第39話

「屋敷の修復もだいぶ進みましたね」


 すっかり綺麗になった屋敷の廊下を確認するように歩きながら、付き添ってくれているジーノさんに話しかける。


 返礼品のおにぎりや化粧水を気に入ってもらえたのも良かったのか、屋敷の修復は急ピッチで進められ、この廊下も最初の面影すら無くなっていた。

 ――この廊下、隙間が全然無くなったらこんなにあったかかったんだ……

 窓は元々ピカピカだったけど……それでも見違えるほど、この廊下が綺麗になったように見えるのは、天井や壁紙を全部貼り替えたせいなんだろうな。

 ……難しいところは職人さんがやってくれたって話だけど……――簡単な壁紙張りとかもあるんだ……


「そうでございますね。 あとはキッチンと炊事場の床やタイルを張り替えれば、痛んだ箇所無くなります」


 少し困ったように、何か含みを持たせながら答えたジーノさんの答えに私は首を傾げる。


「……あとはなにが必要になるんでしょう?」

「――そろそろ玄関ホールの絨毯も使用感のほうが……」


 その言葉でようやく理解した。

 なるほど。 あと必要なのは貴族としてのか。

 その屋敷の顔とも言える庭や玄関にお金をかけるのは当たり前。

 だから……まだ使えるとはいっても使い古した絨毯は侯爵家の者が使うお屋敷としてはふさわしく無いんだろう……――別に誰を招くわけでも無いけど……毎朝の送り迎えで伯爵様が来ちゃうしなぁ。

 気を使えるなら使うべきなんだろう。


「――ジーノさん安心してください! 私、おこづかいはたくさん貰いましたよ!」


 胸を張って答える。

 ――いや本当に、胸張るぐらいのお金があるんです!

 ……お母様からのお小遣いも凄かったけど、お婆様たちの分が凄かった……――本当に貴族って金持ってんだなー……

 私もどうにかしてこのお金を運用したいところだけど……――正直、ヘタに商売なんかに手を出すより、化粧水や乳液たくさん作ってお婆様たちに送ったほうがいい気がしてる。

 ……手紙に何度も『また送ってほしい』『もっと多くてもいい』『おこずかいはまかせろ!』みたいなこと書いてあったから。


 だからお金のことは任せてください!

 今の私に買えない絨毯など無いっ!


「それが実は……」


 自信満々に胸を張る私に、ジーノさんは言いにくそうに言葉を続けた。


「それが……――職人たちの要求は、金銭ではなくお嬢様の回復魔法でして……」

「えっ誰か病気なの⁉︎ この領の人なら騎士団に来てくれればきっと治せるよ? 私、パウロ爺には言っておくし!」


 本当はダメだけど、コッソリだったら何回か治してるの見たことある。

 子供が泣きながら連れてきた小鳥の羽だって治したし。


 ――はっ⁉︎ もしかして職人さんたち、うちがまだ貧乏だと勘違いしてる⁉︎ それで気を使って⁉︎


「――お嬢様の回復魔法は肌や髪に効くとウワサになっているようで……」


 ジーノさんはそう言いながら困ったように眉を下げた。


「――……あーね? 職人さんたちは女性が多かったり?」

「織物の職人は女性だけです」

「――なら納得ですねー。 ……でもお金も払わないと「侯爵家なのにみみっちぃ」って言われません……?」

「――では、少々の金銭とお嬢様の回復魔法を報酬に職人たちを募りましょうか」

「――募るって……えっ 職人を雇うところからって……まさかオーダーメイド⁉︎」


 うちの玄関ホールの形に合わせて、うちの玄関ホールの雰囲気に合うような柄をわざわざ作ってもらうっていう、あのオーダーメイド……

 なんてお高い絨毯なんだ……

 普通にお金で払うなら、宝石の一つや二つじゃ足りなさそう……

 え、それを回復魔法で……⁇


 ――治療めっちゃ頑張ろう。

 化粧水と乳液込み込みのスペシャルケアに頭皮の方までカバーしよう……

 髪が綺麗だと老け見えしないって聞いたことあるし。


「玄関ホールの形とは違う既製品を使っているほうが“みみっちぃ”と言われてしまいますれば……」

「――確かに」


 知ってた……!

 貴族なんて見栄みえ張ってなんぼの生き者でしたわー……

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