第25話
あっという間に準備期間は過ぎ去り、週に一度のお休みである今日は待ちに待った念願のデート当日。
――大丈夫よイルメラ!
今日という日のために自分で自分に引いちゃうぐらい入念に執念深く準備してきたじゃない!
回復魔法で朝晩の全身ツルピカスペシャルケアに加え、資料庫のレシピ本をくまなく探して美容や化粧に関する情報を蓄えてきた!
そしてそれを元にメイドさんたちまで巻き込んで、化粧品の開発やお化粧の練習だって散々やったっ!
我ながら睡眠時間削ってまでメイクの練習してた時はちょっぴり疑問にも感じてたけど、それでもその甲斐あって、今日の私盛れに盛れてる‼︎
――期間が無さすぎてダイエットはあんまり成果が出なかったけど……――その代わり、今日はメイドさんたちが頑張ってくれた!
二人がかりで汗だくになりながらも私のコルセットをしっかり締め上げてくれた。
――いや、やばいよコルセット。
正直、舐めてたよコルセット。
めっちゃくびれる!
私のウエストこんなに細かったの⁉︎ ってくらいくびれる‼︎
……普通に息が吸えないぐらいにはキッツイけどー。
「――これはこれは……お美しゅうございます」
締め上げられる苦しさを我慢しつつ階段を降りて行くと、玄関ホールで待機していたジーノさんがにこやかに賛辞を送ってくれる。
「――少し……頑張り過ぎてしまったかしら……?」
ジーノさんと顔を合わせ、ほんの少しだけ冷静さを取り戻した私は、急激に今の自分の姿が適切ではないんじゃないか……? という不安に襲われた。
……だってさ? すけー勝手に『それって実質デートですよね⁉︎』とか盛り上がっちゃったけど……
エド様のほうからしたら、ただただ気を遣わなきゃいけない相手の買い物に同行するってだけじゃん……?
それで――
当日、こんなに気合い入った女が現れたら普通に引くのでは……?
――やっぱりラメは余計だったかなぁ……?
メイドさんに「まぁ! まるで目元に宝石が散りばめられたよう!」とか言われて、ご機嫌でキラキラさせ過ぎた気はしてるんだ……?
しかしそんな私の不安を取り払うかのようにジーノさんは力強く否定の言葉を口にする。
「まさか! 女性に気を使われて不快に思う男などおるものでしょうか」
「そうですとも。 きっとエドアルド様もお喜びになることでしょう。 私もメイド長として、鼻が高うございます」
ジーノさんに続いて声をかけてくれたのは、隣にいたカーラさん。
この人はジーノさんの奥さんで、うちのメイド長をしてくれている。
つまり……この人も私のメイク仲間だ。
率先して化粧品の開発に取り組んでくれる頼もしいメイド長だ。
「お嬢様のお化粧は、いつだってとっても素敵ですからきっと喜んでいただけますとも!」
私の後ろについてきていたメイドさんもそう声をかけてくれ、もう一人も同意するようにうんうんと大きく頷いている――
のだが……
……いや、嬉しいよ? 嬉しいんだけど……お化粧は……? ……ほかは⁇ って話になっちゃいますけど⁇
イルメラ今すごくナイーブよ?
そういう言葉尻見逃してあげられるメンタルに無くってよ⁇
顔をひきつらせながらチラリとメイドさんたちに視線を送ると、キラキラと輝く瞳とかち合う。
そして勢いよくお礼を言われた。
「ここで王都の最新技術を学べるなんて思いもよりませんでした……お嬢様ありがとうございます!」
――え? これは王都の技術では無いですよ……?
あなたたちの隣で日本語の本読んでましたよね……⁇
戸惑う私がなにかいうよりも先に、後ろから重苦しい咳払いが聞こえてきた。
「――お前たちの仕事はお嬢様のご支度の手伝い……であったはずなのだがな?」
メイドさんたちの顔をジッと見つめながら、ジーノさんはため息混じりで責めるような口調で言った。
それにそろって首をすくめるメイドさんたち。
――完全に親に叱られた子供の反応じゃん……まぁほぼ親子なんだけどー。
実はこのメイドさんたち、正真正銘ジーノさんの娘さんと、姪っ子さんなのだ。
名前はルーナちゃんとニコレちゃん。
16歳と14歳という、オシャマざかりの娘さんたちだ。
一緒にお化粧の練習をしていた仲間でもあったので、今日もそのノリで三人頭を突き合わせながら、あーでもないこーでもないと相談しつつお化粧をしていたのだが……
――たしかに主人と同じくらいばっちりメイクのメイドさんはあまり見ないかもしれない……
――でもね⁉︎ これにはちゃんと理由があるんです!
だって今日は絶対にメイクが失敗出来ない日なのだからっ!
「こ、これは……」
「あの……えっと……」
「練習がわりに、と私が無理を言って試してもらった結果なんですよ? 二人はきちんと仕事をしてくれました」
こんなにくびれも作ってくれたし、よくよく見ると、アイシャドウや涙袋の塗りかたが左右でチグハグになってたりする……
色は同じだしラメも乗せてるからそこまでの違和感は無いように仕上げたつもりだけど……本人がチグハグなこと理解してるから、きっと気持ち悪いんだろうなぁ。
……でも本気でありがたかったので、今後のために一緒にメイク禁止とかはやめていただきたい!
「お嬢様……」
私の言葉に感激したようにこっちを見つめてくるルーナちゃんたち。
……え? 私は紛うことなき事実を喋っただけですが……?
なんでそんな『私たちを庇ってくださって……!』みたいな顔してるんです……?
「――お嬢様がそう仰るのでしたら……」
ジーノさんがそう言って三人でホッと胸を撫で下ろす。
……そもそも、お仕事してるとはいえですよ?
このくらいの年代の女の子たちがすぐそばで
しかも基本、二人が私にメイクしてくれるのにさぁ……
好感度的な意味でも、私の心の安寧的な意味でも3人でワイワイ練習したほうが絶対いい!
それでここまでメイクの腕前が上がったんだし!
……それにメイクはしてもらうほうが圧倒的に楽!
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