第13話


 メイドさんたちに手伝ってもらい、外出用のドレス――といっても仕事をしにいっているから比較的動き安いものではあったが――それから家用のドレス――ワンピースに近いもの――に着替える。

 個人的にはコルセットを外してもらえるだけで万々歳!

 ……毎朝毎朝「もう少し緩く……」「治癒師が人前で倒れるわけには……」とか並べ立てて交渉して、実家よりはだいぶ緩くしてもらってるけど……――それでも着替え終わったあと、掻きむしりたくなる程度には圧迫されてる。

 ……実際一人になったら掻きむしってるし。


「ご夕飯まではいかがお過ごしになられますか?」

「明日は討伐日なので料理長とご相談できればと……」

「かしこまりました。 では準備が整いましたらお呼びに上がります」

「ではそれまでは資料室にいます」

「お茶ももそちらでお召し上がりになりますか?」

「いえ、お茶を飲んでから参ります」


 ――そうしないと今なお痒いお腹や背中を掻きむしらないからねっ!


「かしこまりましてございます」


 そういって深々と頭を下げながら部屋を出ていくメイドさんに「お願いね」と声をかけながら、ゆっくりとソファーに座る。

 ――そして完全にドアが閉まり……3、2、1。

 服の上からお腹や背中を掻きむしった。

 だからコルセットって嫌い!

 噂じゃ、締め上げすぎたせいで骨折した人だっているらしいじゃん?

 そんな危険なもん国が即刻規制しろって……




 用意してもらった紅茶とイチゴジャムが挟まったクッキーを食べながら、ホッと息をつくいて窓の外、きちんと手入れされた庭をを眺めながら、つつがなく日々を送れる幸運を噛み締める。


 ――親の金でのんびりスローライフとか思ってたのに、仕送りを完全に止められて、それでもなんとかやってこられたのは、ここで働く人たちが、みんな良い人たちばかりだったってのが大きいんだろうなぁー。


 最初は仕事さえしっかりしてくれれば……とか思ってだけど、婚約破棄された傷物に加えて、侍女の一人も連れてこず親からの支援は完全ストップ……――ナメられて職務放棄されても仕方がないんじゃと覚悟決めたよねー……

 誰一人私を侮ることなくお仕事してくれてイルメラ大感謝……


 あとはご近所さんにも恵まれたんだろうなぁ。

 こっちが貴族ってのも大きいだろうけど、ちょっとのお礼で屋敷の修理を手伝ってくれるし。

 ……少々口がお悪い人も混ざってるけど、陰険な感じじゃなく開けっぴろげって感じだし。


 クッキーを食べ終わりお茶を飲み干すと、暇つぶしがてらここのところ毎日入り浸っている資料室に足を向ける。


 ――お金がなくても毎日楽しく過ごせてるのは、ご褒美付きのお仕事と……――この資料室のおかげってのだけは間違い無い。


 ここ、資料室って名前だけどイメージ的には図書室のほうが近い。

 重厚な両扉を開けて中に入ると、目の前には腰ぐらいの高さの本棚が円状に配置されていて、その真ん中には細やかな細工が施され飴色で艶やかな机が置かれていた。

 たくさんの大きな窓から入り込む夕陽が部屋の中を赤く照らしていて、机はより一層艶やかに感じる。

 資料室を使うといってあったおかげか、部屋中のランプに火が入れられていて、奥まった場所も明るく照らされている。

 右手側にはこれまた飴色で細工が施された本棚がきっちりと詰め込まれ、左側には一つ一つ色モザイクも異なった――しかし、どことなく統一感がありキチンとした印象を受けるガラス張りのキャビネットがいくつも配置されている。


 ――本当にここはファンタジーに溢れている……好き!

 本棚の本一冊とってもファンタジーで溢れてる。

 そこに置かれたほとんどの本は、ごっつい革張りで、その多くは表紙や背表紙に魔石が嵌め込まれてたり、魔方陣が書かれていて、サイズ感もかなり大きかったり、逆に小さすぎたりと……その歪な感じが激グット!

 私のお気に入りはちょっと錆びたくさりと鍵で封印されてる本と頑丈な革ベルトが三本も付いていて、その全部に鍵がかけられてる本!

 もちろん魔石や魔法陣が付いてるのも気に入ってるけど!

 どれもこれもファンタジーしょくつよめのつよ

 ゲームか映画ぐらいでしか見たこと無いような本がたくさん並んでて、いつまででも眺めていられる。

 ――残念ながらその内容は専門的すぎて、あまり理解出来なかったけれど、私としてはその外観や、中に書かれた魔法陣、挿絵をなんかを眺めるだけで大満足。


 しかも――

 ここにはそんな心踊る本たち以上に、私の心を狂喜乱舞させてくれるものがあるのだ。

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