第44話
一体
ご近所さんたちも顔を見合わせながら、首を傾げているが、勢いよく入って来た、鉄鎧を着て剥き出しの剣を持っている沢山の騎士たちの姿にサァ……と顔色を変え、互いに身を寄せ合わせる。
「――え、どちら様……?」
あの紋章は……――え? なんで⁇ 一体何が起こってるの……?
「お嬢様、お早くこちらに――」
急すぎて事態が理解できていない私の腕を掴み、警戒体系に入ったジーノさんたちは、私の周りを取り囲みながら素早く屋敷のほうへと動き始める。
よく分からないながらも、促されるがままに屋敷に向かっていた私の背中で、キンキンと甲高い耳障りな声がした。
「――何をモタモタしているの⁉︎ さっさと罪人とその仲間をひっ捕えてっ‼︎」
――罪人と、その仲間……?
その言葉に思わず私の足が止まる。
逃げなくてはいけない。
イルメラの知識が、こういう場合は絶対に使用人に逆らわす、一秒でも早く安全な場所に逃げることが最善なんだ。
なのに……私の意識がそれを邪魔する。
あの人はなにか勘違いしてる。 だから誤解を解けば――って……
足を止めた私に、ジーノさんは素早く抱え込むように手を回して引きずるように歩き出す。
……けれど、足を止めて辺りを見回した私には見えてしまったのだ。
庭になだれ込んできた騎士たちが、一斉にご近所さんたちに襲いかかった姿を――
武器も持たず無抵抗の人たちになんてことを……⁉︎
その光景に、私は足を踏ん張りジーノさんの手を振り払う。
嗜めるジーノさんや、それでもなお私の腕を引くニコレちゃんから強引に身体を引き離し、悲惨な光景を真正面から見つめた。
……その瞬間――私の中の、ずっと奥の方にいたイルメラの意識が、その感情が、一際強くなるのを感じた。
――よくも……よくも、お招きしたお客様をっ!
我が家のせっかくの晴れの日をっ‼︎
「……――ジーノ、お客様を安全な場所へ」
「しかしっ!」
「お早く避難をっ!」
「――ここは私の屋敷。 責任者は私なはず」
私の言葉にジーノはグッと答えを詰まらせる。
守られるべき立場であるなら、一刻も早く安全な場所に行くことが好ましい……しかし、この場の責任者が姿を隠すわけにはいかないのだ。
……そんなことをすれば――この屋敷も、お客様も蹂躙されてしまう……
「っ! お嬢様、代理の指名を!」
切迫詰まったようなジーノのを言葉に、思わず頬が綻ぶ。
ジーノは自分を代理に任命し、この場の責任者として立たせ、私に逃げろと言っているのだ。
……果報者ね。 今までこんなに私に尽くしてくれた使用人はいなかったわ。
嬉しさを噛み締めながら首を横にふる。
そしてジーノが続ける前に命令を口にした。
「――あなたたちはお客様をお守りなさいっ‼︎」
……元々の
私の命令に「――はっ!」と頭を下げながら庭へ駆けていくメイドたちと、そばに控え続けるジーノ。
「――
そう言いながら頭を下げたジーノ。
その姿にまた喜びを噛み締める。
……そうね。 いくら非常時でも執事の一人もそばに置かないのは格好がつかないもの。
――この騒ぎの元凶であろう少女のほうへゆっくりと足を向ける。
歩きながら、私は今までの人生の中では思いつくことすらなかったような、新しい考えが湧き上がっているのを感じていた。
先に敵意を向けたのはそっちなんだから、絶対に許してやらないっ‼︎
その方々は
お招きしたお客様を守れず、何が侯爵家の令嬢かっ‼︎
――周りの視線も評価も気にしない。
私のせいで実家に迷惑がかかったら……?
――迷惑をかけられて人生滅茶苦茶にされたのは私の方っ‼︎
――“私”の人生なんだからもう誰の犠牲にもなってやらない。 これからは“私”のやりたいように好き勝手やってやる‼︎
ズンズンと歩いていくと、草陰から小さな影がいくつか飛び出し、私にしがみつく。
それはさっき一緒に遊んでいた少女たちで……
「危ないから、建物の中に入っていなさいね?」
私のドレスにしがみつき、えぐえぐと泣き声をあげている子供たちの背中を撫でながら屋敷を指差す。
何度か背中を撫でていると、少しだけ落ち着いたのか、顔を見合わせ手を取り合いながら屋敷に向かって走っていった。
……本当はちゃんと安全なところまで連れて行ってあげたいけれど……――責任者である
さて――あの無礼者、どうしてくれようか……
騎士たちに命令を出している少女を睨みつける。
長く美しいウェーブのかかった紫色の髪が動くたびにふわふわと揺れている。
気が強そうな釣り上がった瞳はエメラルド色をしていて――その瞳がギッと攻撃的に釣り上がってさえいなければ、可愛らしい顔立ちをしている。
堂々と掲げられた他家の紋章付きの馬車の前にもたち、我が物顔で指図している女……
私の知識が、その女が年下でまだ学校遠卒業していない子供だと伝えていた。
……まだ子供なのに騎士たちの指揮を……?
――彼女の後ろには誰がいるのかしら……?
そんなことを考えながら歩いていくと、向こうもこちらの存在に気がついた。
私と目があったその女は――
ニィィィッと顔を歪ませるように
「罪人はあそこよっ! さっさと捕まえてっ‼︎」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます