第10話
やっぱり引っ越したその日に決断すべきだった……
そんな私の考えが顔に出ていたのか、少し呆れたようにエド様が話しかけてくる。
「――……ジーノが君に屋敷を取り壊すと言われて焦っていたぞ」
「けれど……どれだけ歴史があっても雨漏りした家は大掛かりな修復が必要となりますよ……?」
木だよ木。
それが濡れたらカビるだけ。
日本の家屋よりはレンガが多く使われてるけど、屋根なんかほとんど木材だし、床にも壁にも木は使われてる。
それが上から順番にカビて腐っていったら、倒壊一直線なんだって……
だから私としては心機一転、取り壊していたから新しく――と思ってたんだけど……
――なんでもあのお屋敷、ただ古いだけではなく結構な由緒があるお屋敷らしく……
建築家が今は滅亡してしまった国の人で、その国の伝統様式が取り入れられてる歴史的価値の高い屋敷かつ、屋敷の至る所――玄関ホールの階段の手すりや備え付けの家具、リビングの暖炉の棚飾りなど――に有名彫刻家の作品が使われているだとか……
その他にもそこそこ名の知れた学者が住んでいた歴史やその学者が残した文献が数多く残されているんだとか……
「いっそ建替えませんか?」とたずねた私に、それらをつらつらと並べ立てたジーノさんたちからは、それは見事な断固とした大反対を受けていた――
そう言われちゃうと壊すのは忍びなくなっちゃうけど……――でも雨漏りしてるんだよ?
しかも仕送りも無くて、使えるお金は私のお給金とお母様から貰った宝石だけ。
ジーノさんたちのお給金はちゃんと支払われてるって話だからそこは安心だけど……
屋敷に使えるお金にそこまでの余裕はない。
……だってこの先一生仕送りなかったら、宝石だけで買い繋がなきゃいけないんだから。
だから……今は屋敷より私たちの暮らしを守ることを優先したいんだけどなぁ……
私の送り迎えで毎日会ってるからって、エド様まで味方につけようとして……!
「節約できるところはしたいですし……」
そう言葉を濁した私から、まだお屋敷の修繕には前向きではないと感じたのか、エド様は非難するかのような視線を向けてくる。
――エド様は外見しかろくに見てないからですよっ!
あの惨たらしい廊下を見たことがないからそんな事が言えるんですっ!
あんなボロボロの壁紙にシミだらけの天井!
お金がないなら取り壊す一択なのに……
いくら歴史があっても昔は凄かったとしても、家は今が快適じゃなきゃ意味が無いんですぅーっ!
「ご近所の大工さんも取り壊して、小さくても新しいお家にしたほうが予算的にも管理的にも負担が少ないというご意見を頂いていていましてですね?」
取り壊して小さな家建てるなら、お母様にもらった宝石の5、6個でなんとかなるってちゃんと言われてるのに!
私としてはジーノさんたちが考えを変えてくれたなら、すぐにでも取り壊してしまいたいよ。
「――あの屋敷はだな? 歴史も由緒ある建造物でだな? 図書室や資料庫に残っている本や資料もそれは価値のある……」
「……エド様、ジーノさんと同じこと言ってますけど……?」
「――そうだろうとも……」
――そちらが呆れたように言ってらっしゃいますけど、呆れたいのはこちらも一緒ですからねー⁉︎
使える予算に限りがあるのに、なぜ予算が
――私の意見のほうが少数派だからなんだけどねっ!
「……妥協案というか――ジーノさんたちの要望で、ご近所さんたちに手伝ってもらって、自分たちで直せる所は直しましょう。 ってことに、なりはしたんですけど……」
――でもこの案は、私の中のイルメラちゃんが大反対している。
(屋敷の中まであんなに沢山の者を入れるなんてあり得ませんわ⁉︎ なんて非常識なっ‼︎)
……って、強く強く拒否しているのが分かる。
――でも、取り壊さないなら直すしかなくて……かと言って大工さんたちに全部をお願いできるほど潤沢な予算などうちにはない。
そしてこれから増える予定も無い。
もっと言うなら、自分たちで出来ることにも限りがある。
……出来るなら今頃こんなことで悩んでない。
つまり――誰かに手を貸してもらわなければ、壁も屋根も直らないし隙間風も無くならない。
と言うわけで――うちの屋敷を直すために、ご近所さんどころか出入りの業者までもがうちの屋敷内を闊歩しているどころか、なんの躊躇もなくうちの屋敷に入って来ている。
……いいんだ。 うちどうせ門番なんかいないし、雇うお金もない。
――……よくよく考えてみたら、私ジーノさんたちのお給金、ジーノさんたちから「大丈夫でございますとも。 お嬢様が心配するようなことはなにもございませんよ」とか言われて無いけど……――本当に大丈夫なんだよね……?
お父様、そこはちゃんと支払ってる……よね?
娘に嫌がらせしたくて、その使用人の給料も止めるとか、人として終わってるようなことにしてないよね……?
――娘は信じているよ……⁇
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