第14話

 それらは入って左側――いくつものキャビネットが配置されている場所の一番奥まった場所にとんでもない大当たりが潜んでいた。

 多くのキャビネットの中には、長い羊皮紙を巻物のように丸めたり、羊皮紙が数枚から数十枚括られたりしているものが保管されていて、心踊るアイテムではあるのだが……なかなか手に取って内容を吟味する気にはなれなかったのだが――

 ある日偶然、その中のキャビネットに大当たりとも言える、もの凄い本たちが収められているのを発見した。


 そのキャビネットは部屋の一番奥、陽の光も届きにくくランプが部屋の中を照らそうともまだ薄暗い、目立たない壁に埋め込まれるように作られていた。

 キャビネット自体の細工は細かく、魔石や宝石も判断にあしらわれ、ガラスにも細かい模様が刻まれている豪華なものだったが、どこか控えめで、そこにキャビネットがあると知らなければ、存在自体に気がつくことは出来なさそうだった。

 しかもそのキャビネットには鍵がかけられていて、私はその鍵のありかさら知らなくて……

 ジーノさんあたりに聞けばすぐに分かったのかも知らないけど……もはや見つけた瞬間から、私にとっては偶然見つけた隠しクエストみたいなもんだったから、誰かにたずねて開けるより、鍵を手に入れるところから自力でやりたかったんだよねぇ。

 ……今になって考えてみるとキャビネットの鍵であっても、ジーノさんが保管してそうなもんだけど、この部屋にまとめてあって良かった。

 ……あの時は軽い絶望感に包まれたもんだけどー。

 ――この部屋の中央にある机、その引き出しの中に鍵はあった。

 問題は……この部屋のキャビネットや本に付いている鍵、全てがまとめて保管されていたことだった――

 この部屋にどれだけのキャビネットと、どれだけの鍵付き本があると思ってんのかと……

 キャビネットにも鍵付きの引き出しはついてるしさっ!


 しらみつぶしに一つずつ試していったけど……あの鍵の束の中に正解があって良かったと思ってる。

 ――無かったら……多分キャビネットのガラスぶち破ってたと思うし。


 でも時間をかけて隠しクエストを達成した報酬は大変おいしかった。

 鍵を開けて中を見てみると、そこには沢山の本が入っていて――いや、このキャビネットに入っていた本は、この資料室にたくさんあるなような豪華なものではなく、もっとこう……ジミというか質素な見た目をしていた。

 ――私の頭がもう少し上出来だったなら、その本を見た瞬間、違和感に気が付けたのかもしれないが、私がその本たちの異質さに気がついたのは本の表紙を見た時だった。


 その表紙には見慣れた――けれど、久しぶりに目にするが書かれていたのだ――

 それを理解してからその本を改めて見てみると、その少しジミな本たちは全て和紙のような植物紙で出来ていて、丈夫な糸でまとめられていた。

 それは博物館に展示されている、昔の本そのものだった。




 後日、それとなくキャビネットや中の本についてジーノさんにたずねてみたところ「ああ、あれは古代宗教文字で書かれた資料を保管しておくものだったかと……」との回答をもらった。

 そしてあの中身を集めたのが、少し昔にここで暮らしていたイルメラのご先祖様でそこそこ名の通った学者様だったらしい。

 ……正確に言うと学者もどき。

 やっていたことは学者同然だったけど、侯爵家の――しかも女性だったため『家を守ろうともせずに学者の真似事などして――』と、侯爵家が学者と名乗ることを禁じ、そしてその周囲にも学者として扱わないよう圧力をかけていたらしい。

 ……男だろうが女だろうが学者とかかっこいいし、家のためを思うなら応援して『うちの親戚こんな研究とかしててめっちゃ凄いんですよ!』ってアピールしたほうが宣伝になりそうなもんだけど……そうはならなかったんだろうなぁ……

 騎士団で働いてる私が言うのもなんだけど、貴族階級の女の下がお金稼ぎに出るのって『うちにはお金がなくて……』って宣伝して回る行為だからなぁ……

 ――まぁ、うちには立派にお金が無いんですけどねっ!


 で、そんな不遇のご先祖様が研究していた日本語――古代宗教文字。

 ――この言葉で書かれた本全てが、イルメラの人生で最大と言っても過言ではないほどに大当たりだった。


 最初に手に取った本が【農作物の分布図と時期について】とかいう本だったためか(日本語で書かれてても、その内容は小難しい専門書なんだろうなぁ……)と、その中身にはそこまでの興味はなかったんだけど……そこに書かれている日本語が懐かしく、どの本もそこまで分厚くなかったため、なにか気軽にに読めるような本を探したことがあった。

 ――そしてその時になって私はようやく理解したのだ。

 ここにある本のそのほとんどが、日本食や日本では当たり前に使われていた日用品たちの再現レシピ集なのだということに……!

 もちろん材料はこの世界の食材や品物‼︎

 中にはコスメ特化の本もあって、化粧水や乳液の作り方、口紅やアイライナーの作り方まで調べられていた。

 ――絶対に全部作り上げてみせる……!


 そしてその本に『回復魔法があれば、エステや美容整形は不要』との走り書きが書いてあり、そこから私は逆に自分の回復魔法について学ぶことになった。

 そして理解した――回復魔法がシワやシミ、ニキビにたるみといった肌トラブルにも効果があるということを!

 そして私は理解した。

 してしまったのだ!

 ――だったら白髪や薄毛にも回復魔法が効くくない……? とっ‼︎


 ――つまり、それはつまり!

 この力をもってすれば、イルメラちゃん一生美魔女化確定事案っ‼︎


 回復魔法を持って生まれて来れたこと、大いなる神に感謝いたしますっ‼︎

 ――……まぁこの国、日本語が古代の宗教文字なだけあって、神様って呼ばれる存在たくさん居るんですけどね。

 トイレの女神様もいるんだよ?

 びっくりだよね。 

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