第27話
「美味しいですね!」
馬車に揺られやって来た教会で、なぜか私はおにぎりにかぶりついていた……
――久々の米うめぇー!
だから頑張って飲み込んで! 大丈夫! 身体は欲してるから! きっと飲み込めばなんとかなるからっ!
「……そう……ですね?」
向かいに座って一緒におにぎりを食べているエド様は、同意しながらも気まずそうに視線を逸らす。
――あっ……口に物を入れたまま喋るとかお嬢様にあるまじき――いや、誰がやっても普通にお行儀の悪い行為だったわ。
……でもですねエド様! 多分絶対伝わらないと思うんですけど、これ久々のお米なんですよ!
ずっと食べたかったおにぎり!
これだよー。 このしょっぱさも海苔のシナシナ感も完璧!
……これ、もう一個食べたら私の称号に大食い令嬢ってのまで加えられちゃうかなぁ……?
いっそ一度お手洗いに行ってコルセットを……――緩められる人いるかなぁ……?
――とりあえず……食べてから考えてみるってのはどうだろう⁉︎
教会に着き、挨拶もそこそこにお米を購入したいことを伝えたところ、なぜかいきなり「では……」と、おにぎりを振る舞われ始めたんだけど……――これは教会の方々がフレンドリーだからでしょうか? それとも田舎クオリティーでしょうか⁇
「試食ですか?」とか「食べに来たわけでは無く、米自体が欲しいのですが……」と、色々言ってはみたものの、返って来た言葉は「食べられない方にはお売りすることが……」だったんだけど……――この世界、そんなに米アレルギーの人が多かったり……?
でも、ちゃんと美味しく食べられるお米で良かったー。
同じ米でも、もち米やタイ米みたいなのだったら……って不安だったし。
いや、そうなったらお餅作ったり、炒めちゃって美味しくいただいてたと思うけどー。
ともあれグッジョブです!
多分大昔の高校生たちが頑張って探してくれたんだと思う。
――あなたたちのおかげで、今日の日までおにぎりはちゃんと美味しいです!
それにしても……この世界にも海苔に梅干しやおかかなんてあったんだ……?
……やっぱりお高いかなぁ?
いやでも多少お高かくっても、梅干しは今日持って帰りたい……
もしくは売ってくれる人か店の名前か場所。
「……ご令嬢がおにぎりを好まれるのは珍しい、ですな……」
おにぎりを勧めてくれたはずの司祭様が、戸惑った様子で私がおにぎりを食べるのを見ていた。
……もしかして私が2個目に手を出したからそんなに戸惑っていらっしゃるんでしょつか……?
でも「こちらが梅干しでこちらがおかかです」って説明されたらどっちも食べたくなるものだと思いませんか⁉︎
――大丈夫! 人は好物を目の前にすると胃に隙間を開けるんだって、誰かが言ってたから!
「……ん? ――でもお米って高級品なんですよね?」
首を傾げながらエド様に小声でたずねる。
私の知ってる貴族って人種は、高級であればあるだけ良いものだと信じている人ばかりでしたが⁇
「――これは……作り方が少々。 ですので女性――特にお若い貴族階級の方々には……」
私の疑問に答えた司祭様は、そこで言葉を切ると困ったような微笑みで言葉を濁した。
……作り方?
おにぎり作るのに拒否するような手順ある?
握って終わりだぜ……⁇
「――あ、
言われてみれば、私の中のイルメラちゃんの知識が『他人がベタベタ触った物を口に入れるなんてっ!』って全力で拒絶している気配を感じる。
「――作り方もご存知で?」
私の言葉に司祭様はさらに驚いたように目を丸くした。
……あー。 これは多分、作り方知らないからパクついてるんだって思われてたんだろうな。
――でも……おにぎりって言うからには……
「――手で握るから“おにぎり”ですよね?」
「そう、なのですが……」
「イルメラ様はお気になりませんか?」
戸惑う司祭の言葉を引き継ぐように、私と同じようにおにぎりを食べているエド様に確認される。
「――なりませんねぇー?」
知り合いの中には「母親が作ったの以外ムリ」て言ってた人もいたけど、私はそういうのは無い。
この世界、ビニールの手袋とかなさそうだし、そのあたりは平気で良かったかも。
――あ、最初に言われた食べられない人云々って、そういう事か!
「――そのようだな……?」
話が弾んでるから……と、3つ目に手を伸ばした私を見て、エド様が苦笑しつつ言った。
――だって久々だったんだもん!
それにサイズ感で言ったらコンビニのより小さめのおにぎりだし!頑張ったら一口で行けちゃうぐらい小ぶりおにぎりだし!
――やっぱりお嬢様的にはダメかな……?
……久々に食べたおにぎりに、がっつきすぎたかもしれない……
でもおにぎりは食べたいし……今からでもおちょぼ口にしたら印象が変わったり……?
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