま、この人がその辺りのことを理解してなくったっていいか。
使者なんだから、ちゃんと私の要望を向こうに伝えていただこう。
「それともう一つの条件として、化粧水や乳液の使用を禁じます。 これは一生です。 ……今回の騒動の原因になったものですし。 ああ……私が作った商品は全て使わないって言葉のほうが分かりやすいかしら? ――あ、それと念のために、レベッカ嬢が学院に通う場合に限り、エミリーちゃんを絶対に同行させること。 これも条件だと思っていただければ」
「……他の条件をお伺いしても?」
「条件はその3つだけです」
「よ、よろしいので⁉︎」
私が出した条件を大したことがないと判断したのか、使者が目を丸くしながらたずねる。
――いやいやいや、でもね使者さんよ。
お母様たちからの注文量から察するに、この化粧品たち、結構な流行になってますよ? お母様もお婆様も、店で買えるなんて情報公言してないから、必要な分は絶対注文してるはずだし、駆け引きに利用してるなら必要最低限の量しか注文してないはず――
そしてこれはアルバ枢機卿から教えてもらったんだけど、ベラルディ家を通したくない家で、情報通のお家は、すでに教会に直接、取引を申し込んでいるんだとか。
――つまりは、それをやるぐらいの価値が化粧品たちにあるってこと。
――そんな流行の一端にはなっている化粧品。
そんな化粧品が――発売元のバジーレ領のすぐ隣に領地があって、なおかつ侍女の実家が販売店だというのに、自分だけが手に入れられない。
――さぞかし面白くないんだろうなぁ……
――お母様、お婆様、未来のお姉様お妹様!
期待していますよっ⁉︎
じゃんじゃん派閥争いして、ガンガンばら撒いて、少しでもこの流行を長続きさせてくださいねっ‼︎
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