第41話
――原因は私にあったんですけどね?
……私ってば、未だにしぶとく侯爵家令嬢なんてものをやってるから……
いくら古代宗教文字で書かれた資料から作られたものであっても、金銭を対価にもらっていても、侯爵家のご令嬢が創り出したものを“教会が取り上げた”という悪評が出回ることを嫌った教会が買取に難色を示した。
……もうね、寝耳に水。
だってこっちは代わりに作ってくれるならレシピ代とか無くても良い! ……ぐらいの気持ちだったから。
これで化粧水作りや乳液作りから解放されるー! ってウッキウキだったのに……
それを『なんか悪いウワサ流されそうだからヤダ』って。
そんなこと言われたってお母様たちへの納品を遅らせるのは、結果として自分の首を絞める行為になるわけで……
家の家長はお父様だし、すべての決定権もお父様にあるけど、資産や財産の管理をしているのはお母様……――お財布怒らせる。 ダメ絶対。
その時の話し合いで、私がよほど落胆してしまったからなのか、アルバ枢機卿は“教会が代わりに作ったとしても、決して悪評を立てられることはない方法”を考えてくれ、ジーノさんやエド様たちと内密に連絡をとってくれた。
そしてその結果、私たちは化粧水作りから解放され、教会も納得して化粧水作りを請け負ってくれることになったのだ。
その方法はこうだ。
日本語――この世界では古代宗教文字と言うらしいが――これが読める私にエド様がとある依頼をしたする。
その内容は『聖者が書き残した文献に載っている品物をぜひとも甦らせて欲しい』というもの。
……なんなら書物ごとうちの使ってるわけだけど、そんなの黙ってればお父様たちには分からない。
本当にバジーレ伯爵家にだってあるかもしれないし、無いかもしれない。
それを確認するすではお父様たちには無いだろう。
……大体、この屋敷にそんな文献が残ってるなんてお父様たちは知らないだろうしー。
依頼を請け負った私は、見事化粧水や乳液を甦らせ、報酬として受け取っていた現品の一部をお母様やお婆様たち、そして未来の義姉妹に贈った――
で、エド様のほうは、その復活した製法を教会に教えるため話し合いの場を設け――……アルバ枢機卿曰く、この話し合いで伯爵家と教会がなんらかの取引をしたかのようにみせかけるのだそうだ。
その結果、製造は教会。 販売はバジーレ領でも三番の指に入るモンティー商会と、なれば、人々はきっと伯爵家と教会のやりとりに気を向け、私との関係には気を払わないだろう、というのがアルバ枢機卿の見立てだった。
……そんな話聞いたら、私でも教会とエド様が取引したような気になっちゃうぐらいには説得力のあるストーリーだわ……
教会と家族が内々に取引するってのはよく聞く話だし、劇とか吟遊詩人とかでもよく使われる話だし。
――結果としてウワサの的になりそうだけど……
アルバ枢機卿もエド様も、好奇のウワサならばいくら話されても問題ないんだってさー。
アルバ枢機卿なんか「それが悪評じゃないなら良い宣伝になってくれるわ」って元気に笑ってたっけ……
とにかく、教会に悪評が立つ心配が無く、私も化粧水作りから解放されるwin-winな関係がここに爆誕したのだった――
――一応、お母様やお婆様には、ちゃんとした説明も添えた手紙を送るつもりだけど……多分あの人たちも私を通さずに商店で好きに買えるならそっちのほうが嬉しいんじゃ無いかな?
だから文句とかは言われなさそう。
しかも! 詳しい話はあんまりよく理解してないけど、化粧水の売上の純利益、その半分が私の懐に入ってくる契約になってるんです!
これも悪評を避ける的な意味合いが強いらしいんだけど……こんな簡単にお金が稼げてしまって良いのだろうか……?
で、残りの利益を教会とバジーレ家で分け、モンティー商会にはちょこっとだけ利益が出るような分配になっているらしい。
それでもモンティー商会にとっては、伯爵教会との繋がりが作れ、ベラルディ侯爵家を始めとした、多くの貴族たちとの取引が見込めるこの話は降って湧いたような幸運なんだって。
だから不満とかは全然無いらしい。
……――私が作り出した化粧水作りを、教会の人が引き継いでくれて、商会が売ってくれる……
――バジーレ家の取り分、四分の一もいるかなぁ……?
とか思わなくも無いけど、そもそもの建前の段階で、バジーレ伯爵家やエド様の名前を借りてるんだから、伯爵家にだって旨みがなきゃ引き受けてもらえない。
そして――……
私、全然知らなかった――つまりイルメラちゃんも全く知らなかったことなんだけど……賢者たち――昔にトリップしてきた高校生たちを、この国の人たちはこう呼んでる――が、研究の末にもたらしたものたちのすべて。
今あるものも無いものも、復元したものだろうがなんだろうが、その全てが『教会の所有物』という扱いになるんだそうだ。
――まぁ……いわゆるところの……――教会の資金源というやつなわけで。
これは国が正式に認めた権利であるわけで……訴えられてたら、完全敗北してしまうところだった……
――まぁ、ゆうてもこの法律、結構ユルいらしく、個人で楽しむ程度なら見て見ぬふりされるレベルらしいんだけど――
貴族のご令嬢が店開けるレベルでばら撒くのは完全アウトの行為だった……
その辺りをうまく調整してくれたアルバ枢機卿には感謝しかない。
……――梅酒が上手に出来たからお礼に上げようと思ってだんだけど……これもなんか法に引っかかりそうだから、ジーノさん経由でレシピごと差し上げよう。
私はお屋敷で楽しむ分だけあれば良いしー。
……でも――今の私っては、もはや私が理想としていた暮らしをしているのでは……?
親の金で遊んで暮らせて、化粧水や乳液はすぐそこに売ってて、なおかつ売り上げの一部が
え、ちょっろ……
貴族の人生、ちょっろ。
……まぁ? イルメラちゃんは貴族であったからこそ、入水自殺でもして人生からのログアウトを試みる予定だったほどに追い詰められたんですけどー。
それに……お金がたくさんあるからって治癒師を辞める理由にはならないからなー。
師匠や先輩方はなんだかんだ面倒見がいいし、見習い仲間たちとの関係も良好。
――なによりエド様級のイケメンが優しく接してしてくれる職場とか、こっちがいくらか払ったっておかしくないレベル……
――イルメラ絶対にここを離れたりしない。
なにがなんでもあの職場にしがみつく。
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