第11話
「……君は変わっているな?」
「……――やっぱり普通は“取り壊す”一択なんです?」
「その考えは捨ててくれ」
「……うぃ」
「――君も修復作業をしていると聞いた。 それに礼がわりにと、民たちに回復魔法もかけているんだろう?」
「だって……お礼をお支払いしようにも、先立つものがですね……? それに、大してお礼もお支払いできないのに私だけ後ろで見ているっていうのもですね……⁇」
「それでもだ。 それでも平民たちに回復魔法をかけて回る貴族令嬢など、私は聞いたことが無い」
……まぁ。
――だいぶ外聞は悪いんだろうなぁと……
思いっきり
そう言われる行為なんだって知ってる人たちからは、確実にお下品な子って思われてるんだろうなー……
――あ、そうか。 エド様もそう思ってる一人なのかも……?
そう思った瞬間、ズキリと大きく胸が痛んだ。
「――……でもですね? ちょっとだけ良いことだって起こるんですよ?」
痛んだ胸をごまかすように、わざと明るい声で答える。
「……良い事?」
「はいっ! 皆さん回復魔法が珍しいらしく、ほんのちょっとの怪我や病気でも、治してあげるとそれはそれはありがたがってくれて、チヤッチヤしてくれます!」
「……チヤッチヤ……?」
怪訝な顔つきになったエド様にふふっと笑いながら言葉を続ける。
「――私、ずっと回復魔法しか使えないってバカにされてて……力も弱いってずっと言われ続けて来て――……正直、今の扱いがすっごく気持ち良くって!」
「…………そうか」
「私! ここに来れて、魔法たくさん使えて本当に幸せですっ!」
「……それはなによりだ」
「はいっ」
――これは本当。
夢にまで見た、憧れの魔法使い生活だもん!
あ、もちろんイルメラちゃんの夢でもあり、私の夢でもある。
――私のほうは、私ってばリアル魔法少女じゃん! すげー! ってだけだけど、イルメラちゃんはずっと夢見てた。
こちらの世界にも宗教があって、聖人や聖女って呼ばれる人がいる。
そしてそんな聖人たちのことや、宗教の歴史なんかが書かれた“聖書”と呼ばれるものもある。
その中でも特に有名で大人気聖女様がいて――その人が回復魔法の使い手なのだ。
そしてイルメラちゃんはその聖女様のようになりたいと夢見ていた。
聖書に聖女が起こした奇跡として、萎れかけの花を復活させた――とあるんだけど……これイルメラちゃんも出来るんですよ!
……まぁ、回復魔法がちゃんと使える人は全員同じことが出来ちゃうんだけどー。
そもそも本物の聖女様は、もっと凄いことをたくさんしたから聖女認定されたわけで……
でも一緒は一緒!
それに騎士団に入れて騎士団に入った私には新しい楽しみかただってある!
お散歩と称して庭に出ては、そこにいる鳥やリスに回復魔法かけてたら、ケガした仲間とか連れてきてくれるようになって、やたらと懐いてくれるようになったのだ!
――つまり……私の今の密かな楽しみはリアル白雪姫ごつこだったりする。
……懐いてくれてる小鳥やリス相手に歌とか披露して、くるくる回ってるだけだけどー。
誰にバレたい趣味でも無いんだけど、どこかで教会の人とかに見られたら「まるで聖女様のようだ」とか言われる未来が待っているかも⁉︎
そしたら聖女認定は無理でも、辺境の聖女様とか言われちゃったりして⁉︎
そんなことを考えていると、ゲホンゴホン! と、わざとらしいエド様の大きめの咳払いが聞こえてきた。
どうしたのかと視線を向けると、呆れたような視線を私に向けていて……
はたと我にかえり、自分の体勢を理解する。
そっと頬を押さえていた手を膝の上に戻し、クネクネと動いてずれたであろう椅子に腰掛け直した。
――ついでにニヤけていた顔も戻してみたが……
大きなため息と共に指先でおでこあたりを抑えているエド様を見るに、手遅れなのかも知れない……
……――醜態を晒したことは理解しましたけど……声には出してませんでしたよね?
……まさか「聖女が……辺境の聖女……」だなんて独り言、言ったりしてませんよね……?
「……今日はいい天気だな?」
あからさまに話題を逸らされた……だとっ⁉︎
――その後、それとなく何度かこの話を振ってみたのだが、このことについてエド様が口を開いてくれることはなかった――
(――この場合、一体なにが正解なんだ⁉︎ 咳払いなどで注意をひかないことが正解だったのか? ――いや無理だろう⁉︎ いきなりへへ……へへへ……と、淑女らしからぬ笑みを上げ始めたんだぞ⁉︎ ……あのままなにもしなかったら、私のほうが無作法を披露していたわ! ……拾い物であることは間違いないが――なんとも規格外が送られてきたものだ……)
イルメラからの追求をにこやかにかわしながら、エドアルドは心の中で再びため息をつくいていた。
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