第42話
「姉ちゃまあーそーぼー」
「あしょぼー!」
おかみさんとのやりとりや簡単な挨拶回りを終えた私は、用意された席にようやく座ることが出来ていた。
――のだか、座った途端に可愛らしい声に呼ばれる。
勢いよく走って、抱きついてきたのは教会が養育している子供たち。
頭皮を守るために教会へ行く機会が増え、ついでに子供たちの病気やケガなんかを治したので、こうして懐いてくれるようになった。
……本来なら今日のパーティに招待するべき子達ではないんだけど……――この子達だって庭の草むしりとかやってくれるし、掃き掃除だってしてくれたので……全くの無関係ってわけでもない。
――他の人たちだって子供とか連れてきてるんだから誤差みたいなもん!
……――これは、みんなありがとう! 楽しんでね! の会なんだから、子供たちが楽しんだって良いんですよ!
……やっぱり私、母性本能に目覚めてる気がする。
こう、ちっちゃい子たちが目をキラキラさせながら「姉ちゃま」「姉様」って言ってわらわら寄ってきてくれるとキュンキュンするんだ……
かわゆ……幸せ……
――ただしリアルな弟は別。
まだ許さん。 反省してどうぞ。
「ねぇ遊んでぇー⁇」
きゃるるん? という擬音が聞こえてきそうなほど愛らしい仕草で、私を見上げつつ首を傾げる子供たち。
「――いいよぉ? 何して遊ぶぅ?」
デレり……と顔を崩しつ、子供たちの頭を撫でながら答える。
「怪獣ごっこ!」
「がおーしてえー?」
「あー……確実に私が怪獣役だぁ……?」
引きつる顔を無理やり笑顔に変えて答える。
……――教会でチラッとやっただけのその遊び……君たち大好きだよねぇ……?
――シスターさんたちには『怪獣とは……?』って首腫れられちゃったけどー。
「やろーよぉー」
「やってぇー??」
「しょうがないなぁ……」
子供たちの熱いリクエストにお応えして立ち上がると、両腕を高く掲げ手で怪獣の鉤爪を作る。
そして大きく息を吸い込むと、子供たちを見据えニヤア……と笑って見せる。
そして吸い込んだ息を一気に吐き出した。
「――ぎゃおおおお!」
私が雄叫びを上げた瞬間、近くに立っていたミーナちゃんの肩がビクリと大きく震えた気がしたが、気のせいだと言うことにしておこう……
……絶対に目の錯覚。
「うわー! 怪獣だぁー! にっげろー‼︎」
「きゃぁぁぁっ!」
私の雄叫びを合図に、歓声を上げながら一斉に走り出した子供たちのあとを追いかける。
――子供たち楽しいかい……?
……君たちは知らないかもしれないけど、お姉さんこれでも侯爵令嬢なんだ……
もしかしたらご近所さんすら忘れて、ジーノさんたちくらいしか覚えてないかもしれないけど、お姉さん本物のお嬢様なんやで……⁇
――やるけどね⁉︎ 皆の笑顔のためなら頑張っちゃうけどね⁉︎
……怪獣ごっこは遊びだけど、遊びとは常に真剣でなくてはならないのだ。
――正直なところ、私自身ちょっと楽しんでいる部分もあったりする。
……意外なことに、私の中にいるイルメラの意識も楽しんでたりするんだよねー。
そりゃ『人前でなんてことを⁉︎』とかいう動揺もあるんだけど、それと同じくらいの『お庭を走り回ってますわ……‼︎』っていうワクワクした気持ちも確実にある。
生粋のお嬢様であるイルメラにとって、庭を駆け回ったり、大きな声を上げて笑ったり、思いのままに泣いたりするのなんて、タブー以外のなにものでもないみたい。
そんなことしたってバレた日には、家庭教師から、手のひらが真っ赤になるまで鞭打ちされてた……
加えて晩ご飯抜き。
……イルメラが覚えてるから、私もその痛みが分かる。 ……すっごく痛い……しかも痛みが消えたって、ずっとジンジンして感覚が無いまんまだし……お腹は空いてるし……
――世界が世界なら幼児虐待だからなっ!
常識が違うからって許されたとは思うなよっ!
だからなのか、こうして子供たちと思いっきり遊ぶの……純粋に楽しいんだよねー。
……今までたまに溜め込んでたイルメラのストレス発散にもなるし。
――まぁ、今の私のほうには、大したストレスは無いんですけどねー!
本当にありがとうアルバ枢機卿!
そしてモンティー商会‼︎
「――捕まえたぞおぉぉぉ!」
そう言いながら、追いついてしまった女の子の一人を後ろから抱き抱える。
「きゃあー! 助けてぇー‼︎」
「やだよー! お腹が空いたから食べちゃおうかなぁー?」
「やー!」
「じゃあ、くすぐっちゃおー」
「きゃぁぁぁっ! あはっあははっ」
抱き抱えていた女の子を芝生に下ろして、コショコショと脇腹をくすぐる。
「くそぉー! 人質を離せーっ!」
そう言いながら突進してきたのは、この女の子と仲のいい男の子。
「なら、次はお前だぁぁぁ」
「うわぁぁぁぁー」
笑い転げている女の子を解放して次は男の子を追いかけ始める。
……今の私は怪獣なので「ぎゃおおぅ‼︎」と雄叫びを上げることも忘れない。
なこんな気配りができるご令嬢なんて他にはいないね!
「――本当に貴族のご令嬢なんだよな?」
「……だって領主様が送り迎えだぜ⁇」
「――なら本物……なのよねぇ……?」
おい。 聞こえてんぞ、外野。
正真正銘、本物のご令嬢ですけれどー⁉︎
――……まだ。
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