第23話

 ――なるほど……みんな意外に私の差し入れ喜んでくれてたんだ……

 いや、わざわざ作ってこいって言われるぐらいだからある程度は口に合ったんだと思ってだけど――自分で用意するより楽でいいやーぐらいの考えが大きいのかと……

 ――無料で珍しい料理だから、ちょっと大袈裟に喜んで見せているとこもあるんだろうなって思ってたよ……


 ――つまり……ご近所さんたちもみんなみたいに本気で喜んでくれている?

 今まで通り、労働の対価が料理でも構わない説……?

 あ、バイキングみたいに振る舞う程度じゃなく、入れ物とかにちゃんと詰めてお弁当みたいにしたら特別感出るかな⁇

 ――そっか……言われてみれば、私だってなかなか食べられないお高めお菓子や料理とかだったら、報酬として十分じゅうぶんに嬉しい。

 なーんだ……十分――かどうかは分かんないけど、お礼としてはそこそこのものが返せてたのか。

 ――ん? お高めの食材……それで作った料理……?


「――……おにぎり?」

「……イルメラ嬢?」


 私の呟きを聞き取ったエド様はいぶかしげな顔をして首をひねっていたが、我ながらなナイスアイデアを思いついた私は、そのままのテンションでたずね返す。


「――おにぎりとかどう思います⁉︎」

「……それは一体?」

「あー……お米を使った、料理? なんですけど!」

「――米、か」

「仕送りが届いたので、ちょっと贅沢にしちゃおかと!」

「……ふむ?」

「ご飯って、皆で食べたら美味しいって言いますし、みんなにお礼として食べてもらったら、結構なお礼になると思いませんか?」

「――米を⁉︎」

「はいっ!」

「近所中に配ると⁉︎」

「いやいや、手伝ってくれた人だけですよー。 そこそこ高いものですし……喜んで貰える気がしません⁉︎」


 なんたって高級品だもの!

 生活費がたっぷり届いたから余裕で買えちゃうけど!

 しかもただの高級品じゃなくて、めんどくさい手続きも付いてくる高級品!

 きっとみんな、そうそう口にしてないと思うんだ!


「それは……どう、なんだろうな……?」


 エド様は視線をさまよわせ、意見を求めるように、同じテーブルに付いていたパウロ爺や先輩たちに視線を送る。

 しかしみんなは、その視線から逃れるかのように身をよじってそっぽを向く――え、セストさんまでどっか向いてんじゃん。


 ……この反応は……もしかしなくてもあまり嬉しくは、ない?


「……食べ慣れないものは嬉しく無い……んでしょうか?」


 不安になり、エド様だけではなく爺や先輩、そして見習い仲間たちにも疑問を投げかける。

 ――でもさ? お高いってことは重要と供給の需要のほうが上回ってるってことで……なら美味しいんだと思うんだ。

 しかも昔の高校生たちが広めたものなんでしょ? つまり今の人たちからすれば、大昔昔から存在してる食べ物ってことで……

 だったら全く馴染みがないって物でもないでしょ!


 ――っていうか……いい加減、私がお米食べたいっ!

 “みんなへのお礼”って名目で、ちょっとお高めな食品買うのとか、なかなかのナイスアイデアだと思うんですけどっ⁉︎


「――ジーノとよく話し合って決めるのが良いのではないか……?」


 誰とも視線が合わなかったエド様は、大きなため息をつくと、再び私に視線を移して、見て、やっぱり少し視線を揺らしながら提案したのだった――


「……そうですね!」


 優しいジーノさんなら、きっと賛成してくれるはずっ!

 (これでお礼ついでにお米が食べられる!)と、内心でガッツポーズを披露し、内心にいる旧イルメラにイヤな顔を披露された。

 ……食わず嫌いはいけないよイルメラちゃん。

 絶対後悔させないから一緒に楽しもうねっ!


 久々のお米は何で食べようか……と考えつつ、帰ったらすぐにジーノさんに提案してみよう! などと考えていると「あー……えーっと……?」と、いう声と共にセストさんがなにか言いにくそうにチラチラとエド様や周囲に視線を向けながら声を発する。


 ……なんだろ?

 ――お花摘みという名のお手洗いか……⁇


 どうしたのかとセストさんを見つめていると、一人の騎士が勢いよくテントに入ってくる。


「――すまん! ……もう終わってしまっただろうか?」

「……――全然大丈夫ですよー。 こちらへどうぞー」


 その顔と頭皮に見覚えがあったので、私は素早く出迎えながら誘導するように処置室に向かって手を伸ばした。


 ……セストさんだって、もう良い大人なんだし、トイレだろうがなんだろうがちゃんと自分で言えるでしょ。

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