第48話
今もなお必死に立ち続け、女と騎士たちを威嚇しているジーノに素早く回復魔法をかける。
ずっと側に居てくれたのに……
このケガを負ったのは私を庇ったせいなのに、治すのが遅れてごめんなさい……
「感謝いたします……」
苦しそうだったジーノの顔が元に戻ると、支える必要が無くなったらため、ルーナがそっと手を離す。
魔法攻撃を受けたため、服は元には戻らなかったが、それでもいつものジーノに戻ってくれた。
「宜しければお客様のケガも……」
そんなジーノの言葉に頷くと、私はいまだに武器を突きつけられ、座りかまされている集団を解放すべく動き出した。
庭のそこかしこが踏み荒らされ、魔法でメチャクチャにされている。
そして――ここから確認できるほとんどのお客様の服や顔が汚され、恐怖に引きつっていた――
……せっかくおめかしして来てくれたのに。
怒りに震えながらいまだに武器を持ち続ける騎士たちを睨みつける。
視線の先の騎士たちは私の存在に気がつくと、驚き困惑した様子で、互いに顔を見合わせている。
……他家を武力制圧しておいて、その自覚が全く無さそうね?
――自分が所属している男爵家の領内の民家に踏み込んだわけじゃ無いのよ……⁇
……どれだけ愚かに見えたとしても騎士は騎士。
上役――この場合指揮官かあのバカ女が号令をかけなければ、武器を下ろすことは無いだろう……
――解放は無理でもケガだけで治してあげたい。
……殺された人なんていないわよね?
いくらなんでも他家の領民だもの、最低限の礼儀ぐらい払ってるわよね……?
……――許可を出したらしいウワサも出てますけど。
不安を押し隠すように向かい合った騎士に話しかける。
「――私は治癒師です。 怪我人の治療をします」
「え……あ、イヤ……?」
戸惑う騎士に最上級のカテーシーを披露して、その隣を通り過ぎる。
――どう? 少なくとも、あなたのところのお嬢様よりは美しい所作だと自負しておりましてよ?
その静かな動作に騎士は戸惑い、手を伸ばそうとしたり、その手を引っ込めてみたりと、周りの騎士たちと視線を交わし合いながら自分がどうすべきかを決めあぐねているようだった。
――今さら私に敬意を払ったところであなた方の処遇に大きな違いがあるとは思えませんけど……ま、指摘はしませんわ。 だって止められたら困ってしまいますもの。
「お嬢様……」
「今、治します。 全員治しますから大怪我を負っている人を優先させて。 気分が悪い人も回復をかけますから声をかけてね」
そう声をかけながら頭や腕にケガを負っている人を治していく。
いつもなら患部近くを触ることはしないし、全身に魔法をかけるのだが、今回はスピード重視で患部部分だけを治していく。
……細かい治療は後でいい。
今は全員の安全を確保することが先決。
――使用人は今のままで十分だと思っておりましたけれど……護衛騎士や門番ぐらいは雇うべきでしたわね。
「何勝手なことさせてるの⁉︎ あいつは罪人なのよ⁉︎」
「し、しかし……」
「私の命令が聞けないの⁉︎」
「そ、れは……」
回復魔法をかけながら、我慢している人がいないか確認していると、なぜか元気になってしまったバカ女が後を追って来たのだろう、後ろのほうで大声で喚くように騎士に再度私を拘束するよう命令している声が聞こえて来た。
……せっかく騎士たちの動きを止めたというのに……――これをきっかけに拘束されても困るし、騎士たちに再び動き出されても困る。
――やはり黙らせるべきはこの女か……
私は立ち上がりバカ女に向き直ると、ニコリと笑い、そしてジーノに話しかけた。
「ジーノ、インザーギ家が取り潰される前に損害賠償請求だけはきっちりしておいてちょうだい。 後屋敷や庭の修繕費、お客人たちへの賠償金は……――エドアルド様のお許しがあったなら無理かしらねぇ?」
私は女に聞かせるように、わざとらしく話しながら肩をすくめる。
この女の言葉を信じているわけでは無いが……これで本当に許可が出ていた場合、領民である客人たちの賠償金は認められないだろう……――そうなったらお見舞金を少し多く支払おう。
……私のせいじゃないけど……責任がないのかと聞かれたら「無い!」って即答は出来ないからなぁ……
「……かしこまりました」
ジーノは淡々とそう答えると、カーラに目配せをする。
指示を受けたカーラは小さく頷くと、私に一礼して屋敷に向かって歩いて行った。
……それを騎士たちの誰も制止しないのだから――賠償金を払う覚悟はできているのかもしれない……?
「まっ待ちなさいよ!」
唯一覚悟が出来ていなかったであろう女が、カーラに向かって制止の声をかけるがカーラを守るようにルーナとニコレがその前に立ち塞がり、騎士はルーナたちから女を守るように騎士たちが女を背中に庇った。
……攻撃するつもりはないようだけど――問答無用で攻撃魔法を仕掛けてきた騎士もいる……――こちらに気を引きつけておけるなら、そうしておきたい――
……騎士はムリでもこの女なら……
私は立ち上がると挑発するようにクスクスと笑いながら女に声をかけた。
「……あら貴女――またいらっしゃったの? これ以上、恥の上塗りがしたいだなんて……――私はもう止めませんわ? さぁしてみせて?」
「んなっ……! ――そっちこそ! まだ家族のふりをするつもり⁉︎ 私ちゃんと知ってるんだから! ここに住むヤツは騎士団で働いてるって! ――これでもまだ私を騙そうっていうの⁉︎ 本当は平民のくせにっ! 本当のこと言いなさいよっ‼︎」
言い放った言葉はもっともらしいものだったが、それを喋っている女の顔は必死でどこか焦っていて――その言葉が本心からではなく、そうあって欲しいという希望の言葉だということを物語っていた。
――万が一にも、こういう事態を引き起こさないためにお勉強するんですわね……
苦痛で仕方がなかった時間だけれど……教育を施してくれた両親には感謝しますわ……
――この方にはそんな気持ちすら理解すら出来ないんでしょうけれど。
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