第45話
まるで勝ち誇ったようにこちらに扇子を突きつけてくる女。
……他の家の庭に、いきなり騎士をけしかけておいて、なんて攻撃的なのかしら……
ご令嬢が騎士たちに指図するなんて前代未聞。
それに……ずいぶん大きな態度をとるじゃ無い?
――まるで自分こそがこの屋敷の女主人であるかのように振る舞って……――この
聞き捨てならない暴言に、ギリリッと音がするほど歯を食いしばって怒りをやり過ごす。
――怒り狂った時こそ笑うのだ。
言葉に如きで感情を揺らしているようでは相手の思う壺。
――上位者はこちら。
首を垂れるべきは向こうなのだから、こちらが下手を打ってやる必要など無い。
母の教えに従って、私はいまだに扇子を突きつけ、喚き散らしている無礼者へ笑顔を向けた。
そして挨拶がわりにイヤミも交えて世間話でもしようと思っていたところで、女に指示され小走りに近づいて来た騎士たちが、ぐるりと私たちを取り囲み、手のひらをこちらに翳し――
「っ! お嬢様‼︎」
ジーノの声とドゥン‼︎ という破裂音、そして大きな衝撃は同時にやって来た。
――え? 私今、問答無用で攻撃魔法を放たれたの……?
――このバカ女、うちと戦争でもするつもり?
いくら
なによりも外聞と面子を大切にする貴族よ?
……――それとも……私如きのために、うちは動かないとでも思っていらっしゃる⁇
――へぇー? ふぅーん⁇
……そう。 いいんじゃない? あなたの判断だもの……好きにすべきよ、そうでしょ⁇
口の奥でギリリ……と歯を噛み締める音がするのを聞きながら、私はさらに足を踏み出した。
そんな私の前にメイド長であるカーラがその身体を滑り込ませ、ルーナとニコレにジーノの手当てをするよう指示を飛ばす。
「……お客様のほうはどうなっているのかしら?」
「他の者に引き継ぎました! 相手は武器をふるうだけでは飽き足らず、攻撃魔法まで
その言葉にチラリと庭に視線を走らせると、お客様を庇いつつ騎士たちと応戦している庭師や料理人たちの姿が見える。
そして――そんな使用人たちや逃げ遅れた客人に向かい、武器を振るい魔法を乱発している騎士たちの姿も――
庭の端の方には、騎士たちに捉えられてしまったのか、武器を突きつけられ拘束されている客人たちの姿もあった。
……――待って? カーラはさっきなんて言った……? ジーノの手当てをしろと言った……?
視線を巡らせジーノを探すと、背後で痛そうに顔を歪ませ、
――庇われたんだ……
ジーノは私を魔法から庇って……
そんな事実と目の前に広がる戦場のような光景に、意地で引き上げた口角がヒクリと引きつる。
――そんな私を
そちらに視線を向けると、無礼な女が下品な笑い顔を隠そうともせずに、私を取り囲んでいる騎士たちの前に立っていた。
その女はフンッとイジ悪く顔を歪めるように鼻を鳴らすと、近くに控えていた指揮官であろう騎士に向かって言い放った。
「そいつよ。 さっさと捕まえて」
しかし、言われた騎士の反応は予想とは違っていた。
「……しかし、そのぉ……――こちらのお方は本当にどこかのご令嬢なのでは……?」
チラチラと私のほうを伺いながら、大きく戸惑っているのが分かる。
……あら、意外に見る目がある騎士さんね?
――だからって今さら許してあげないけれど。
女はそんな指揮官の言葉に顔を歪めると、顔を赤くして喚き散らす。
「そんな訳ないじゃないっ! ここに住んでる奴はバジーレ家の騎士団で金を稼いでいて、商家には物を売ってるのよ⁉︎ ――そんな令嬢がどこにいるっていうのよっ?」
……目の前におりましてよ。
――けれど……まぁ、勘違いしても仕方がない内容ですわね……?
……勘違いするのは仕方がないとしても――そんな思い込みだけでこんなことを……?
――本気で言ってらっしゃるのかしら……?
では……そんな無知で浅はかな愚か者の思い込みで、お客様たちはキズ付けられましたの……?
自慢の使用人たちは攻撃を受けましたの……?
怒りで真っ赤に染まる視界の中、私の隣にボロボロになったジーノが立ったのが分かった。
ルーナに身体を支えられながら、痛みに顔を歪ませ、それでも私を庇おうと私の前に出ようとして、ルーナやニコレに引き止められている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます