第35話

「横になるか?」


 帰り道、準備されていた馬車に乗り込んだ私に心配そうな声をかけてくれるエド様。


「平気です。 ものすごく疲れているだけで、気持ち悪いとかそういうのはないんで……」


 倒れちゃった私がいうのも信憑性低いけど、死ぬほどダルいだけで気分が悪いわけじゃない。

 ――正直な所、ゴロゴロはしたいけど……でも私は知っている。

 今ゴロンしたら、おやすみ3秒だということを――……流石にぶっ倒れた挙句意識不明で家に帰り着くのは迷惑過ぎる……


「――無茶をしすぎだ……大体、貴女と言う方は……」


 ――エド様からのお小言の気配を激しく察知!


「あーっ! ……けれど失敗しましたよね⁉︎ 侯爵家の令嬢としてではなく、騎士団所属の治癒師という肩書きで治療すれば、きっとエド様の功績になりましたのに!」


 むぅ……と、顔をしかめながら露骨に話題を変える。


「――……そんな話がベラルディ侯爵の耳に入ったら、私が貴女をこき使っていると思われる」

「あー……騎士団に所属したことは伝えてありますけど……――内心では面白くないかもしれませんねぇ……?」


 文句は返って来なかったけど……その内心までは知らない。

 ……私を見捨てた段階でそんな感情無くなってる可能性もありありだけどー。


「――流石にそのぐらいは知っていたか」


 肩をすくめたエド様が、からかい混じりに言ってくる。

 ――魔法使いすぎたらどうなるかってことを知らなかったのは事実だけど、そもそもそれは侯爵家の人たちがイルメラちゃんになにも教えなかったったわけで……それは果たして私のせいなんですかねぇ⁉︎


 ――私が覚えている限り、頭ごなしに「人前で使うな!」「見せびらかすなんてはしたない!」ぐらいのこと言わない教師や両親の記憶しかございませんが!

 ……そりゃあ、そう言われる理由を知ろうともしなかったイルメラちゃんにも、ほんのちょっとくらいは責任? みたいなものがあるような気がするしなくもないけどー。


「魔法を人前で使うのは、あまり褒められる行為ではない程度の認識はあったんですが……侯爵家の教育方針が間違っているんだと思います」

「――その辺りに関してはノーコメントを貫かせてもらうが……――その認識で、初対面の私の騎士団への誘いによく乗ったな……?」


 ――君のような勘の良い伯爵は嫌いだよ……

 しょうがないじゃ無いか……

 知識として知ってはいても、今の私にそれを守らなきゃいけないことだ、なんて認識が無かったんだから……

 それに――あの時は魔法が自由に使えて月50万とか、大当たりの職場見つけた⁉︎ ってテンションMAXだったし。

 あの時は、魔法が使える建前GET! しかもお金も付いてくる! ぐらいの認識でしたよ……


 まぁ……つまり――


「――やるなって言われることって、無駄にやりたくなっちゃいません?」

「――……それもノーコメントだな」


 私の答えにエド様は少し呆れた様子で再び肩をすくめた。

 いやいや! その反応、絶対エド様もなっちゃうやつですよね⁉︎


 実際にやるやらないは別にして、やりたくなっちゃうのは世界が違ったって、変わることなんか無いって!

 実際イルメラちゃんだってコッソリ聖女ごっこやってたし!


「……意外におてんばだったんだな?」

「……ノーコメントで」

 

 私の答えに目を丸くしたエド様はだったが、やがてクスクスと楽しげな声をあげて笑い出した。

 それが嬉しくて私もクスクスと笑い返す――


 ……最後の最後、もはや髪型もドレスも別物でメイクすら取れかけな気がしてるけど――

 この終わり方だけは“デート”っぽくなったんじゃない⁇

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